1. トップ
  2. 注文住宅を建てるも「つま先立ちで歩くしか…」12月に30代夫婦を襲った“誤算”【一級建築士は見た】

注文住宅を建てるも「つま先立ちで歩くしか…」12月に30代夫婦を襲った“誤算”【一級建築士は見た】

  • 2025.12.7
undefined
出典元:photoAC(画像はイメージです)

「インスタグラムで見た『リゾートホテルのようなバスルーム』に一目惚れしました。生活感のない、開放的な空間……。でも、それが冬には“命がけの場所”になるなんて、想像もしていませんでした。」

そう話すのは、郊外に注文住宅を建てたAさん(30代女性・夫婦2人暮らし)。

Aさん夫婦がこだわったのは、洗面所と浴室を透明なガラスで仕切り、さらに浴室の壁一面を大きな窓にして中庭を望めるようにした「ホテルライク」な設計でした。

完成した当初は、朝陽を浴びながらのシャワーや、夜風を感じる入浴タイムに酔いしれていたといいます。

しかし、初めての冬。その自慢のバスルームは、家族を拒絶する“冷蔵庫”へと変貌しました。

足元を襲う冷気…“コールドドラフト”の恐怖

12月に入り、気温がひと桁台になると、異変は顕著に現れました。

「お風呂に入ろうと服を脱いだ瞬間、足元を冷たい風が『スーーッ』と通り抜けるんです。窓は閉まっているのに、まるで隙間風が吹いているようで……。」

Aさんを襲ったのは、「コールドドラフト現象」でした。

浴室の大きな窓ガラスや、洗面所との仕切りのガラス面で冷やされた室内の空気が、重くなって床面に流れ落ちる現象です。

「一番風呂に入ろうとしても、浴室内の床が氷のように冷たくて、つま先立ちで歩くしかありません。湯船に浸かっても、肩から上がスースーして全然温まらないんです。」

開放感を求めて採用した「ガラスの壁」と「大きな窓」が、断熱の弱点となり、凄まじい勢いで熱を奪っていたのです。

「ヒートショック」と隣り合わせの生活

さらに深刻だったのは、洗面脱衣室の寒さでした。

浴室との仕切りがガラス一枚であるため、浴室の冷気がダイレクトに伝わり、暖房をつけてもなかなか温まりません。

「服を脱ぐのが苦痛で、お風呂に入るのが億劫になってしまいました。夫も『寒すぎて心臓がキュッとなる』と言っていて……。これって、高齢者がなるというヒートショック予備軍ですよね?」

せっかくの「癒やしの空間」が、冬の間は「我慢と恐怖の空間」になってしまったのです。

さらに、大きなガラス面は結露もひどく、入浴後の水切り作業という重労働も、Aさんの心を折る原因となりました。

一級建築士が見る“デザインの代償”

建築士の立場から見ると、明らかに「断熱性能」と「窓の大きさ」のバランスが崩れていました。

① 窓の性能不足

壁一面の窓にするのであれば、最高等級の「トリプルガラス」や「樹脂サッシ」が必須でしたが、予算の関係で一般的なアルミサッシが採用されていました。これでは、壁に穴が開いているのと同じくらい熱が逃げてしまいます。

② 浴室暖房の能力不足

ガラス面からの熱損失が大きすぎて、標準的な浴室暖房乾燥機ではパワーが追いついていませんでした。

③ 床暖房の欠如

タイル張りの洗面所は見た目は美しいですが、冬は底冷えします。こここそ床暖房を入れるべきでした。

どうすればよかった?――見た目と快適さの両立

Aさんは現在、窓に断熱シートを貼り、脱衣所に大きなセラミックヒーターを置いて冬を凌いでいますが、「せっかくのおしゃれな見た目が台無し」と肩を落としています。

デザイン性の高い間取りを採用する場合、以下の対策が不可欠です。

① 「開口部」にお金をかける

窓を大きくするなら、その分、サッシとガラスの性能を最高レベルに上げる。

② 足元の断熱を強化する

脱衣所への床暖房や、断熱性の高い床材を選ぶ。

③ コールドドラフト対策

窓下にヒーターを設置するなど、冷気の降下を防ぐ計画を行う。

「ホテルは空調が完璧だから、あのデザインが成立しているんですよね。」

Aさんの言葉通り、住宅には住宅の“快適の守り方”があります。

これから家を建てる人は、

「真冬の夜、裸でそこに立てるか?」

という視点で、間取りと設備をチェックすることが、後悔を防ぐ鍵となるのです。


ライター:yukiasobi(一級建築士・建築基準適合判定資格者) 地方自治体で住宅政策・都市計画・建築確認審査など10年以上の実務経験を持つ。現在は住宅・不動産分野に特化したライターとして活動し、空間設計や住宅性能、都市開発に関する知見をもとに、高い専門性と信頼性を兼ね備えた記事を多数執筆している。