1. トップ
  2. 20年前、別れの朝に“そっと背中を押してくれた”透明な歌声 時代を越えて歌い継がれる“究極の定番曲”

20年前、別れの朝に“そっと背中を押してくれた”透明な歌声 時代を越えて歌い継がれる“究極の定番曲”

  • 2026.1.13

20年前、卒業式の体育館にどんな空気が流れていたか、覚えているだろうか。

拍手の音、椅子を引く音、少し早く咲いた花の匂い。その中に、決して派手ではないのに、確実に胸の奥へ届く歌が、静かに混ざり始めていた。

川嶋あい『旅立ちの日に…』(作詞・作曲:Ai kawashima)――2006年2月15日発売

この曲は、2006年という年を象徴するヒット曲というより、“いつの間にか、そこにあった歌”として、人々の記憶に根を張っていった。

路上から始まっていた、もうひとつの卒業ソング

『旅立ちの日に…』は、川嶋あいにとって8枚目のシングルの2曲目に収録された。しかし、この楽曲の歴史は、シングル発売よりもずっと前に遡る。

高校時代、路上ライヴを続けていた頃から、この曲はすでに歌われていた。つまりこれは、デビュー後に用意された「商品としての卒業ソング」ではない。むしろ、歌い続ける中で磨かれ、時間とともに形を変えてきた“生きた楽曲”だった。

2003年に発売されたI WiSHのデビューシングル『明日への扉』の原曲であることは、今やよく知られている事実だ。だが、ソロ名義で再録された『旅立ちの日に…』は、その影に隠れる存在ではない。同じ旋律を持ちながらも、まったく別の距離感で聴き手に近づいてくる

undefined
川嶋あい-2007年撮影(C)SANKEI

歌声だけでも成立する、強度のある歌

この曲の最大の特徴は、構成のシンプルさにある。聴き終えたあとに残る感触は、驚くほどはっきりしている。

理由のひとつが、川嶋あいのボーカルだ。感情を誇張せず、声を張り上げることもしない。それなのに、言葉の一つひとつが、等身大の重さで届いてくる

編曲を手がけたのは武部聡志。過剰な装飾を避け、歌の輪郭を崩さないアレンジは、この曲が持つ“原曲性”を強く意識したものだ。結果として、路上でギター一本で歌われていた頃の空気を、スタジオ音源でありながら失っていない。

「別れ」を大きくしすぎなかった選択

涙を誘う構造でも、感情を煽る作りでもない。だからこそ、卒業式という“公式の場”で流れても、違和感がない。主役は歌ではなく、そこに立っている人たち自身だからだ。

また、路上時代から歌詞が変化している点も重要だ。

それは方向性を変えたというより、時代や歌い手自身の成長に合わせて、言葉の角を整えていった結果に近い。変わらない旋律と、更新され続ける言葉。そのバランスが、この曲の寿命を延ばした。

静かな曲ほど、長く残る

『旅立ちの日に…』が学校行事や個人の節目で、繰り返し選ばれてきたという事実が、この曲の価値を物語っている。

思い出を指示しない歌は、聴き手に委ねる余白を残す。だからこそ、この曲は、聴く人それぞれの「旅立ち」と結びついていく。

20年経った今も、この歌が静かに鳴り続けている理由は明快だ。

声が近く、言葉が遠くない。そして何より、別れを無理に美談にしなかった誠実さが、時代を越えて通用している。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。