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「持ち主のいない1291億円」増え続ける“浮いた財産”…一体どこに行く?→弁護士が警告する、“遺産消滅”のタイムリミット

  • 2025.12.6
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出典元:photoAC(※画像はイメージです)

2024年度、亡くなった方の遺産に法定相続人がいないために国庫に入った金額は、1291億円と過去最多を記録しました。

なぜ今これほどまでに増えているのか、そして、その財産はどのように扱われるのか、疑問に思う方も多いはずです。

今回はアディーレ法律事務所 南澤毅吾 弁護士に、その背景や問題点、相続にまつわる複雑な手続きや最終的な国庫納付までの流れを詳しく伺いました。

増え続ける「相続人なき遺産」とは何か?

---「相続人なき遺産」とは具体的にどのような財産のことでしょうか?また、なぜ近年この問題が増えているのでしょうか?

南澤毅吾 弁護士:

「相続人なき財産とは、亡くなった人(被相続人)が残した遺産について、法定相続人が一人もいない・相続権を持つ者がいない状態の遺産を指します。配偶者も子もおらず、親も既に他界、兄弟姉妹もいない…といった『身寄りのない人』が亡くなったケースが典型的です。

一方で、親族が存命の場合でも、『相続人なき遺産』が生じるケースはあります。たとえば、故人が不動産を所有していても、それが借金(ローン)や固定資産税等で実質的にマイナスになりうると判断される場合、相続するとかえって負担が生じます。相続人である親族としては、『相続をしない』手続として、相続放棄を選ぶことがあります。この場合、故人所有の不動産は『相続人なき遺産』となります。

『相続人なき遺産』が増えている背景としては、やはり一番は、未婚率の上昇・少子高齢化が第一です。50代以上の世代でも独身割合が近年増加しており、『独身・兄弟なし・子なし・父母他界』という状況が発生しやすい社会情勢となっています。孤独死・空き家増加など社会問題もあり、国としても、『相続人なき遺産』への対応・清算を強化しているように思われます。

また、相続放棄の件数も年々増加しています。過疎化によって地方の不動産への需要が低下した結果、両親の不動産が子に相続されず放棄され、これが国庫に帰属する、といったケースも一定数増えているのではないかと推測されます。」

法定相続人がいない場合、遺産はどのように処理される?

---法定相続人が一人もいないとき、遺産はどのような手順で国に納められるのでしょうか?

南澤毅吾 弁護士:

「法定相続人が一人もいない場合、まず『利害関係者』(たとえば、債権者、受遺者、地方自治体など)または検察官が、家庭裁判所に対して『相続財産清算人を選任してほしい』という申し立てを行います。

裁判所が清算人を選ぶと、官報を通じた公告を経て、公告期間中に申し出のあった債権者・受遺者に対して、故人の遺産から支払いが行われます。借金や未払い費用、遺贈の支払いなどが第一に処理されます。

その後に、故人と長年同居していた人、介護していた人など、『親族ではないけど特別な縁故のある人(特別縁故者)』がいれば、その人は清算後の残財産の分与を家庭裁判所に請求できます。期間も定められており、この申し立てを出さないと分与は受けられません。

以上の手続を踏まえ、債権者・受遺者・特別縁故者への分与を済ませてもなお財産が残っていた場合、清算人が残りの財産を国に納めることで、手続が完了します。

手続のポイントとして、債権者・特別縁故者は自ら申し出を行うことが前提とされています。官報への公告が行われますが、一般の方が官報を目にする機会はめったにないでしょう。たとえ、故人から遺言を預かっていたとしても、そのことを利害関係者として適切なタイミングで申出をしなければ、気が付かないままに遺産が国庫に納められてしまう、ということもあり得るということです。故人の遺産清算手続に関わるためには、主体的かつ迅速に動く必要があります。」

国庫に納められた財産は取り戻せる?その後の対応は?

---故人の遺産が国庫に納められてしまうと、ゆかりのある人は何もできなくなってしまうのでしょうか?

南澤毅吾 弁護士:

「国庫に納められてしまった場合、権利が確定してしまうので、もはや回復する手段はありません。『一切何もできない』というのが答えです。

したがって、『相続人なき財産』は、国庫に入る前の段階に対応する必要があります。

第一に、債権者・利害関係者としてかかわる方法があります。たとえば、亡くなっていた人にお金を貸していた場合、遺産から借金を回収できる可能性があります。もちろん、自分宛の遺言があれば、『受遺者』として遺産を請求することができます。

第二に、こういった事情がなくとも、『特別縁故者』として財産分与を請求できる余地があります。ただし、特別縁故者に認定されるハードルは高いです。同居・介護・扶養など、親族といえるような関係性があったことが前提となるため、単に交友が深かった、一番仲が良かった、というだけでは認められない点に留意が必要です。

いずれにしても、清算手続の状況を一般の方が知ることは難しい一方、国庫帰属というタイムリミットがあるため、権利を主張したいのであれば、スピーディーに対応することが重要です。専門家に相談することが推奨されます。

生前に死後のことを考えるのは不謹慎という見方もありますが、最近では空き家問題が報じられ、『終活』という言葉も広まり、むしろ死後に備えることが社会的に望ましいという風潮を感じます。

身よりのない方でも、国庫に納めるのではなく、自分の意思で寄付・遺贈を行いたいと考えられる方もいるでしょう。死後への不安をひとりで抱え込まず、周りの友人や専門家に相談できることが重要だと感じます。」

相続人なき遺産問題に向き合うためにできること

相続人がいない、あるいは相続放棄が増える社会情勢の中で、「相続人なき遺産」は年々増加しています。この記事を通じて、そうした遺産がどのように扱われ、どんなリスクがあるのかを理解できたのではないでしょうか。

いち早く自分の権利を主張すること、そしてもしものときの手続きを知っておくことは、後々のトラブルを避けるために非常に大切です。何より、死後に関する不安をひとりで抱え込まず、専門家に相談することは心強い支えとなるでしょう。

今後は社会全体で、身寄りのない方が安心して最後を迎えられる環境を整える動きがさらに進むことが期待されます。まずは身近な問題として、自分や家族の将来を考え、必要な準備や情報収集を始めることが明日からできる一歩です。


監修者:南澤毅吾 弁護士(第一東京弁護士会所属) アディーレ法律事務所北千住支店

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南澤毅吾 弁護士(第一東京弁護士会所属) アディーレ法律事務所北千住支店

 

「パチスロで学費を稼ぎ、弁護士になった男」という異色の経歴を持つ。司法修習時代は、精神医療センターにて、ギャンブルを含む依存症問題について研修を受けた経験があり、一般市民の悩みに寄り添った、庶民派の弁護士を志す。アディーレ法律事務所・北千住支店長として対応した法律相談数は、累計数千件に及び、多様な一般民事分野の処理経験を経て、現在は交通事故部門の責任者となる。アディーレ法律事務所は、依頼者が費用の負担で相談をためらわないよう、弁護士費用で損をさせない保証制度(保証事務所)を導入しています。「何もしない」から「弁護士に相談する」社会を目指しています。

弁護士法人AdIre法律事務所(第一東京弁護士会)

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