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スポーツファンの声に寄り添い急成長 Fanatics Japan・川名正憲氏が語るスポーツビジネスが秘めた可能性

  • 2025.12.16

福岡ソフトバンクホークスの日本一や、ロサンゼルス・ドジャースのワールドシリーズ制覇などが注目を集めた2025年も、早いもので残り1ヶ月ほどとなった。今年もさまざまな話題を振りまいたスポーツ界だが、ファンの盛り上がりを影で支えたのが、グッズ販売を中心にスポーツライセンス事業を行うファナティクス・ジャパン合同会社(Fanatics Japan G.K)だ。今年8月(確認)は「ファンも社員の皆さんもテンションの上がるような」新オフィスを麻布台ヒルズにオープンするなど、成長を続ける同社代表の川名正憲氏に、ビジネスの現状や今度の課題を伺った。

女性ファンの“推し活”がスポーツ業界を牽引

画像1: ©Fanatics Japan
©Fanatics Japan

アメリカ・フロリダ州に拠点を置くファナティクスの日本法人として、2018年に設立されたファナティクス・ジャパンは、プロ野球5球団、Jリーグ5クラブ、Bリーグ2クラブのパートナー契約を結び、スポーツ業界の盛況を裏で支えている。

「スポーツが地元に根差しているという点においては、日米の状況にさほど変わりありません。ただ米国ではあまり見られない選手個人を応援するファンが多く存在する点が、日本のスポーツ界の特徴であるように感じます」

画像: ©Fanatics Japan 新社屋のお披露目イベントで、ビジネスモデルについて語る川名氏
©Fanatics Japan 新社屋のお披露目イベントで、ビジネスモデルについて語る川名氏

日本のスポーツ市場の傾向を語った川名氏は、今後の展望についてもこう続けた。

「2020年にコロナ禍が襲来した影響で、一時は業界全体の売り上げが大きく落ち込みましたが、その収束とともに右肩上がりの状況が続いています。特に、女性ファンを中心としたスポーツ選手個人の“推し活”は年々盛んになっているのが最近の傾向で、売り上げ全体に占める“推し活”需要の割合も、時を追うごとに高まりを見せています。現在も、選手個人を応援する日本のファンに刺さるような商品の開発を続けていますが、今後も選手によるプロデュース商品をはじめ、選手個人のファンに刺さるような企画や、ニーズに沿ったオリジナルライセンス商品の展開にも力を注いでいきたいです」

IPの活用がスポーツビジネス成長のカギ

画像: ©Fanatics Japan 新オフィスには契約チームのロゴが並ぶ
©Fanatics Japan 新オフィスには契約チームのロゴが並ぶ

日本では2015年に設立されたスポーツ庁が、スポーツビジネスの市場規模拡大に力を入れることを宣言。2012年に5.5兆円だった市場を、2025年には15.2兆円に拡大することを目標に、さまざまな施策を展開してきた。その機運の高まりもあり、日本ではこの10年間でバスケットボールや卓球、女子サッカーなどでプロリーグが新たに誕生。スポーツ界に変化の兆しも見られるが……。海外諸国と比較すると、ビジネスの規模において、まだまだ成長の余地があるのが実情だ。

参考:新たなスポーツビジネス等の創出に向けた市場動向(スポーツ庁・平成30年3月)

画像: ©Fanatics Japan Fanaticsの歩んだ歴史や日本法人が行う事業について語る川名氏。同氏が着用するドジャースのユニフォームは、村上隆氏とのコラボレーション仕様で、MLB開幕戦の際に販売され、即日完売となった人気アイテムだ。
©Fanatics Japan Fanaticsの歩んだ歴史や日本法人が行う事業について語る川名氏。同氏が着用するドジャースのユニフォームは、村上隆氏とのコラボレーション仕様で、MLB開幕戦の際に販売され、即日完売となった人気アイテムだ。

川名氏は、スポーツ団体が保有する映像や肖像権のような「IP(Intellectual Property /知的財産)を使ったビジネスに活路があるのでは?」と、自身の見解を明かした。

「個人的には日本のスポーツ界において、リーグ全体でIPを活用する動きがまだまだ少ないように感じますし、米国で展開されているビジネスモデルには、さらなる収益化のヒントが隠されているように感じます」

そして川名氏は米国での実例を交えながら、収益をもたらしうるIPの活用法について、持論を展開する。

画像: ©Fanatics Japan オフィスのロビーには日米のプロ野球、Jリーグなど契約チームのユニフォームが所狭しと並ぶ。
©Fanatics Japan オフィスのロビーには日米のプロ野球、Jリーグなど契約チームのユニフォームが所狭しと並ぶ。

「例えばMLBは、全球団が同一メーカーのユニフォームを着用しており、トレーディングカードも1社の単独契約です。

IPを一つの企業が管理することにより、リーグ全体での情報発信やプロジェクトの運営もしやすくなりますし、1社が長期間の契約を結ぶことで、権利そのものの価値を高め、市場への長期的な投資も可能になる。人気選手がデビュー戦で着用したユニフォーム入りのカードのような価値の高いアイテムも、単独契約を結んでいるからこそ実現しうる企画です。今すぐに実現させられるものばかりではないと思いますが、米国などのIPを使ったビジネスのフレームには、参考にすべき点が多くあると感じています」

「スポーツの不確実性も強みに」ファナティクスのビジネスモデル

画像2: ©Fanatics Japan
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米国のMLBやNBA、そしてチェルシーやパリ・サンジェルマンといった欧州の人気フットボールクラブとも連携するファナティクスの強みは、スポーツファンの感情に寄り添ったグッズの企画、販売だ。旬なアイテムを製造から販売まで一貫して行う体制は、多くのスポーツ関係者やファンの支持を集めており、その信頼も厚い。

