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「間違いなく車内にある」位置情報は反応するのに見つからない…?元駅員が発見した、スマホの“意外な隠し場所”

  • 2025.12.11
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出典元:photoAC(画像はイメージです)

今日は、私が駅員時代に経験した「印象的なトラブル対応」の事例をご紹介します。列車の忘れ物を問い合わせるときのポイントにも触れていますので、参考にしていただけると幸いです。

列車内の忘れ物はどこへいく?

駅や列車に忘れ物をした経験のある方は多いと思います。私が働いていたときも傘、財布、かばんなど、毎日さまざまな忘れ物が駅に届けられていました。

駅のホームや通路などで見つかった忘れ物は、もちろんその駅が預かります。では、列車内に置き忘れられた物はどこへ行くでしょうか?

私が働いていた会社では、終点の駅到着後に乗務員が車内を巡回し、その駅に忘れ物を渡していました。また、終点が無人駅の場合は、折り返して直近の有人駅に渡します。このときは停車時間の都合で乗務員が改札口まで渡しに行く時間がないので、駅員がホームまで取りに行かなければいけません。

忘れ物の管理はどこまで優先する?

落とし物はお客さまの持ち物なので、厳正に管理する必要があります。忘れ物の特徴や拾った場所、現金ならその金額などを専用のアプリに入力します。お客さまが拾った忘れ物なら拾い主としての権利を主張する場合があるので、その意思確認も必要です。

お客さまから忘れ物の問い合わせを受けたときは、アプリで会社全体の忘れ物の中から調べます。もしも「すぐ取りに来るかもしれないから」と思って忘れ物をアプリに登録しないでいると、他の駅で持ち主が忘れ物の問い合わせをしたときに見つけられなくなってしまいます。

そのため、忘れ物はできるだけ早くアプリに登録するようにしていたのですが、他のお客さまの案内などがあって後回しになってしまう場合もありました。同時にいくつもの仕事をしなければならないため、駅員には仕事の優先順位を判断する力も求められます。

スマートフォンが列車の中に

その女性のお客さまが改札口に見えたのは、ある寒い日の夜8時ごろのことでした。早番や日勤の駅員たちはもう退勤しており、他の駅員が休憩時間だったこともあって私がきっぷ売り場と改札口を同時に1人で対応する時間帯です。

「スマホをどこかに落としたんですが、ここに届いていませんか?」

ある駅から列車に乗り、この駅で降りてしばらくたってから紛失に気づいたのだそうです。私は忘れ物登録のアプリを開き、窓口に誰も来ないことを願いながらスマートフォンの登録一覧を調べました。結果、それらしい忘れ物はありませんでした。

しかし数分もしないうちに、また改札口にお越しになると

「もう1台のスマホで位置情報を調べてみたら、いまこの駅に停まっている列車にあるみたいです。取ってきてもらえませんか?」

とおっしゃいます。

迷った末の判断

その列車はこの駅を終点として走ってきていた列車で、折り返してまた別の駅へ向かう列車でした。この駅での折り返しの停車時間はおよそ30分です。すでに20分は経っていました。

いまは自分1人しかいないため、ホームに行くことはできない。そう判断した私は、

「スマホがあれば、乗務員が見つけて持ってきてくれるはずです。それまで待っていてください」

と案内しました。きっぷ売り場と改札口の両方を一時的に閉鎖して探しに行く方法もありますが、ホームではなくて列車内の忘れ物なら乗務員が拾得するだろう、と判断しました。

ところが出発時刻が迫っても一向に乗務員は現れません。しびれを切らしたお客さまが言います。

「なら、私が駅に入って探してきてもいいですか?」

当時の私には、名案であるように感じられました。

「いいですよ。そのまま有人改札を通っていってください」

目前で閉まったドア

ところが、すでに列車の出発が迫っている時刻でした。列車が出発したあと、お客さまは改札口に戻ってきました。

お客さまがホームに着いた瞬間、目の前でドアが閉まって出発してしまったのだと言います。お客さまは大層お怒りで、休憩が終わった駅員や事務室の上司も「なんだなんだ」といったふうに改札口に集まりました。

そう、改札口から呼べば聞こえる位置の事務室に上司がいたのです。上司を呼んで改札口に立っていてもらい、自分が列車へスマホを探しに行く選択肢もありました。当時の私は「1人しかいないときは1人ですべて判断しなければならない」と言われていましたが、「1人で解決しなければならない」と勘違いしていたのです。

冬の夜、無人駅に1人

事情を聞いた上司の指示により、私は次の列車に乗って前の列車を追いかけ、終点でスマホを探しに行くことになりました。お客さまからはもう1台のスマホの画面を見せられて「位置情報が移動している。間違いなく車内にある」と念を押されました。

この路線は私がいた駅を除き、すべて無人駅です。ホームの冷たい空気が列車の中に流れこんで来るのを感じながらスマホを探しますが、どこの座席や床、窓枠を探してもスマホがありません。これで見つからなかったらどうしようと、いよいよ焦っていたとき、乗務員が声をかけてくれました。

「座席はよく探した?背もたれと座面の間に挟まっているかもしれないから、座面を外してみて」

そう言われた私がもう一度先頭車両に戻って座席の座面をひとつずつ外していくと、1両目の最後のあたりで「ゴトン」と固いものが床に落ちる音がしました。

忘れ物探しを最優先にはできない

「あった!」

申告通り、白い本体に透明なカバーのスマホが床に落ちたのを見たときのほっとした気持ちは、今でも覚えています。座面を外さない限り見えない場所に入り込んでいたので、乗務員も気がつかなかったのです。

結果論ではあるものの、今回の場合は仮にすぐ停車中の列車に私やお客さまが行ったとしても、出発時刻までにスマホを見つけるのは難しかったでしょう。しかし、駅員に忘れ物の問い合わせをして

「少し待ってください」

と言われ、

「早く忘れ物を探してほしい」

と感じた経験のある方も多いのではないでしょうか。

基本的に線路の中の落とし物なら駅員、列車の中の忘れ物なら乗務員が対応します。しかし線路内の落とし物を拾うときは、周囲の列車を止めてからでないと拾えません。また、乗務員はドアの開け閉めや列車の安全確認などの業務をダイヤ通りに行う仕事があるので、ダイヤに余裕がなければ忘れ物の捜索ができません。

少しでも探してもらいやすくするために

今回は見つかりにくい場所に入ってしまいましたが、多くの忘れ物は一目でわかるところにあるかと思います。駅員が忘れ物を探すのに使える時間には限りがあるので、忘れ物をした場所をできるだけ細かく指定してもらえると「停車時間で探せそうだな」と駅員が判断できます。

「さっき降りた6両編成の列車の中間車両に財布を落としたようだから、2両目から5両目まで見てほしい」

という方の早く探してほしい気持ちはわかりますが、残念ながら営業中の列車にそのような時間はありません。「車内清掃の係員が見つけるまで待ってください」という案内になってしまいます。

「前から5両目の後ろのドア付近、進行方向左側に乗っていました」

と申告されれば探す場所が限られるので、駅員や乗務員が運転中の列車を探すことができます。忘れ物をしたときは、できるだけ詳しく場所を申告していただけると、走行中の列車でも探してもらいやすいでしょう。


ライター:川里隼生

鉄道会社の駅係員として8年間、4つの駅を経験しました。コロナ禍やデジタル化を通して移り変わってきた、会社としての鉄道サービスの未来像と、お客様それぞれが求めている鉄道サービスのあり方の両方から学んだことを記事にしていきます。