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「品名に“生ケーキ”…」12月20日前後、元宅配員の背筋が一瞬で凍った“年末ならではのワケ”

  • 2025.12.19
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出典元:photoAC(画像はイメージです)

こんにちは。元宅配員のmiakoです。

冬の繁忙期は、一年の中で宅配員がもっとも忙しく走り回る季節です。
そしてその忙しさは、12月から急に始まるわけではありません。

お歳暮の前倒しや大型セールの影響で、11月を過ぎると荷物の量が静かに増え始めます。
生鮮品やギフト品に加え、行事用の食品や日用品が一気に動くため、扱う荷物の種類も複雑になり、現場には独特の緊張が漂い始めます。

12月が近づく頃には、すでに繁忙期の空気そのもの。
ここから先は、本番に向けて物量も種類も一気に増えていく時期です。

これから紹介するのは、そんな年末の現場で私が実際に感じていた「冬の繁忙期ならではのトラブルと苦労」。
忙しさの背景にある現場の空気をお届けします。

12月1日に訪れるギフト初日の壁

12月1日は、宅配の現場では特別な一日です。
この日からお歳暮の本格的な配達が始まり、前日とは比べものにならない量の荷物が一気に動き出します。

11月30日時点ですでに棚はいっぱいで覚悟はしていましたが、12月1日の朝に積み上がった荷物は予想をはるかに超える量。
棚は一気に埋まり、収まりきらないほどでした。

宅配員だけではとてもさばききれないため、この時期は委託の宅配員も加わって体制を強化します。
それでも12月1日の緊張感は毎年変わらず、「ここから一気に始まる」という空気が現場には確かにありました。

前倒しの荷物が続いた11月を越えても、冬の繁忙期の本番スタートはやはり12月1日。
ここから先は、普段とはまったく違う覚悟に向き合う日々が続きます。

クール便が増える冬に生まれる温度管理の難しさ

冬の繁忙期で特に負担が大きいのが、クール便の急増です。
生鮮品や季節の食品は、年末が近づくほど一気に量が増え、果物、野菜、魚、肉、海鮮ギフトなど、温度管理が必要な荷物が次々と到着します。

まず一番の問題点は、宅配トラックの冷蔵・冷凍庫についての誤解です。
これはあくまでも「温度を保つための箱」で、家庭の冷蔵庫のように冷やしたり凍らせたりする機能はありません。出庫前に予冷はできますが、「保つだけ」です。

冷蔵・冷凍スペースは常温の荷台に比べて驚くほど小さく、荷物が多い日は入りきらないことがあります。無理に詰め込むと冷気が回りにくくなり、温度が上がりやすくなります。さらに配達のたびにドアを開け閉めすることで、冷気はどんどん逃げてしまいます。

また、一部のトラックにはエンジン停止中でも冷却を維持できる「スタンバイ機能」がありますが、すべての車両が対応しているわけではありません。私が乗っていた車両にはこの機能がなく、配達中はどうしても温度が上がりやすい状況でした。

そのため、クール便の扱いは、常に温度との戦いでした。

大型鮮魚ギフトが占領する庫内と年末ならではの混乱

年末特有の「サイズ問題」もあります。
代表的なのが新巻鮭。一本物の鮭が大きな箱に入って届き、車両によってはクール庫に入れるのがぎりぎりの大きさです。軽自動車の配送車では収納できないこともありました。

カニやホタテなどの鮮魚ギフトも、大きな発泡スチロール箱で届きます。これが庫内スペースを大きく占領し、そんな中で大きな荷物が同時に届くと積み込みができない荷物も出てしまうこともしばしばでした。食品ギフトやまとめ買いの荷物が重なると、積み方そのものを見直す必要が出てきます。

品質を保つため、温度管理が必要な荷物はとにかく丁寧に扱わなければいけません。冷蔵品は特に気を使い、冷凍品も後回しにしづらい状況が生まれます。繁忙期にはクール便が増えすぎて、どれも適切に扱うのが難しくなる場面がありました。

年末の物量がピークを迎える中、「どれだけ温度を保ちながら回れるか」が一番のプレッシャーでした。
荷台の前で頭を抱えながら配達ルートを組み直した日も、何度もありました。

