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「逮捕されるまでやめられない」“即日高収入”のアルバイト…警視庁が“注意喚起”「知らなかったでは済まされない」

  • 2025.12.12
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出典元:photoAC(※画像はイメージです)

「高収入」「簡単に稼げる」といった甘い言葉に惹かれ、犯罪行為に加担してしまう人が後を絶ちません。

2025年12月9日には、警視庁生活安全部による「闇バイト」に関する「一度やったら逮捕されるまでやめられない」という旨の注意喚起の投稿が話題となりました。

また、警察庁が発表している資料『いわゆる「闇バイト」と令和6年8月以降に発生した一連の強盗等事件について』によると、令和6年中に検挙された被疑者の一部(計2,229人)への調査では、特殊詐欺の受け子等になった経緯として「SNSからの応募」が最も多く、全体の約42%を占める結果が出ています。

なぜ膨大な人が被害に遭い、知らず知らずのうちに犯罪の片棒を担ぐことになってしまうのでしょうか?

今回は、闇バイトに加担してしまう社会の背景や心理的なメカニズム、そして法的な責任や被害から抜け出すための具体的な対処法について寺林智栄弁護士に詳しく伺いました。

高収入を謳う犯罪に加担してしまう背景とは?

――なぜ「簡単に稼げる」という誘いに、年間2000人以上もの人が犯罪に関わってしまうのか、その社会的背景や心理的な要因を教えてください。

寺林智栄さん:

「背景には、現代社会特有の社会的要因や、誰もが陥りやすい心理的メカニズムなどが複雑に絡み合っています。

まず社会的要因として、経済的不安が常態化していることが挙げられます。非正規雇用の増加、実質賃金の伸び悩み、物価高騰などにより、「まじめに働いても生活が楽にならない」という感覚を抱く人が増えています。特に若年層や単身世帯では、将来への見通しが立たず、「短期間で高収入を得たい」「今月を乗り切れない」という切迫した状況に追い込まれやすい傾向があります。こうした状況の中で、「簡単」「誰でもできる」「即日高収入」といった言葉は、現実的な選択肢の一つのように錯覚されてしまいます。

また、SNSやメッセージアプリの普及も大きな要因です。匿名性が高く、相手の実態が見えない環境では、犯罪グループが発する情報が「身近な成功談」や「普通の仕事紹介」に見えてしまいます。実際には巧妙に作られた虚偽の体験談であっても、繰り返し目にすることで信憑性が高いものとして受け取られがちです。

さらに、人は「自分だけは大丈夫」「まさか犯罪だとは思わなかった」と危険を過小評価する傾向があります。最初は「荷物を受け取るだけ」「口座を貸すだけ」と軽微に見える行為から始まり、次第に深く関与させられていくことで、「ここまで来たら引き返せない」という心理状態に追い込まれていきます。

勧誘時には「違法ではない」「みんなやっている」「捕まるのは指示役だけ」といった言葉で責任感や罪悪感を巧みに麻痺させます。困窮や不安の中にいる人ほど、こうした言葉にすがりやすく、冷静な判断が難しくなります。

このように、「高収入犯罪」への加担は、特別に悪意のある人だけが陥るものではなく、社会構造と人間の心理の隙間を突いた結果として生じている点を理解することが重要です。」

犯罪であると知らなかった場合の法的責任は?

---犯罪だと十分に理解していなかった場合でも、法的責任が問われることがありますか?具体的にどのようなケースで処罰されるのでしょうか?

寺林智栄さん:

「結論から言えば、犯罪であると十分に理解していなかった場合であっても、法的責任を問われる可能性は高いといえます。

刑法上、犯罪が成立するためには原則として『故意』、つまり違法な行為であることを認識しつつ行為に及ぶことが必要とされます。ただし、この『認識』は、必ずしも犯罪の全体像や細部まで理解していることを意味しません。たとえば、『何かおかしい』『普通の仕事ではないかもしれない』『違法の可能性がある』と感じながらも行為に及んだ場合には、『未必の故意』が認められる余地があります。未必の故意とは、『違法であるかもしれないと分かっていながら、それでも構わないと考えて犯罪行為に及ぶ心理状態』を指します。

実務上問題となりやすいのは、いわゆる『受け子』『出し子』『口座提供』などのケースです。『言われた通りに動いただけ』『中身は知らなかった』『指示された役割が軽いと思った』と主張しても、行為自体が犯罪の実行行為またはこれを助長する行為に当たれば、共犯として処罰される可能性があります。特に、銀行口座やスマートフォンの提供は、それ自体が犯罪収益移転防止法違反などの構成要件に該当する場合もあり、『知らなかった』では済まされないと判断されることが少なくありません。

