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バスなのに…実は法律上「鉄道」だった?!現役鉄道社員が語る、日本から消えた「バス」の“意外な正体”

  • 2026.3.17
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出典:photoAC(※画像はイメージです)

皆さま、こんにちは。現役鉄道会社社員の福本明文です。

かつて日本の都市交通のひとつとして活躍し、近年までは山岳観光の主役として親しまれてきた「トロリーバス」は、バスのような車体に路面電車のような集電ポールを載せたその独特な姿で、乗り物ファンのみならず多くの人々に愛されてきました。しかし、2024年、日本国内からついにその定期運行の灯が消えました。この現象は日本に限ったことなのでしょうか。

今回は、トロリーバスの世界で進む世代交代の波と、形を変えて進化する未来の姿について見ていきたいと思います。

トロリーバスとは何か?「鉄道」として扱われる理由

トロリーバスは他の車両と一緒に道路を走行し、四角く大きな車体をもつ姿は文字通り「バス」そのものです。しかし、法律上は「無軌条電車(むきじょうでんしゃ)」として「鉄道」の扱いを受けます。

通常のバスはディーゼルエンジンで自走しますが、トロリーバスは道路上に張られた架線から電力を取り入れ、電動モーターで走行します。レールはありませんが、架線が張られている位置が固定されているために決まったルートを走る性質から、日本の法律(専用道では鉄道事業法、一般道では軌道法)では鉄道の一種と定義されています。

このため、運転士は鉄道の運転免許である「動力車操縦者免許」を取得しなければなりません。この「バスなのに電車」というギャップこそが、トロリーバスの持つ大きな魅力の一つでした。

日本におけるトロリーバスの歩みと終焉

日本におけるトロリーバスの歴史は、1928年に兵庫県宝塚市で始まった営業運行が先駆けです。その後、京都や名古屋で路線が開設され、戦後には東京、横浜、大阪といった大都市圏にも次々と広がっていきました。

トロリーバスに使われていた電気モーターは、当時の性能の低いバス用エンジンと比べて出力があり、復興期の大量輸送にも対応できました。また、騒音や振動が少なく、排気ガスも出ないのが魅力的なポイントです。当時の都市交通の主役だった路面電車の技術が応用でき、ノウハウも生かすことができました。

しかし、その黄金期は長くは続きません。1960年代後半から70年代にかけて、自家用車の普及による交通渋滞の悪化や、地下鉄網の発達により、トロリーバスは次々と姿を消していきました。

最後まで残ったのは、立山黒部アルペンルートの山岳地帯を走る関電トンネルトロリーバス2018年運行終了)と、立山トンネルトロリーバス2024年運行終了)の2路線でした。これらはトンネル内での排気ガス滞留を防ぐという目的で存続してきましたが、いずれも車載バッテリーで走る電気バスへと置き換えられ、日本国内からトロリーバスの営業路線は完全に消滅することとなりました。

世界でも進む「トロリーバス離れ」の現状

日本で姿を消したトロリーバスですが、実は世界規模で見てもその勢力図は縮小傾向にあります。

かつては世界最大のトロリーバス網を誇ったロシアの首都モスクワでは、保存路線の1路線を残してほぼすべての路線が廃止され、ディーゼルバスや電気バスに置き換えられてしまいました。

また、アジア最大級の規模と言われた中国の上海でも、路線の縮小が続いています。中国は国を挙げて電気バスの普及を強力に推進しており、新しい電気バス車両への移行が急速に進んでいます。

なぜ今、トロリーバスは消えていくのか

トロリーバスには、ディーゼルバスと比べて騒音や振動が少なく排気ガスもないといった多くのメリットがありました。また、構造が単純で、量産されれば車両価格を抑えることも可能です。では、なぜ姿を消しつつあるのでしょうか。

まず考えられるのが架線設備のコストです。トロリーバスを走らせるには架線や変電所が必要で、維持・更新に莫大な費用がかかります。路面電車はさらに軌道設備も必要ですが、路面電車よりも輸送力の小さいトロリーバスにはこうした設備の維持にかかるコストは大きな負担となります。

また、バッテリーの進化にも注目です。以前は重くて容量が少なかったバッテリーが、近年の急速な技術進歩により、軽量・小型・大容量化し、急速充電技術も飛躍的に向上しました。このバッテリーを使った高性能な電気バスの実用化によってトロリーバスの優位性が薄れてしまったのです。

ヨーロッパで見られる「進化系トロリーバス」

一方で、トロリーバスが完全に過去の遺物になったわけではありません。東欧や中央アジアなどでは今でも市民の足として現役です。

最近では、東欧などではトロリーバスにディーゼルエンジンを搭載し、架線がある区間ではトロリーバス、架線のない区間はディーゼルエンジンを使って通常のバスとして走行する「ハイブリッド・トロリーバス」が運行されているところもあります。

また、「イン・モーション・チャージング(IMC)」と呼ばれる技術も登場しています。これは、架線がある区間ではトロリーバスとして走行しながら充電もおこない、架線がない区間ではバッテリーで自走する車両です。このバスは電気バスの柔軟性を持ちながら充電する時間を短縮することもでき、いわばトロリーバスと電気バスのいいとこ取りです。

「レールレス路面電車」という新たな可能性

さらに、トロリーバスの概念をさらに進化させたような次世代交通システムも登場しています。中国などで開発と導入が進んでいる「ART(Autonomous Rail Rapid Transit)」は、路面の磁気マーカーや白線をセンサーで読み取って自動走行する、いわば「レールレス路面電車」です。

見た目は路面電車のようですが、ゴムタイヤで道路上を走行し、架線もレールも必要ありません。これは、かつての「無軌条電車」がデジタル技術と融合し、より洗練された形で復活した姿とも言えるでしょう。

今後、トロリーバスが姿かたちを変えて、再び日本の街並みに現れる日が来るかもしれません。その時、それは「懐かしい乗り物」ではなく、最新のテクノロジーをまとった「未来の乗り物」となっているはずです。


参考:
立山トンネルにおける無軌条電車(トロリーバス)事業廃止の届出及び電気バスへの変更計画について(立山黒部貫光株式会社)
日本唯一のトロリーバス(黒部ダム)
CRRC ART Introduction(CRRC Zhuzhou Institute Co., Ltd.)



ライター:福本明文
大学卒業後、鉄道会社に総合職として入社し、鉄道業界を15年以上経験。鉄道部門だけでなく、関連事業部門のタクシーやバス、小売りなどを幅広く経験。現在はWebライターとしても活躍し、広報を担当した経験からコラム記事の執筆からSNSへのコンテンツ提供まで幅広く活躍中。


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