1. トップ
  2. 「暖房代が月4万でも寒い…」流行りの“リビング階段”で…予算をケチった40代夫婦の“末路”【一級建築士は見た】

「暖房代が月4万でも寒い…」流行りの“リビング階段”で…予算をケチった40代夫婦の“末路”【一級建築士は見た】

  • 2025.12.19
undefined
出典元:photoAC(画像はイメージです)

「『今のままでも十分暖かいですよ』という言葉を鵜呑みにして、断熱材のグレードを下げてしまいました。あの時、数十万円をケチったツケが、まさかこんな形で返ってくるなんて……」

そう後悔を口にするのは、3年前に都内で注文住宅を建てたSさん(40代男性)。

Sさん夫妻の最大のこだわりは、LDKに開放的な「リビング階段」を設けることでした。しかし、建築費の高騰もあり、見積もりは予算オーバー。

そこでSさんは、システムキッチンのグレードを守るために、「窓(サッシ)」と「断熱材」の仕様を下げる決断をしました。

「『断熱性能』なんて言葉あまり聞かなかったし、まあ大丈夫だろうと軽く考えていたんです」

しかし、その油断が、入居後の冬に「後悔」を招くことになります。

足元を直撃する“冷気の滝”

入居して初めての12月。外気温が5度を下回ると、リビングに異変が起きました。

エアコンの設定温度を28度にしても、足元がスースーして全く温まらないのです。

「ソファーでテレビを見ていると、背後から冷たい風が『ヒューッ』と降りてくるのが分かります。まるで、階段の上から冷水を浴びせられているような感覚でした」

これが「コールドドラフト現象」です。窓の断熱性能が低いため、2階で冷やされた重い空気が、階段を伝って1階のリビングへ滝のように流れ落ちてきます。

Sさんは慌てて電気ヒーターを買い足しましたが、1月の電気代は驚愕の4万円オーバー。

「高い電気代を払った上に、家の中ではダウンジャケットが手放せない。本当に情けない話です」

2025年4月から変わった“家のルール”

Sさんの失敗の原因は、「リビング階段」という熱移動が激しい間取りを採用したにもかかわらず、家の断熱性能がそれに見合っていなかった点にあります。

実は、Sさんが家を建てた当時、一定の省エネ基準への適合は義務化されておらず、強制ではありませんでした。そのため、コストダウンの対象として断熱性能が削られることが少なくなかったのです。

しかし、これから家を建てる人は事情が異なります。

2025年4月の法改正により、全ての新築住宅において「省エネ基準への適合」が完全義務化されました。

つまり、Sさんの家のような「断熱性能が不十分な家」は、法律上、もう建てることができなくなったのです。国が規制をかけるほど、日本の住宅の寒さ(断熱不足)は深刻な問題だったと言えます。

一級建築士が見る“削ってはいけないコスト”

Sさんの失敗は、目に見える設備(キッチン)を優先し、家の基本性能(窓・断熱)を当時の「なんとなく標準レベル」でお茶を濁したことにあります。

リビング階段を成功させるには、以下の視点が不可欠でした。

1.窓のアップグレード:
冬の暖房時、熱の流出の5〜6割は「窓」から起こります。ここをアルミサッシなどで妥協したことが致命傷でした。

2.法改正レベル以上の性能:
2025年の義務化基準はあくまで「最低ライン」です。開放的な間取りにするなら、この基準をさらに上回る「ZEH水準」や「HEAT20 G1・G2グレード」を目指すべきでした。

流行りを取り入れるなら“見えない性能”への投資を

Sさんは、自分の家の場合は後付けで対策しようにも、この開放的な構造ではどうにもならないことを悟りました。間仕切りを作ることもできず、暖房効率の悪い空間で、高い電気代を払い続けるしかありません。

「法改正前の家だから仕方ない、では済まされません。ローンを払う35年間、ずっと寒いままなんですから」


ライター:yukiasobi(一級建築士・建築基準適合判定資格者)
地方自治体で住宅政策・都市計画・建築確認審査など10年以上の実務経験を持つ。現在は住宅・不動産分野に特化したライターとして活動し、空間設計や住宅性能、都市開発に関する知見をもとに、高い専門性と信頼性を兼ね備えた記事を多数執筆している。


【エピソード募集】日常のちょっとした体験、TRILLでシェアしませんか?【2分で完了・匿名OK】