1. トップ
  2. 「絶対にやってはいけない」医師が警告。インフルエンザで“市販薬”を飲んで重症化…命に関わる「NG行動」

「絶対にやってはいけない」医師が警告。インフルエンザで“市販薬”を飲んで重症化…命に関わる「NG行動」

  • 2025.12.11
undefined
出典元:photoAC(※画像はイメージです)

風邪とインフルエンザは症状が似ているため、自分で判断するのが難しいことがあります。

特に近年増えている「隠れインフル」では、高熱がなくても重い症状が現れることがあり、見逃すと重症化する恐れも。

インフルエンザと風邪はどこが違うのか、そして感染した場合にどんな点に気をつければいいのか。

今回は、微熱や軽い症状でも油断できないインフルエンザの見分け方や安全な対処法について、林外科・内科クリニック 林 裕章 理事長に詳しく伺いました。

風邪とインフルエンザの違いは?症状の特徴と見分け方

---風邪とインフルエンザは、症状が似ていて判断が難しいですが、どう違うのでしょうか?特に最近増えている「隠れインフル」とは何か教えてください。

林 裕章さん:

「一般的に『風邪』と『インフルエンザ』の最大の違いは、症状の現れ方(発症様式)と全身症状の強さにあります。

しかし、近年増えている『隠れインフル』の場合、必ずしも高熱が出るとは限りません。微熱や咳だけであっても、以下のサインがある場合はインフルエンザを強く疑い、発症から48時間以内の受診を検討すべきです。

1. 数時間~半日で一気に熱が上がった
朝は37℃台だったのに、夕方には39℃近くまで急に上がった、など「ゆっくり悪くなる」のではなく「急にガツンと来た」パターンはインフルエンザを強く疑います。

2. 熱の高さに見合わない「全身の倦怠感・関節痛」
「隠れインフル」で最も注意すべきサインです。ワクチン接種済みの方や、過去に似た型のインフルエンザにかかったことがある方は、免疫のおかげで高熱が出ないことがあります。 しかし、インフルエンザウイルスは強力な炎症物質(サイトカイン)を全身に放出させるため、「熱は微熱なのに、体が鉛のように重い」「節々が痛くて起き上がれない」といった、通常の風邪ではありえないほどの強い全身症状が現れます。「熱がないから大丈夫」と判断せず、全身の消耗度合いに注目してください。

3. 「周囲の流行状況」
同じ家庭や職場でインフルエンザ陽性者が出ている場合、軽い症状でも実はインフルエンザというケースは少なくありません。

4. ハイリスクの方の発熱・咳・だるさ
以下に当てはまる方は、症状が軽くても「念のため早めに受診」がおすすめです。

・65歳以上の高齢者
・妊婦
・心臓・肺・腎臓の病気、糖尿病などの基礎疾患がある方
・免疫を抑える薬を飲んでいる方やがん治療中の方

5. 咳や息苦しさが強い/階段で息が上がる
肺炎の入り口である可能性があります。息をすると胸が痛い、ゼーゼーして会話が続かない、といった場合は早めに受診してください。

体温計の数字だけで判断するのは危険です。「急に始まった」「体が異常にだるい」「周囲で流行っている」の3点のうち2つ以上当てはまる場合は、たとえ微熱でも早期に受診してください。抗インフルエンザ薬は発症から48時間以内に服用することで最大の効果を発揮し、重症化を防ぐことができます。」

なぜ自己判断で市販の風邪薬や解熱剤を使うのは危険なのか?

---インフルエンザかなと思っても、市販の風邪薬や解熱鎮痛剤を使ってしまうことがあります。なぜ、それが危険なのでしょうか?

林 裕章さん:

「インフルエンザ感染時に自己判断で市販の総合感冒薬(風邪薬)や解熱鎮痛剤を漫然と使用することは、単に「治りが遅くなる」だけでなく、生命に関わる重篤な事態を招く恐れがあります。これには大きく分けて2つのメカニズムが関係しています。

1. ウイルスの増殖を助長し、治療の「ゴールデンタイム」を逃す(マスキング効果)
まず、インフルエンザ治療薬(タミフル®・ゾフルーザ®など)は、発症から48時間以内に開始するほど効果が高いとされており、48時間を過ぎると処方されなくなることがありますので、発症したら早期の受診が必要です。次に、市販の風邪薬の多くは、熱を下げたり痛みを和らげたりする「対症療法」の薬であり、ウイルス自体を退治する力はありません。インフルエンザウイルスは、発症から48時間以内に爆発的に増殖します。この時期に市販薬で無理やり熱を下げてしまうと、一時的に楽になったと錯覚し、無理をして仕事や学校に行ってしまったり、受診を先延ばしにしたりします。 体温が上がるのは、免疫細胞がウイルスと戦いやすくするための生体防御反応です。薬で熱だけを下げている間も、体内ではウイルスが猛烈な勢いで増殖を続け、全身の細胞を破壊していきます。結果として、気づいた時にはウイルス量が制御不能なレベルに達し、肺炎などの重篤な合併症を引き起こしやすくなります。

