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「重要指名手配犯を捕まえた」SNSで相次ぐ、再生数稼ぎの“虚偽動画”…→弁護士「損害賠償請求を受ける可能性が」

  • 2026.1.27
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出典元:photoAC(※画像はイメージです)

「重要指名手配犯を見つけた」「痴漢を撃退した」──YouTubeやTikTokでは、こうした過激なサムネイルの動画が数多く投稿されています。中には、再生数を稼ぐために「※この動画はフィクションです」「演出です」と注釈をつけ、街中で大声を上げたり逃走劇を演じたりする“やらせ(ドッキリ)”も散見されます。

配信者側は「嘘だと書いているから罪にはならない」「出演者は全員仲間だから被害者はいない」と主張するかもしれませんが、果たして法律はそんな言い訳を認めるのでしょうか? もし通行人が本気にして警察に通報したら?勘違いした人が割って入り、怪我人が出たら?

今回は、寺林智栄 弁護士にインタビュー。再生数の裏に潜む「注釈の法的効力」や「施設側からの損害賠償」、そして予期せぬトラブルが起きた際の「責任の所在」について解説していただきました。

「注釈」は免罪符にならない。通行人が110番した時点で成立する「偽計業務妨害罪」の現実

---動画内で「これはフィクションです」と注釈をつけてさえいれば、街中で「待てー!」「警察を呼べ!」と騒いで、通行人に110番通報されてしまっても罪には問われないのでしょうか?

寺林智栄さん:

「ご質問のケースでは、たとえ動画内に「これはフィクションです」という注釈があったとしても、現実の公共空間で人々を巻き込み、実際に110番通報が発生した時点で法的責任が問題になります。

まず考えられるのが、偽計業務妨害罪(刑法233条)です。

虚偽の事実を用いて警察の業務を妨害したと評価される可能性があり、警察官の出動や対応が現実に生じていれば成立しやすい罪です。また、内容や態様によっては「待て」「警察を呼べ」と大声で叫ぶ行為自体が、周囲に強い不安や混乱を生じさせるとして、威力業務妨害罪(刑法234条)が問題となることもあります。

さらに、実際に犯罪が起きていないにもかかわらず緊急通報を誘発した場合、軽犯罪法1条16号(虚偽の申告による官公署の出動)に該当する可能性も否定できません。

重要なのは、「フィクションのつもりだった」「注釈を入れていた」という配信者側の意図ではなく、第三者である通行人が現実の事件と誤認し、社会的影響が生じたかどうかです。演出であっても公共の安全や警察活動を混乱させれば、刑事責任を問われ得る点には注意が必要です。」

「全員サクラ」でも施設側は被害者。「駅」や「コンビニ」から請求される営業妨害と賠償金

---犯人役も被害者役も全員が協力者(サクラ)で、人間同士の被害がない場合でも、撮影場所となった「駅」や「コンビニ」などの施設側から損害賠償を請求される可能性はありますか?

寺林智栄さん:

「ターゲット役(犯人役)も協力者であり、出演者同士では合意があったとしても、撮影場所となった駅やコンビニなどの施設管理者との関係では「誰にも被害がない」とは言えません。

まず問題となるのが、無断撮影や迷惑行為による不法行為責任(民法709条)です。駅やコンビニは多数の利用者が出入りする場所であり、施設管理者には安全で円滑な利用環境を維持する義務があります。やらせ動画によって利用客が驚いて混乱したり、苦情対応や警備対応を余儀なくされた場合、営業妨害として損害賠償請求を受ける可能性があります。

具体的な損害としては、警備員の増員費用、従業員の対応に要した人件費、営業停止や売上減少があればその逸失利益などが考えられます。また、駅構内や店舗内は原則として撮影許可が必要であり、利用規約や管理規則に違反した場合には、契約違反または使用権侵害を理由に損害賠償や差止めを求められることもあります。

さらに、施設の信用やイメージが「危険な場所」「トラブルが起きる場所」として損なわれた場合には、信用毀損による損害が問題とされる余地もあります。出演者間で合意があっても、公共性の高い施設を無断で利用した以上、施設側に対する法的責任は別途生じ得る点に注意が必要です。」

正義感の強い通行人が“ガチ介入”して怪我人が出たら? その責任は全て「企画者」に跳ね返る

---もし撮影中に、事情を知らない正義感の強い通行人が「本物の犯罪」と勘違いして割って入り、演者が怪我をしてしまった場合、その責任は誰が負うことになるのでしょうか?

寺林智栄さん:

「この場合、第一に問題となるのは、やらせ動画を企画・撮影・配信した側の責任です。

演者同士が合意していたとしても、公共の場で「犯罪が起きている」と第三者に誤信させる状況を作り出した以上、結果についての法的責任を免れることはできません。

民事上は、通行人が介入して演者が負傷した場合でも、配信者には危険な状況を予見し得たにもかかわらず防止措置を取らなかったとして、安全配慮義務違反や不法行為責任(民法709条)が認められる可能性が高いです。いわゆる「第三者の行為」が介在していても、その介入が通常予想される範囲内であれば、因果関係は否定されません。

一方、割って入った通行人についても、状況次第では責任が問われ得ます。正義感からの行動であっても、過剰な有形力を用いれば過失傷害が成立する余地はあります。ただし、「本物の犯罪が起きている」と合理的に信じた事情があれば、違法性や過失が軽減されたり否定される可能性もあります。
結論として、事態を作り出した配信者側が最も重い責任を負う構造になりやすく、通行人の行為は限定的に評価される傾向があります。」

再生数より重い“代償”を覚悟すべき

「面白い動画を撮りたい」という軽い動機で行った行為でも、公共の場所を巻き込んだ時点で、それは個人の遊びの範疇を超え、法的な監視下に置かれます。

寺林弁護士の解説を整理すると、以下の3点が重要な警告となります。

  1. 「フィクション」は通用しない:画面の中の注釈は、現場にいる通行人や警察官には見えません。現場を混乱させれば即犯罪です。
  2. 場所貸しへの責任:「誰も傷つけていない」は通用しません。施設や店舗に迷惑をかければ、警備費や逸失利益などの賠償責任が発生します。
  3. 予期せぬ事故の責任:勘違いした通行人が介入して怪我人が出た場合、その全責任は「紛らわしい状況を作った配信者」にあります。

過激な演出で一時的に注目を集められても、その代償として前科がついたり、高額な賠償金を背負ったりしては本末転倒です。 動画を作る側も見る側も、「公共性」と「法律」のラインを正しく理解し、冷静な判断を持つことが求められています。


監修者:寺林智栄
2007年弁護士登録。札幌弁護士会。てらばやし法律事務所。2013年頃よりネット上で法律記事の執筆・監修を開始する。Yahoo!トピックスで複数回1位を獲得。読んだ方にとってわかりやすい解説を心がけています。