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「タワマンの横に県営住宅」たった15年で消えた鉄道…バブル遺産マニアが愛知の“ニュータウン”を歩いてみた

  • 2025.12.18

たった15年で鉄道が消えた街。愛知県小牧市の「桃花台(とうかだい)ニュータウン」をご存知でしょうか。

かつて街のシンボルだった新交通システム「桃花台線(ピーチライナー)」は、莫大な公費が投じられながらも需要予測の甘さから利用者が低迷。開業から15年という短さで廃止に追い込まれ、今では“都市計画の失敗例”として語られることも少なくありません。

しかし、その「失敗」のレッテルの裏側には、意外なほど完成された「住みよい街」の姿がありました。

「負の遺産」と「住みよい街」。矛盾する二つの顔を持つこの場所は、今一体どのような姿になっているのでしょうか。

都市開発や商業施設の情報を発信するYouTuber・だいまつさんに、波乱の歴史を辿ったこの街のリアルと、そこから見える未来の可能性についてお話を伺いました。

雑草が生い茂る駅跡地…そこで見た「街の偏り」とは?

---だいまつさんが現地で感じた、桃花台ニュータウンの「地域の風景」や「人の流れ、空気感」といった部分で、特に強く感じられた変化はありましたか?

「高齢の方が多い印象でした。街開きから時間が経っているため当然と言えば当然ですが、一気に開発を行なったため住民の年齢層に偏りが出てしまっているようでした。年齢層に偏りが出てしまうと、相当新陳代謝が上手くいかなければ一気に廃れてしまいます。街開発の難しさを感じました」

---なるほど、一度に作り上げた街だからこその課題ですね。

「ええ。しかし一方で、車道と完全に区別された歩道が設置されていたり、中心部に商業施設が2つもあったり、街の完成度はすごく高いと思います」

それほど住環境が整った街が、なぜ衰退してしまったのか。その背景には、都市計画における「ある誤算」があった、とだいまつさんは語ります。

「あと数キロ繋がっていれば…」15年で消えた鉄道の悲劇

桃花台ニュータウンは、開発時に大きな期待を背負いながらも、鉄道はわずか15年で廃止、商業は供給過多、人口は伸び悩むという結果になりました。

---動画でも交通動線や需要予測の甘さが指摘されていましたが、「現状を招いた原因」はどこにあると考えていますか?

「どうしても桃花台ニュータウンは『15年で鉄道が廃止になった街』としてマイナスイメージが一生ついて回ります。『良いな』と思った人も、『すぐに鉄道が廃止になった街だし大丈夫なのかな…』って移住を避ける原因の1つになっているかもしれません。そう考えるとやっぱりピーチライナーが今も残っていれば…と思います」

---ではもし当時の計画段階の、どの部分を見直すことでこのような状況を避けられたとお感じになりますか?

「個人的には名古屋まで1本で行ける『JR高蔵寺駅』まで線路が繋がっていれば、15年で廃止にならなかったのではないでしょうか。延伸計画はありましたが、利用者の低迷で幻に終わってしまいました。

ピーチライナーの接続先だった小牧駅は、当時は名古屋都心へ出るのに不便でした。もし高蔵寺駅へ繋がっていて、名古屋まで乗り換え1回(あるいは直通)で行けたのであれば利用する人も多くなっていたでしょうし、高蔵寺にもニュータウンがありますから相乗効果もあったはずです。結果論ではありますが、最初から高蔵寺駅まで繋がっていたら違う未来があったと思います」

「廃線」という事実は、新規転入をためらわせる心理的なハードルになり得ます。もし、都心へのアクセスに優れた「JR高蔵寺駅」への接続が実現していれば、街の運命は大きく変わっていたのかもしれません。交通インフラが都市の命運を分ける、残酷な現実がそこにありました。

負の遺産で終わらせない。千里ニュータウンに学ぶ「再生の処方箋」

現在の桃花台ニュータウンは、人口減少・高齢化・商業の空洞化が同時進行しています。しかし一方で、既存インフラや広い土地、静かな環境など、ポテンシャルも残されているように見えます。

---今後、桃花台ニュータウンを“負の遺産”で終わらせないためには、どのような活用・再生の方向性が考えられますでしょうか。

「先にもお伝えした通り、街の完成度は高く、住みやすい環境が整っており、ポテンシャルはあると私も感じています。ニュータウン復活のモデルケースとされているのが、大阪にある『千里ニュータウン』です。あちらでは大規模なURや公社住宅の建て替えを行なって、築年数が経った街にありがちな『古い・昔のコミュニティに入らないといけない』というようなマイナスイメージを払拭することに成功しました」

---なるほど。老朽化した団地を建て替えて、街全体を現代風にアップデートした成功例ですね。では、実際に現地を歩いただいまつさんが、現実的だと感じる未来像はありますか?

「桃花台ニュータウンは一軒家が多いのですが、かつてのピーチライナーの駅近くには県営住宅が多く存在しています。現地で見ても、築年数が経って外壁が黒ずんでいるなど、いかにも昔ながらの団地といった雰囲気です。これでは若者が移住先として検討しにくいため、まずはここを建て替えて綺麗にし、高層化するのがいいと思います。高層化した分、余った土地には高齢者用の福祉施設をつくるのが理想的かもしれません」

---今のポテンシャルを活かした、希望のある未来図ですね。貴重なお話をありがとうございました!

街のポテンシャルを再評価する時

鉄道は消えましたが、街としての価値まで消えたわけではありません。だいまつさんのお話を伺って見えてきたのは、優れたインフラと豊かな環境、そして再生への確かな「余白」。さらに、周辺相場よりも安く、広い家に住めるという「現在の住まいとしての魅力」も残る、桃花台のリアルな姿でした。

過去の教訓を糧に、時代に合わせたアップデートを遂げられるか。「負の遺産」から「再生のモデルケース」へ。桃花台ニュータウンの第2章は、まだ始まったばかりなのかもしれません。



動画:【日本の黒歴史】需要がなく価格破壊が起きている街…たったの15年で鉄道が廃止になった「桃花台ニュータウン」

取材協力:だいまつさん
日本各地の都市開発や商業施設の情報を研究し、YouTubeで発信するバブル遺産マニア。独自の視点で街の変化や歴史を伝えている。
・YouTube:だいまつのどこでも探検隊(@daimatsudokodemo
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・TikTok:だいまつのどこでも探検隊(daimatsu_


参考:
旧桃花台線について(愛知県)
千里ニュータウンの再生について(大阪府)