1. トップ
  2. 定期券を忘れて「通してほしい」と申告→「定期券がないと通れませんよ」現物がないと通さない駅員の理由

定期券を忘れて「通してほしい」と申告→「定期券がないと通れませんよ」現物がないと通さない駅員の理由

  • 2025.12.15
undefined
出典:photoAC(※画像はイメージです)

こんにちは。元鉄道駅員の川里です。

今日は、私が駅員時代に経験した「理不尽な要求」をご紹介します。大事な定期券を忘れてしまったお客さまとのエピソードです。

駅員はひとつの駅にいない

「この駅員、毎日いるなあ」

改札口やきっぷ売り場の係員を見て、そう感じた経験はありませんか?

駅員はずっと同じ場所で働いているイメージもあるかもしれませんが、実際には他の職業と同じように定期異動があります。駅のメンバーは毎年少しずつ入れ替わっているのです。私は8年間で3度の異動を経験しました。

また、近隣の駅に1日だけ出向いて仕事をすることもあります。出張がほとんどない駅員の仕事の中で、ちょうど良い気分転換でした。駅によって物品の配置場所や混雑する日時は大きく異なるため、新鮮ではあるものの苦労もありました。

他駅手伝いは不慣れだらけ

他駅での手伝いで特に困ったのは、周辺施設への道案内です。

「〇〇という建物へ行きたいんですが、北口でいいんですか?」

と尋ねられても、私もその建物がどこにあるのかわかりません。元々その駅で働いている駅員に確認するほかなく、他の業務で手が離せないときはお待ちいただく場合もありました。

また、周辺駅からの運賃も配属駅での感覚と異なります。

「△△駅から来たんですが、途中の分まで定期券を持っています」

「わかりました。では途中からの200円…あ、違う違う。50円いただきます」

このように金額を混乱させてしまうこともありました。

さらにお客さまに直接関わるところでは、「グレーゾーンの対応」がわからない点も困りました。駅によってはきっぷ売り場以外に両替できる場所がなかったり、改札口の中にしかトイレがなかったりします。そこでは他の駅と違って両替に応じたり、入場券がなくても改札を通したりするのですが、このような案内は他の係員と統一しなければいけません。

定期券を忘れたお客さま

ある日、私が配属駅の近隣の駅に出向いていたときのことです。改札口に立っていると、少し遠くでハンドバッグの中身を焦ったようにかき混ぜている方を見かけました。

「家の鍵でも落としたのかな?」

などと考えていると、その方と目が合いました。お客さまがこちらに近寄ってきます。

「定期券を家に忘れてきたんですが、列車に乗せてもらえませんか?」

残念ですが、定期券がない状態で列車には乗れません。

「きょうはきっぷを買って乗車してください」

そう案内しましたが、お客さまは納得いかないようです。

「定期券は確かに家にあるんです。きょうだけ、今だけ見逃してください」

お客さまの話によると、次の列車に乗らなければ仕事に遅れてしまうそうです。事情は本当に気の毒だったのですが、配属でない駅ということもあり、「今だけですよ」と通すことはできません。仮に配属駅で申告されていたとしても、降りる駅から了承してもらうことは難しいでしょう。

「見覚えありませんか?」

「定期券はこの駅で買いました。私に見覚えはありませんか? 定期券の購入申込書は保管してありませんか?」

お客さまはどうにか「定期券を購入した証拠」を求めました。残念ながら、この駅でお客さまに定期券を発売したのは私ではないでしょう。また、定期券の購入申込書は駅で一定期間保管しますが、それが見つかれば列車に乗れるわけでもありません。

どうやら、どうしてもきっぷは買いたくないようです。

「では、お客さまのご自宅はこの駅の近くですか?」

私がそう質問すると、お客さまはそうだと答えました。

「それなら、定期券を取りに戻られてはいかがですか?きっぷを買わないのであれば、それが最も早いと思います」

「きっぷか定期券を持っていなければ、この改札は通れません」という意思表示です。私は「きっときっぷを買われるだろう」と思いました。しかしお客さまは、定期券を取りに行ってしまいました。このあと私は休憩に入ったので、お客さまが戻ってきたかどうかはわかりません。

「きっぷがある」と「きっぷを買った証拠がある」は違う

きっぷや定期券がない状態で「列車に乗りたい」と申告されるお客さまは時々いらっしゃいます。領収書を見せたり、きっぷの写真を見せたりして「ほら、ちゃんと買っている。だから通してくれ」というわけですが、それらでは乗車できないのです。

領収書にはどこの駅でいくらのきっぷをいつ買ったのかが書かれています。お客さまが何らかのきっぷを買って会社にお金を支払ったことはわかるのですが、それが乗ろうとしている区間の運賃なのか、別の区間なのか、または乗車券以外の特急券や指定席券なのかがわかりません。

さらに、もし「領収書や写真さえあれば乗っていいですよ」とルールを変えてしまうと、ある不正を可能にしてしまいます。きっぷや定期券を持っていないふりをして改札を通り、こっそり払い戻せてしまうのです。この不正を防止するためにも、きっぷや定期券は現物を確認する必要があります。

定期券をなくさないようにするには

今回のケースでは家に帰れば定期券はあったはずですが、忘年会や新年会でお店に忘れ物をしたり、どこかになくしものをしたりしてしまう方もいるかもしれません。お酒で酔っても定期券をなくさないようにするには、ちょっとした工夫をすると効果的でしょう。

財布はさまざまな場面で取り出すので、パスを出す必要がない場面でも鞄の外に出すことになり、置き忘れのリスクが上がります。

特に忘年会や新年会に加えて歓送迎会などのお酒の場では、パスケースや服のポケットに入れるなどして、不用意にパスを取り出すことのないよう対策するといいでしょう。

私はパスケースに入れ、服のポケットに入れていました。退職までの8年間、忘年会や新年会に加えて歓送迎会その他の機会でお酒を飲みましたが、パスを忘れることはありませんでした。

定期券をなくしてしまわないか不安という方は参考にしてみてください。ただし、洗濯機に入れる前に定期券をポケットに入れっぱなしにしていないか必ず確認しましょう。私は2度失敗しました。


ライター:川里隼生

鉄道会社の駅係員として8年間、4つの駅を経験しました。コロナ禍やデジタル化を通して移り変わってきた、会社としての鉄道サービスの未来像と、お客様それぞれが求めている鉄道サービスのあり方の両方から学んだことを記事にしていきます。


【エピソード募集】日常のちょっとした体験、TRILLでシェアしませんか?【2分で完了・匿名OK】