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【完全版】「サッカーの『連帯貢献金制度』とはなにか」後編

  • 2025.12.16

Qolyアンバサダーのコラムニスト、中坊コラムの中坊氏によるコラムをお届けします。

3.どのようにしてクラブや学校法人に振り込まれるのか

前編では「育成補償金との違い」、「海外移籍後は同国内移籍でも連帯貢献金は発生する」点について解説した。続けて後編でも解説していく。

前編を読んだ方々は、以下の感想を持つだろう。

「連帯貢献金制度って最高では!?」

「でも、街クラブや高校がちゃんとヨーロッパのクラブへ請求手続きできるのか?」

「自動的に振り込まれるわけではないし、取りはぐれるのでは?」

「実際に高校へ振り込まれたニュースってあるの?」

この取りはぐった事例については過去、相当数が発生したと思われる。

★具体例

連帯貢献金ではないが、前述の育成補償金、これについては2011年1月に中京大中京高校からイングランド・アーセナルに加入した宮市亮の事例で「中京大中京高校はアーセナルに育成補償金を請求しなかった」という報道があった。同様に、内田篤人についても清水東高校は連帯貢献金を受け取っていない報道もある。

画像: 宮市亮 (C)Getty Images
宮市亮

サッカー界移籍ビジネスのノウハウが全くない学校法人側からすれば、単独でアーセナルと手続きするのがいかに難しいかは想像に難くない。

そのため、香川真司がセレッソ大阪からドルトムントへ移籍した際はセレッソ側が手続きを一括で行い、香川が高校生時代に在籍していた街クラブ・FCみやぎバルセロナに対して配分したという事例もあった(FCみやぎはそのお金でクラブ専用グラウンドを造ることができた)。

同様に、長友佑都のセリエA移籍時はFC東京が、本田圭佑のロシア移籍時においては名古屋グランパスが学校側の手助けをしたという報道がなされた。

過去のこのような個別の手間がかかるやりとりから改善され、今はJFAが一括手続きを行い、Jクラブのみならず街クラブや学校法人分も含めて請求、受取、配分を行っている。

このあたり、JFAがトップ組織として見事なロジ調整を行っているため、取りはぐれは起きていないという状況である。

むしろ、学校法人側はただ連帯貢献金を受け取る形なので内容をあまり把握していない。

★具体例

2023年に遠藤航がシュトゥットガルトからリヴァプールへ移籍した際、遠藤の育成期間に該当する横浜市立南戸塚中学校にも連帯貢献金は発生するが、移籍発表当時、その件について中学に問い合わせた人からのタレコミ曰く、学校側は連帯貢献金について全く把握していなかった(対応者は女性の副校長)。

画像: 遠藤航 (C)Getty Images
遠藤航

それでもJFA側が全て一括対応しているので数千万円振り込まれるため、問題なしといったところか。(ただ、中学にそのまま振り込まれるわけではなく、横浜市教育委員会に振り込まれる可能性もある)

事実、地元紙において学校に連帯貢献金が振り込まれた恩恵を伝えるニュースもある。

★具体例

伊東純也の事例だが、彼が高校生時代在籍していた神奈川県立逗子葉山高校(旧・逗葉高校)にて、2022年にベルギーのKRCヘンクからフランスのスタッド・ランスへ移籍した際に発生した連帯貢献金が、逗子葉山高校に振り込まれたことが報じられた。

「関係者が頭を悩ませていたところ、卒業生でサッカー日本代表でも活躍する伊東純也選手から思わぬ形で受け取った。(中略)逗葉高校サッカー部に連帯貢献金が入った。サッカー部が他の部活での使用を快諾し、貢献金の一部をユニフォーム一新に充てた」

高校だけではなく、大学側でも連帯貢献金が振り込まれた報道があり、こちらは神奈川大学のニュースだが、連帯貢献金を活用して神奈川大学サッカー部の食堂が開設され、大学名(神大=じんだい)と伊東純也にちなんで「JJ食堂」と命名されている。

画像: 伊東純也 (C)Getty Images
伊東純也

しかし、今後は懸念がある。

前述の通り、サッカー界移籍ビジネスのノウハウが全くない学校法人側からすれば、単独でヨーロッパのクラブと手続きするのが困難であるため、JFAが一括手続きを行い、Jクラブのみならず街クラブや学校法人分も含めて請求、受取、配分を行っていた。

それが、今後は不可能となる制度変更がなされてしまったのだ。

2024年度から、FIFAと各サッカークラブ・団体が直接やりとりする形に変更。

「協会やビッグクラブ側での代理請求は不可、街クラブや学校法人が直接FIFAと手続きを行わなければならない」、というFIFA決定事項。

しかも「法人化していない団体には振り込みできない」というルールも大きなハードルとなる。

このため、街クラブや学校法人側からすると請求手続きの難易度が格段に増した。

現在、連帯貢献金の業務フローは以下の通りである。

1.選手が移籍金ありで移籍
2.FIFA→移籍先クラブ:連帯貢献金を回収する通告
3.移籍先クラブ→FIFA:FIFAの口座に連帯貢献金を送金(送金しない場合、制裁金が科される)
4.選手を育成したクラブ→FIFA:連帯貢献金を請求
5.FIFA→育成クラブ:請求を受けて、FIFAから各クラブへ分配

このフローにおける「4」の部分をJFAではなく今後は各クラブ・学校法人が直接行う必要がある。

何故このような制度変更になったのか?

