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新築購入も「ブゥーン…」12月の深夜に異変…40代男性を襲った“大誤算”「ただの物置になった」【一級建築士は見た】

  • 2025.12.9
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出典元:photoAC(画像はイメージです)

「閑静な住宅街を選んだはずでした。昼間は本当に静かです。でも、夜中になると……頭に直接響くような『あの音』が始まって、動悸が止まりません…」

そう話すのは、半年前に念願の戸建て住宅を建てたOさん(40代男性・夫婦+子供一人)。

Oさんは、「静かな環境でぐっすり眠りたい」と、幹線道路から離れた住宅地に土地を購入。寝室の配置にもこだわり、道路とは反対側の「家の裏手」に寝室を設けました。

しかし、初めて迎えた冬。そのこだわりが、まさかの「大誤算」を引き起こすことになります。

深夜3時、枕元で唸る“見えない敵”

異変が起きたのは、気温が氷点下近くまで下がった12月の深夜でした。

ふと目が覚めると、「ブゥーン……ブゥーン……」という低く重い音が、部屋全体を包み込んでいました。

「最初は耳鳴りかと思いました。でも、枕に耳を押し付けると、振動と一緒に音が伝わってくるんです。気になって窓を開けると音は止む。でも窓を閉めて布団に入ると、また響いてくる……。」

音の正体は、隣家の「エコキュート(電気温水器)の室外機」でした。

割安な深夜電力を使ってお湯を沸かすため、機械が最も激しく稼働するのは、皮肉にもOさんが最も深く眠りたい「深夜帯」。

しかも、Oさんが「静かだろう」と選んだ寝室の配置は、隣家にとっては「給湯器や室外機を置くのに最適なバックヤード」だったのです。

「相手は普通に生活しているだけですから、文句も言いづらくて。耳栓をしても、この低い音は体を突き抜けてくる気がして、全然眠れません。」

なぜ冬に悪化する?「低周波音」の恐怖

近隣トラブルの中でも、解決が最も難しいのがこの「騒音」、特に「低周波音」の問題です。

建築士の視点から解説すると、Oさんを苦しめているのは単なる「音」ではなく「振動」に近い性質を持つ騒音です。

高い音(話し声やテレビの音)は壁や窓ガラスで比較的防ぎやすいのですが、室外機や給湯器が発する低い音(低周波)は、壁を突き抜け、建物の構造体自体を震わせて遠くまで伝わる性質があります。

特に冬場は以下の条件が重なり、被害が深刻化します。

①機器の負荷増大:外気温が低いため、お湯を沸かす・暖房するためにコンプレッサーがフルパワーで唸りを上げる。

②静寂な環境:窓を閉め切っているため、屋外の環境音が消え、室外機の音だけが際立って聞こえる。

「二重サッシにしたのに聞こえる」というのは、音が空気ではなく、壁や床を伝って侵入している証拠なのです。

一級建築士が教える“配置計画の落とし穴”

Oさんの事例は、決して特殊なケースではありません。

日本の住宅事情では、隣家との距離が近いため、「自分の間取り」と「隣家の設備」の干渉問題が頻発します。

この「落とし穴」を避けるためには、設計段階での確認が不可欠です。

① 隣家の設備位置を確認する

すでに隣家が建っている場合、必ず現地に行き、給湯器やエアコン室外機の位置を目視確認してください。その真横に寝室を持ってくるのは自殺行為です。

② これから建つ場合の想定

隣が空き地の場合でも、「ここはおそらく水回りやバックヤードになるだろう」と予測し、寝室をそのゾーンから離す、あるいは収納スペース(クローゼット)を緩衝地帯として壁側に配置するなどの自衛策が必要です。

③ 寝室の階を変える

1階は室外機の影響を受けやすいため、可能であれば寝室を2階にするだけでも、振動の影響は軽減されます。

“静けさ”は間取りで買うもの

「隣の人に『給湯器を移動してくれ』とは言えません。結局、私たちはその部屋で寝るのを諦め、今は反対側の狭い洋室に布団を持ち込んで寝ています。こだわりの主寝室が、ただの物置になってしまいました」

Oさんの家では、最も条件の部屋が「使えない部屋」になるという、あまりに痛い損失を被ることになりました。 家づくりでは、日当たりや家事動線ばかりに目が向きがちですが、 「夜、その部屋の窓の外に何があるか?」 を想像すること。それが、入居後の安眠を守るための鉄則なのです。


ライター:yukiasobi(一級建築士・建築基準適合判定資格者) 地方自治体で住宅政策・都市計画・建築確認審査など10年以上の実務経験を持つ。現在は住宅・不動産分野に特化したライターとして活動し、空間設計や住宅性能、都市開発に関する知見をもとに、高い専門性と信頼性を兼ね備えた記事を多数執筆している。