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「もっと速度を上げろ!」法定速度で走るバスに激怒した乗客…運転士が抱える“飛ばせない事情”

  • 2025.12.22
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出典:photoAC(※画像はイメージです)

師走ともなると、いつも予定が増え「移動時間を少しでも短縮したい」と考える人は増えることでしょう。一般道も交通量が増加し、バスも予定時刻を遅れて運行することもしばしば…

今回は、送迎バスの運行管理で市内循環バスの乗務をしていたとき、速度についてご意見をいただいた経験を紹介します。

バスだけでなく、車を運転する以上、安全が鉄則です。操作を間違えたり、交通ルールを無視した運転をしたりすると、思わぬ事故を招きかねません。

しかし、なかにはご自身の事情から、運行についてご意見をいただくこともありました。今回は、私が速度についてご意見をいただいたエピソードをお話します。

安全運転よりも時間が大事?「もっと速度を上げろ!」

一般道では、道路の形状や地域の特性によって、40km/hや60km/hなど制限速度が設けられています。制限速度には、万が一のときにも速度を守っていれば、大きな事故を防止できるという意味があります。

しかし、10年ほど前に自治体の市内循環バスを運転していた際、乗客から速度で叱られたことを、私は今でも忘れられずにいます。

年末にしては交通量が少なかったある日、時間通りに運行していた際、一人の乗客から「もっと速度を上げろ!」と言われました。速度を控えろと言われたことはありますが、速度を上げろと言われたのは、初めての経験でした。

法定速度で走行し、バス停も時刻表通りに発車しています。そのため、なぜ速度についての意見があるのか、私は理解できませんでした。

「安全のためにも、これ以上の速度は出せません。今の速度が法定速度です。」

私がそう一言伝えると、乗客から返ってきた言葉は思いもよらぬ意見でした。

バスとタクシーを比べないで!バスには守るべき運行時刻がある

詳しいご事情は分かりませんでしたが、何かお急ぎの用事があるご様子で、法定速度での運行にご納得いただけないようでした。

「同じプロドライバーでも、タクシーとはえらい違いやな!」
「こんなに遅いんじゃ、バスに乗っている意味がない!」

そもそも、バスとタクシーでは運行業務が異なります。バスは運行ルートや時刻表を守りながらの走行が必要です。一方、タクシーは一直線に目的地へ向かいます。

早く目的地に着きたいなら、バスよりもタクシーの方が早いです。しかし、乗客はタクシーという選択肢はなく、バスか自転車かの二択だったようです。

自転車よりはバスの方が早く到着できそうですが、バス側にも運行のルールがあり、無視することはできません。

「確かにタクシーなら早く到着できますね。しかし、バスは安全にルートを運行しなければならず、運転士として交通ルールの遵守もあるので、申し訳ございません。」

クレームで他のお客様に不安を与えないように、私はぐっと我慢して謝罪するしかありませんでした。

バスの運転士が守るのは交通ルールだけじゃない…

乗客からは、「法定速度で走っている車なんかおらん!このバスだけや!」とまで言われる始末…。

しかし、運転士は交通ルールだけを守っていれば良いというわけではありません。交通ルールを遵守しつつ、守らなければならないのは「社内ルール」です。

バスの運行では、速度に対する指導だけでなく、バス停の早発禁止があります。これらは、事故の有無に関係なく該当すれば指導が入り、運転士の適性を問われる問題に発展することもあります。

たとえば、バス停を1分早く出発したことで、定刻通りにバス停へ来た乗客が乗れなかった場合、それは運転士の重大なミスです。そのため、定刻通りに出発できるよう、運行中も時間配分に気を配らなければなりません。

時刻表は、法定速度をもとに作成されています。交通量が少ないからといって、速度を上げて走れば、当然次のバス停で時間調整により、意味なく停車しておかなくてはならないのです。

早く走ったり、バス停で時間調整するのが長くなったりすると、乗客の不快感につながります。結果として、不快感はクレームへと発展し、運転士自身の首を絞めることになります。

安全だけでなく、快適な運行を提供することも、バス運転士ならではの努力だと言えるでしょう。

バスを利用する際は時間に余裕を持っておこう

バスの運転士は、安全・快適、かつ時刻表通りに運行することを理想としています。そのため、時刻表より早く到着することはありません。

交通量が少なく、終点のバス停で降車するなら早く到着できる可能性があります。しかし、途中のバス停では、時間を守りながら運行するため、無意味に速度を上げたり、先を急ぐ運行をしたりすることはありません。

運転士を経験した私だからこそ、バスを利用する際は、時間と気持ちに余裕を持っておくことをおすすめします。余裕がなければ、少し荒さの目立つ運転や時間の遅れに、過剰に反応してしまいがちです。

目的地まで急いでいるなら、タクシーや自家用車の利用も検討してみてください。


ライター:Venus☆トラベル

近畿地方でバスの運転に関わる仕事に携わって約12年、多くの送迎バスを運転しました。幼稚園や自治体、企業や施設など、それぞれの場所で学ぶことが多くありました。その反面、運転士視点で感じた心の声をリアルにお届けします。


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