2. 脳症や臓器不全を誘発する「薬剤のリスク」
最も恐ろしいのが、特定の解熱鎮痛成分とインフルエンザウイルスの相性の悪さです。 市販薬によく含まれるアスピリン(サリチル酸系)、ジクロフェナク(ボルタレンなど)、ロキソプロフェンなどの「NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)」と呼ばれる成分は、インフルエンザ感染時に使用すると、重篤な副作用を引き起こすリスクが指摘されています。

・インフルエンザ脳症: 特に小児において、一部の解熱剤が脳の血管のバリア機能を低下させたり、ミトコンドリアの機能を阻害したりすることで、ウイルスや炎症物質が脳にダメージを与えやすくなります。これにより、意識障害やけいれんを伴う「インフルエンザ脳症」のリスクが高まると考えられています。

・ライ症候群: 小児がアスピリンを使用することで発症する、急激な脳浮腫と肝臓の脂肪変性を伴う致死的な病気です。

インフルエンザウイルスが体内で暴れている状態で、不適切な解熱剤を投入することは、火事(ウイルス炎症)が起きている現場で、消火活動(免疫反応)を妨害し、さらにガソリン(薬剤による脳・臓器へのダメージ)を撒くような行為になりかねません。心臓病・緑内障・前立腺肥大などがある方では、成分によっては症状悪化のリスクがあります。インフルエンザの可能性がある時期は、自己判断で強い解熱鎮痛剤(特にNSAIDsを含むもの)を使用せず、アセトアミノフェンなどの安全な成分を選ぶか、速やかに医師の処方を受けることが重要です。」

自宅療養中に注意すべき危険サインと12月の特有リスク

---自宅で療養している時に、どのような症状が見られたら緊急受診が必要なのでしょうか?また、12月ならではの注意点はありますか?

林 裕章さん:

「自宅療養中に最も警戒すべきは、ウイルスが肺や脳、心臓に到達して機能不全を起こしているサインです。特に12月は気温の低下と乾燥により呼吸器への負担が増すため、急変リスクが高まります。以下の症状が見られた場合は、夜間・休日を問わず救急要請(119番)または救急外来の受診を迷わず行ってください。

1. 呼吸器の危険サイン(肺炎・呼吸不全の兆候)
インフルエンザ死因の上位は肺炎です。酸素が体に取り込めていない以下のサインは緊急事態です。

呼吸が荒く、回数が異常に多い(肩で息をする、小児なら1分間に60回以上など)。
顔色や唇が紫色になる(チアノーゼ)。
胸がペコペコとへこむような呼吸(陥没呼吸)をしている。
横になると苦しくて眠れない、座っていないと息ができない。

肺炎や喘息発作、心不全などを起こしている可能性があります。

2. 神経・意識の危険サイン(脳症・髄膜炎の兆候)
ウイルスや炎症が脳に影響を与えているサインです。小児だけでなく高齢者も注意が必要です。

呼びかけに対する反応が鈍い、視線が合わない。
受け答えがちぐはぐで、話がかみ合わない
異常な言動(突然走り出す、意味不明なことを叫ぶ、幻覚が見えている)。
けいれん(ひきつけ)が5分以上続く、または繰り返す。
激しい頭痛や嘔吐を繰り返す。

インフルエンザ脳症や脳炎などの可能性があり、最優先の危険サインです。

3. 循環・脱水の危険サイン

半日以上おしっこが出ない(極度の脱水)。
水分が全く摂れず、ぐったりしている。

重い脱水や腎機能障害につながる可能性があります。とくに子どもや高齢者では早めの対応が必要です。

12月に特に注意していただきたいのが、一度下がった熱が再び上がる「二峰性発熱(にほうせいはつねつ)」です。 通常、インフルエンザの熱は3~4日で下がりますが、一度解熱した後に再び高熱が出た場合、細菌性肺炎を合併している可能性が非常に高いです。 12月の乾燥した空気は、喉や気管支の防御機能を低下させます。インフルエンザで荒らされた粘膜に、肺炎球菌などの細菌が二次感染しやすくなっているのです。「治りかけかな?」と思った矢先の再発熱は、風邪のぶり返しではなく「新たな感染症の合併」と考え、直ちに医療機関を受診してください。