これは、今まで獲得したクラブ側が育成したクラブへ直接支払う仕組みだったが、獲得したクラブ側が支払わず、連帯貢献金未払のトラブルが頻発したためである。

もうこれは容易に想像がつく。そもそも選手への給料未払問題が発生しているヨーロッパや南米のクラブは沢山あるし、連帯貢献金の未払なんて日常茶飯事だったのだろう。

そうなると、FIFAが間に入って一括管理し、未払問題を解決するという目的での制度変更はよく理解できるし当然の変更だ。

ただ、日本の街クラブや学校法人がFIFAに請求するのは困難なのも事実。

対応策としてはJFAが各クラブや学校法人へ本件を熟知しているスペシャリストの担当者を派遣する等のサポートをする形ではないだろうか。

4.あとがき

ここまで読んでいかがだっただろうか。

「複雑だが、サッカー界の素晴らしい制度」という感想が大半だろう。

そのうえであとがきとして2点述べたい。

1.複雑さゆえにプロのサッカー関係者ですら理解しきれていない

2.マネーゲーム加熱、移籍金高騰の世界は肯定するしかない

1点目は、「複雑さゆえにプロのサッカー関係者ですら理解しきれていない」。

★誤った具体例

私が以前、古橋のセルティック→レンヌ移籍の際に連帯貢献金の発生および金額についてXにてツイートしたところ、「今回の移籍で育成金は払われませんよ」と知り合い経由でプロのサッカー関係者の方から突っ込みがなされた。

こちらからすると、いやいや、連帯貢献金が発生しますよ、というか育成金ではなく連帯貢献金ですよ、と返したのだが「古橋と同行している唯一の日本人関係者の立場だが、今回の移籍では発生していない」と誤認が続いていた。

画像: 古橋亨梧 (C)Getty Images
古橋亨梧

のちに、突っ込みを入れてきたのはサッカーのエージェント会社CAA BASEに所属する横尾理一氏だと明るみになった。

ちなみに、当然のことながら私の認識通り、「連帯貢献金は発生する」が正しかった(あとで聞いたところ、横尾氏はやはり連帯貢献金を育成補償金と勘違いしていた)。

ここで取り上げた理由は、決して横尾氏を責める目的ではなく、「選手と直で仕事をしているプロのサッカー関係者ですら、制度を理解していない」という事例として紹介するためである。

自分としてもこの出来事は結構驚きで、「プロの関係者ですら理解しきっていないとは…。この制度は本当に複雑なんだな」というのを改めて認識した。

実際、マスメディアにおいても移籍金の報道はされても、連帯貢献金についての報道はほとんどない。理由は単純で、制度が複雑で自分達では理解できない・計算できないためだろう。

サッカーファン・サポーターからすれば注目度の高いお金の話なので、ここは是非、プロならば理解を深めて移籍金とセットで報道してほしいところだ(私みたいなアマチュアがプロ以上に知識を有してしまい、最先端に位置してしまう状況はおかしいので)。

2点目の「マネーゲーム加熱、移籍金高騰の世界は肯定するしかない」。

これはどういうことかと言うと、ヨーロッパ、特にイングランド・プレミアリーグでは移籍金の高さがあまりに高騰しすぎていて、サッカー関係者ですら「馬鹿げている」「狂気だ」と呆れていることがしばしばある。

画像: (C)Getty Images

自分も、放映権拡大や年俸高騰も含めて、バブルが過ぎると思うしこの肥大化はどこかで止めた方が望ましいかとも思っていたが、この連帯貢献金のシステムがある以上、「マネーゲーム加熱の世界、(やむを得ず)肯定」と考えを改めた。

何故か?理由は単純。

移籍金の異常な高騰に伴って、日本の街クラブや学校法人に莫大なお金が配分されるからだ。

前述の古橋の移籍に伴う、トータルの連帯貢献金をもう一度見てほしい。

アスペガス生駒FC:約3,500万円
興國高校:約7,000万円
中央大学:約9,000万円
FC岐阜:2,300万円

J3のFC岐阜にとっても高額だが、大学、高校、街クラブにこんな数千万円のお金が転がり込むのは本当に素晴らしい。

設備面の拡充、運営費・遠征費の補助…、とてつもないメリットがある。

学校法人ならばサッカーに限らず、伊東純也の例のように、別の部活動や食堂等の設備面にもこのお金をまわすことができる。

なんてありがたい金額か。一般人の寄付とは桁が違う金額が振り込まれる。

日本サッカー界、さらにはその他スポーツ界において、街クラブや学校法人の部活等にここまでの金額が入ることの貴重さ、重要性を痛感するし、新たなtoto助成金の類いが生まれたようなもの。

これもマネーゲームが過熱したからこその恩恵だ。

なので、この制度がある以上、ヨーロッパサッカー界におけるマネーゲームの肥大化は否定できない。日本の子供達、学校教育に携わる方々へ、こんな多額のプレゼントは他にないからだ。

以上、連帯貢献金の制度概要、具体的事例詳細、今後の課題、そして自分の考察含めて記載した「連帯貢献金制度の完全版」である。

理解が深まっていただければ幸いだ。

筆者:中坊

1993年からサッカーのスタジアム観戦を積み重ね、2024年終了時点で997試合現地観戦。特定のクラブのサポーターではなく、関東圏内中心でのべつまくなしに見たい試合へ足を運んで観戦するスタイル。日本国外の南米・ヨーロッパ・アジアへの現地観戦も行っている。

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