また、報酬の異常な高さ、指示が匿名であること、契約書や雇用条件の説明がないこと、連絡手段がSNSのみであることなど、違法性を疑うべき事情が複数存在する場合には、『注意すれば犯罪だと気付けたはずだ』と評価され、刑事責任を免れない可能性が高まります。

『詳しい内容を知らされていなかった』『自分は末端だった』という事情は、責任そのものを否定する決定打にはならないのが実情です。近年では、量刑(刑の重さ)を決める上でも有利になることはかなり少ない状況です。安易な誘い文句に応じた行為が、取り返しのつかない結果を招くといえるでしょう。」

犯罪に巻き込まれた際の最善の対処法は?

---一度連絡を取ってしまい、身分証などを送ってしまった後で「怪しい」「やめたい」と思った場合、脅迫されるケースも多いと聞きます。そのような状況下で、逮捕される前に安全に抜け出すためには、具体的に「誰に」「どのような手順で」相談すべきでしょうか?

寺林智栄さん:

「身分証の画像送付などをしてしまった後で、『怪しい』『やめたい』と気付いたにもかかわらず、脅迫的な言動によって抜け出せなくなるケースは、近年とても多く見られます。

この段階で最も重要なのは、一人で抱え込まず、早急に正しい相談先につながることです。対応を間違えなければ、刑事責任や被害を大きく抑えられる可能性があります。

最優先で相談すべき相手は警察です。最寄りの警察署の生活安全課、または警察相談専用電話『#9110』などが適切でしょう。『既に犯罪グループと連絡を取ってしまった』『身分証を送ってしまい脅されている』と率直に伝えてください。この段階で自ら相談していることは、『積極的に犯罪をしようとしていたのではない』という事情として認めてもらえる可能性が高いといえます。指示を受けて実行行為に入る前であれば、逮捕に至らない可能性も高まります。

次に重要なのが、証拠を消さないことです。SNSやメッセージアプリのやり取り、送金指示、脅迫文言、送ってしまった画像の履歴などは削除せず、スクリーンショット等で保存しておきましょう。怖くて連絡を消したくなる気持ちは自然ですが、証拠がないと警察が動きづらくなり、結果として不利になることがあります。

弁護士への相談も有益です。刑事事件や少年事件を扱う弁護士であれば、警察への相談の仕方、今後取るべき対応、やってはいけない行動(連絡を続ける、指示に従う等)について具体的に助言してもらえます。脅迫されている場合には、今後のリスクについてアドバイスしてもらうことが可能で、警察対応にも同伴してもらえる場合があります。

何より重要なのは、自分から犯罪行為に手を染めないことです。『断ったら危害を加える』『家族にばらす』などと脅されても、実際に指示された行為を実行してしまえば、加害者になってしまう危険があります。怖さから従ってしまう気持ちは理解できますが、犯罪を実行してしまったら救済してもらえることはまずありません。『怪しい』と思ったら、勇気を持ってそれ以上の関与をやめることが必要です。」

安易な誘いに乗らず、早期相談が被害軽減のカギ

「高収入」「簡単に稼げる」と甘い言葉に惹かれる背景には、経済的な不安や社会の変化に伴う心理的な隙間があります。

しかし、その罠にハマると、犯罪への加担という重大なリスクを負うことになります。たとえ犯罪だと気付かなかったとしても、法的責任を追及される可能性が高い点には十分注意が必要です。

もし不安や疑念を感じたら、一人で抱え込まずに迷わず警察や専門の弁護士に相談しましょう。証拠をしっかり残し、冷静に状況を整理することが、被害の拡大を防ぎ、刑事責任の軽減にもつながります。怖くて逃げ出したくなる気持ちもわかりますが、犯罪行為をやめて助けを求める勇気が、なによりも大切です。社会の隙間に落ちることなく、安全に自分の生活と未来を守っていただきたいと思います。


出典元:警視庁生活安全部公式X(@MPD_yokushi)、『特殊詐欺の被害状況と通信技術の悪用実態』(警察庁)

監修者:寺林智栄
2007年弁護士登録。札幌弁護士会所属。てらばやし法律事務所。2013年頃よりネット上で法律記事の執筆、監修を始め、Yahoo!トピックスで複数回1位を獲得した経験あり。一般の方が楽しく理解できるようにわかりやすく解説することを信条としています。


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