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「義父のトイレ音が丸聞こえ…」紅白の音量を上げ続ける妻。新築20畳LDKの“悲惨な代償”【一級建築士は見た】

  • 2025.12.11
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出典元:photoAC(画像はイメージです)

「『廊下なんてただの移動スペース。その分をLDKに回しましょう』という提案は、当時は魅力的でした。でも、年末年始に人が集まるたび、あの時の決断を呪いたくなります」

そうため息をつくのは、3年前に都内に狭小住宅を建てたFさん(30代女性・主婦)。

Fさんの家は、限られた敷地を有効活用するため、1階の廊下を極限まで削りました。その結果、20畳という広々としたLDKを実現しましたが、その代償として「トイレのドア」がリビングのテレビの真横に来ることになりました。

家族だけの生活なら、「トイレが近くて便利」で済みます。

しかし、夫の両親や親戚が集まる「お正月」になると、そのリビングはただの“気まずい”空間へと変貌します。

紅白歌合戦の音量を上げ続ける“気まずい夜”

Fさんが最も恐れるのは、年末年始の宴会中に訪れる「静寂」です。

「義理のお父さんが『ちょっとトイレ』と席を立つと、リビングに緊張が走ります。トイレのドアは薄い引き戸一枚。しかも、皆がくつろぐソファーのすぐ横なんです」

ジョボジョボ……という音や、水を流すジャーッという激しい音が、静まり返ったリビングに丸聞こえになります。

さらに最悪なのが、「音消し」のために流す水音すらも、会話を遮るノイズになってしまうこと。

「気まずさを消そうと、夫と私はテレビの音量を不自然なくらい大きくします。紅白歌合戦が大音量で流れる中、誰もトイレの話には触れない……。そんな奇妙な空間で新年を迎えるのが、本当に苦痛なんです」

Fさん自身も、来客中は恥ずかしくてトイレに行けず、近くのコンビニまで走ったこともあるといいます。

音だけではない、“ニオイ”と“視線”のストレス

リビング直結トイレの弊害は、音だけではありません。

食事中にトイレのドアが開閉するたび、中の空気がリビングに流れ込んできます。

「換気扇は回していますが、ドアを開けた瞬間、どうしてもニオイが漂ってくる気がして……。おせち料理を囲んでいる最中にトイレのドアが開くと、食欲が失せてしまいます」

また、トイレから出てきた人と、リビングでくつろいでいる人の目がバッチリ合ってしまうのも大きなストレスです。

用を足した直後の姿を義理の両親に見られる、あるいは見てしまう。

プライバシーがなさすぎる間取りが、年末年始の団らんを「互いに気を使う耐久レース」に変えてしまったのです。

一級建築士が指摘する“廊下レス”の代償

近年、コストダウンやLDKの広さを優先して「廊下のない家」が増えていますが、Fさんのような後悔事例は後を絶ちません。

建築士の視点では、これは「音のゾーニング(区分け)」の失敗と言えます。

1、遮音性の欠如
一般的な室内ドア(特に引き戸)は、通気のために足元に隙間(アンダーカット)が空いており、音を遮る能力はほとんどありません。壁一枚隔てただけでは、紙一枚挟んでいるのと大差ないのです。

2、心理的距離の欠如
「物理的な距離」は「心理的な安心感」に直結します。ワンクッション置かずに排泄空間とくつろぎ空間を繋げるのは、来客時の心理的負担を最大化させます。

どうしても直結させるなら…

もし、間取りの都合上どうしてもリビングからアクセスさせる必要がある場合は、以下の対策が必須でした。

●前室を設ける
トイレの手前に手洗い場や小さな収納スペースを設け、扉を2枚隔てる構造にする。

●収納を挟む
トイレとリビングの間の壁を厚くし、クローゼットや本棚を配置して「音の緩衝地帯」を作る。

シミュレーションが大切

「家は家族だけのものではないと、人が来て初めて気づきました」

Fさんは今年の年末も、テレビのリモコンを握りしめて冷や汗をかくことになりそうです。

これから家を建てる方は、図面の上で「義理の両親が遊びに来たシーン」をシミュレーションしてみてください。

そのトイレの位置は、本当にそこで大丈夫でしょうか?


ライター:yukiasobi(一級建築士・建築基準適合判定資格者)
地方自治体で住宅政策・都市計画・建築確認審査など10年以上の実務経験を持つ。現在は住宅・不動産分野に特化したライターとして活動し、空間設計や住宅性能、都市開発に関する知見をもとに、高い専門性と信頼性を兼ね備えた記事を多数執筆している。


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