また、年末にかけては医療機関が休診に入ることも多くなります。「もう少し様子を見よう」としているうちに病院が閉まり、手遅れになるケースも散見されます。上記の危険サインが少しでも見られたら、遠慮せずに救急車を呼んでください。命を守るための勇気ある決断が必要です。」

医師が教える「受診すべきサイン」チェックリスト

「ただの風邪」と侮っていると、急変する恐れがあります。以下のリストに当てはまる項目がないか確認してください。

レベル1:もしかしてインフル?「早期受診」の目安

熱が微熱(37℃台)でも、以下の項目に2つ以上当てはまる場合は、発症から48時間以内の受診を強く推奨します。

□ 「何時ごろから」と言えるほど、急激に具合が悪くなった

□ 熱の高さのわりに、体が異常に重い・だるい

□ 関節や筋肉が痛くて、起き上がるのが辛い

□ 家族や職場、学校でインフルエンザにかかった人がいる

□ 胸の奥から響くような、乾いた咳(コンコン)が出る

レベル2:今すぐ病院へ!「救急車・夜間救急」の目安

自宅療養中に以下の症状が出た場合は、ためらわずに救急車(119番)を呼ぶか、夜間・休日でも救急外来を受診してください。

【呼吸・顔色】

□ 呼吸が早くて苦しそう(肩で息をしている)

□ 唇や爪の色が紫色になっている(チアノーゼ)

□ 横になると苦しくて眠れない、座っていないと息ができない

□ 胸がペコペコとへこむような呼吸をしている

【意識・神経】

□ 呼びかけても反応が鈍い、視線が合わない

□ 意味不明なことを言う、幻覚が見えている

□ けいれん(ひきつけ)が5分以上続く、または繰り返す

□ 激しい頭痛や嘔吐が止まらない

【水分・尿】

□ 半日(12時間)以上、おしっこが出ていない

□ 水分が全く摂れず、ぐったりしている

絶対にやってはいけない「NG行動」チェック

□ 自己判断で、家にあった強めの解熱鎮痛剤(ロキソニンやボルタレン等)を飲む

→ インフルエンザ脳症などのリスクを高める恐れがあります。

□ 薬で熱が下がったからといって、無理して出社・登校する

→ ウイルスを撒き散らすだけでなく、心筋炎などを引き起こすリスクがあります。

□ 一度下がった熱が再び上がった(二峰性発熱)のに、「風邪のぶり返し」と放置する

→ 肺炎や中耳炎を合併している可能性が高いため、再受診が必要です。

※このチェックリストは、あくまで「命を守るための目安」です。リストに当てはまらなくても、「普段の風邪とは明らかに様子が違う」「なんとなく怖い」という直感は、医療現場でも非常に重要な情報です。迷ったときは、手遅れになる前に医療機関へ相談してください。

早期受診と正しい対処がインフルエンザ重症化を防ぐ鍵

インフルエンザは高熱だけで判断できず、微熱でも「急に症状が出た」「体が異常にだるい」「周囲に流行がある」といったサインを見逃してはいけません。発症から48時間以内の受診と抗インフルエンザ薬の治療開始が重症化防止に重要です。

また、自己判断での市販の風邪薬や強い解熱鎮痛剤の使用は、ウイルス増殖や重篤な副作用のリスクを高めてしまいます。特に小児やハイリスク者は安全な成分か医師の指示を守ることが大切です。

自宅療養中には肺炎や脳症、脱水の危険サインに十分注意し、異変を感じたら躊躇せず医療機関へ。年末年始にかけて医療体制が不十分になることもあるため、早めの判断が命を守る鍵となります。正しい知識と行動で、今年の冬も安心して過ごしましょう。


監修者:林 裕章
国立佐賀医科大学を卒業後、大学病院や急性期病院で救急や外科医としての診療経験を積んだのち2007年に父の経営する有床診療所を継ぐ。現在、外科医の父と放射線科医の妻と、その人その人に合った「人」を診るクリニックとして有床診療所および老人ホームを運営しており、医療・介護の両面から地域のかかりつけ医として総合診療を行っている。科学的根拠だけでは語れない、人間の心理に寄り添う医療を実践している。また、福岡県保険医協会会長として、国民が安心して医療を受けられるよう、医療者・国民ともにより良い社会の実現を目指し、情報収集・発信に努めている。


▶︎【エピソード募集】日常のちょっとした体験、TRILLでシェアしませんか?【2分で完了・匿名OK】

【エピソード募集】あなたの“衝撃&スカッと”体験、TRILLでシェアしませんか?【2分で完了・匿名OK】
【エピソード募集】あなたの“衝撃&スカッと”体験、TRILLでシェアしませんか?【2分で完了・匿名OK】