「スポーツは結果が予想できないもので、グッズの売り上げ予測と実売額に乖離が生まれないように運営する難しさや、前例がない故の大変さもありますが、私たちはそれも魅力の一つと捉えています。強みとするSCM(サプライチェーン・マネジメント)を生かし、これからも事業を展開していけたらと考えています」

そう語る川名氏の言葉通り、2018年の日本法人設立以来、翌2019年に福岡ソフトバンクホークス、2年後の2021年には北海道日本ハムファイターズと長期提携を実現。

同年にはサッカーJ1リーグの清水エスパルスと10年間の戦略的パートナーシップ契約を、その後もセレッソ大阪(2022年)、鹿島アントラーズ、サンフレッチェ広島、V・ファーレン長崎(2024年)とも契約を締結。クラブのグッズ売り上げにも多大な貢献を続けている。

Nikeと共同で読売ジャイアンツとパートナー契約を締結

画像: ©Fanatics Japan Officeお披露目イベントでは、人気YouTube「上原浩治の雑談魂」の公開収録も行われ、川名氏は、巨人とMLBで活躍した上原浩治氏と上重聡アナウンサーと「日本のプロ野球マーケットを10倍にする方法」などの本音トークを展開した。
©Fanatics Japan Officeお披露目イベントでは、人気YouTube「上原浩治の雑談魂」の公開収録も行われ、川名氏は、巨人とMLBで活躍した上原浩治氏と上重聡アナウンサーと「日本のプロ野球マーケットを10倍にする方法」などの本音トークを展開した。

2018年の日本法人設立以降、6年間で5倍以上の売り上げを記録し、年間1億ドル(約150億円)を超えたファナティクス・ジャパンは2022年11月、「会社としても、個人としても大きな目標であった」という読売巨人軍との包括的パートナーシップ契約を締結。

MLBで実績のあるスポーツメーカー大手Nikeブランドの商品をファナティクス・ジャパンが企画・生産し、流通していくスキームを取り入れ、読売巨人軍のMD事業改革に着手した。

「巨人さんの『グッズ開発に力を入れていきたい』という思いに応えるべく実現に至った」というこのスキームは日本初、1球団による採用は世界初という革新的なものだ。

「これまで大量に蓄積されたデータやAIといった最新技術も駆使しつつ、トレンドや新たな発想。それぞれのグッズが持つストーリー性なども重視し、制作にあたっている」そう。

ファンに向けた思いが込められたグッズの数々は、ファナティクス・ジャパンが運営する球団公式通販サイト「ジャイアンツオンラインストア」や、東京ドームの直営グッズショップ「G-STORE」などで販売されており、3社足並みを揃えながらの取り組みを支えている。

スポーツコンテンツとしての価値を高められる存在になれたら……

さらに2025年3月には、ロサンゼルス・ドジャースとシカゴ・カブスによるMLB開幕戦の日本開催に合わせて、数々の記念グッズを展開。

MIYASHITA PARKと東京スカイツリーに期間限定のオフィシャルストア「MLB Tokyo Series presented by Guggenheim」をオープンさせ、連日の賑わいを見せた。

「イベントに合わせてお店を作るのではなく、統一した世界観を楽しんでいただけることを心がけました。今後も海外スポーツチームが来日することがあると思いますが、グッズのビジネスを通して、『スポーツコンテンツとしての価値を高められるような存在になれたら…』との思いです」

画像: ©Fanatics Japan 野球要素盛りだくさんの新オフィスの会議室
©Fanatics Japan 野球要素盛りだくさんの新オフィスの会議室

今後の抱負をそのように語る川名氏は今年8月(時期確認)、随所に同社の思いが散りばめられた新オフィスを、麻布台ヒルズにオープンした。

「この20年ほどの間に、米国では一般的なユニフォームを街中で着る文化が日本でも定着し、試合の日にユニフォーム姿で試合に向かうファンの姿も一般的な光景になったように感じています。しかし、まだまだ日本では試合の日に“コスプレ”のような感覚でユニフォームを着用しているように見える部分もあって。今後は私たちの事業を通して、普段着としてユニフォームを着る文化を広めていけたらなと思っています」

画像3: ©Fanatics Japan
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川名氏の願いが込められたかのような新オフィスでは、社員の皆さんが思い思いのユニフォームを纏って仕事に励んだり、各スポーツをモチーフにした会議室で議論を交わしたりする光景が日常的に見られ、生き生きとした表情がとにかく印象的だ。

「グッズビジネスを通じて、スポーツそのものの価値や需要を高めていきたいです」

来季もファナティクス・ジャパンの勢いはまだまだ続きそうだ。

画像4: ©Fanatics Japan
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<川名正憲氏プロフィール>(写真右)

慶應義塾大学法学部卒業後、三菱商事、Northwestern大学Kellogg School of Management経営学修士、2013WBC日本代表広報担当、マッキンゼー・アンド・カンパニー等を経て現職。Bリーグ初年度に経営企画部メンバーとして関わったほか、日本テニス協会事業推進委員を務めるなど、スポーツ横断的にファンビジネスに関わっている。2019年に英国LEADERS社の選ぶLeaders in Sports U40 Awardを日本人で初めて受賞。高校・大学時代は野球部主務を務めるなど、エンターテインメントとしてのスポーツ産業育成にコミットしている。

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