ケーキ・おせち・鮮魚…年末特有の「壊せない荷物」と向き合う緊張

20日前後から増えるケーキ類は、冬の繁忙期でも特に緊張する荷物です。
届く多くは冷凍ケーキですが、品名に「生ケーキ」と書かれていると、一瞬で背筋が伸びました。

生ケーキ、とくにデコレーションされた冷蔵ケーキは、崩れやすくクレームリスクが非常に高いため、宅配会社では基本的に受け付けていない品物です。
それでも中には、「ロールケーキなので崩れにくいと思います」といった理由で持ち込まれるケースもあります。

SNSで生ケーキの破損が炎上していたのを見たことがあり、「生ケーキ」という品名と天地無用のシールを見るだけで、胃の奥がぎゅっとするような緊張が走りました。

冷凍ケーキも油断はできません。
仕分けの段階で、多くの営業所には冷凍庫内で仕分けできるスペースがなく、一度常温の室内で仕分けする必要があります。冷凍庫を出たり入ったりする回数が増えるほど品質を落とさないよう注意が必要で、物量が多い日は崩れないよう慎重に積み込んでいました。

さらに年末は、おせちの取り扱いも気を遣います。
形態がばらばらで、大きさもさまざま。箱の中身をイメージして扱わなければいけません。

お歳暮の常温ギフトとクール品が同時に届くため、積み込みの段階から配置を考える必要がありました。

壊れ物、クール便、大型荷物、冬ギフトが重なる年末は、複数の条件を同時に意識しながら回る季節。
物量も緊張も強まる時期でした。

年末に訪れる最後の繁忙ピーク

12月中旬を過ぎると、冬の繁忙期はさらに加速します。
帰省の準備でスーツケースや段ボール箱が増え、大掃除や買い替えで届く日用品も重なり、荷物のサイズも種類も一気に広がります。

そこへ加わるのが、クリスマス前後の食品ギフトや冷凍食品、そしてクリスマスギフトのラッシュです。
特に23日から25日までは、配達件数が普段とは比べものにならないほど増え、荷台の中は常に気の抜けない状態でした。

そして、29日からはいよいよ年末ラストスパートのおせちが到来します。
29日は冷凍便が中心ですが、30日には冷蔵便が増え、31日には常温のおせちも到着します。
中身の形状が見えないだけに、どれも「横にできない」「倒せない」荷物ばかりで、緊張感は一層高まりました。

それでも31日の午後になると荷物の量は落ち着き始めますが、最後の一件まで気を抜くことはできません。
すべて届け終えた瞬間の安堵と解放感は、冬の繁忙期ならではのものです。

荷物の先にいる人を思い続けた季節

冬の繁忙期は、ただ忙しいだけではありません。
種類も大きさも扱い方も異なる荷物が他の月以上の量で次々と届き、その一つひとつに向き合うための集中力と体力が問われる季節です。

12月31日に最後の荷物を届け終えるまで、緊張の糸が切れることはありませんでした。
それでも、年末の荷物を無事に届け終えたときの達成感は特別なものがあります。

誰かの一年の締めくくりや新年の準備に、少しでも力になれているのだと思うと、冷たい風の中で走り回った日々にも意味があったと感じられました。

年末が近づくたびに思い出すのは、「たくさんの荷物の先には必ず待っている人がいる」という当たり前のこと。
その気持ちは、私だけでなく、多くの宅配員が心に抱いている覚悟でもあります。

忙しさに押されそうな日でも、最後の一件まで丁寧に届けようとする姿勢は、今も現場にしっかり根付いています。

12月は特に荷物が集中しやすく、予定通りに届かず不安になることもあるかもしれません。
そんなときは、一度状況を確認したり相談してみたりすることもできます。

この時期だけは少しお待たせしてしまうかもしれませんが、宅配員は全力で頑張っていますので、心穏やかに待っていていただけるとありがたいです。

荷物がある限り、宅配員は必ず届けに向かいます。
その覚悟を胸に、今日も多くの宅配員が年末の街を走っています。



ライター:miako
宅配ドライバーとして10年以上勤務した経験を生かし、現場で出会った人々の温かさや、働く中で積み重ねてきた“宅配のリアル”を、経験者ならではの視点で綴っています。
荷物と一緒に交わされてきた小さなエピソードを、今は文章としてお届けしています。


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