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夜勤中、処置で手が震え…患者「大丈夫?」え!?→限界の看護師を救った、同僚の“たった一言”

  • 2025.12.7
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出典元:photoAC(画像はイメージです)

こんにちは。現役看護師ライターのこてゆきです。

医療の現場に身を置く私たちにとって、「頑張ること」は呼吸のようなもの。患者さんの命と安心を預かるプロとして、どこまでも「完璧」であろうと、知らず知らずのうちに自分を追い込みがちです。

しかし、その張り詰めた糸が、ある夜ぷつりと切れそうになった経験から、私はチームで働くうえで最も大切な「ある言葉の重み」と、支え合う真の強さを学びました。

張り詰めた「大丈夫」という名の孤立

以前の私は、人に頼ることに強い抵抗がありました。「忙しいのはみんな同じ」「ここで迷惑をかけたくない」それは、自分に課した厳しすぎる鉄則でした。どんなにしんどくても、顔には出さず、「大丈夫」と笑ってやり過ごすことが、私にとっての強さの証明だと思い込んでいたのです。

その「大丈夫」は、無意識のうちに自分を孤立させていました。心の中では、「私は一人で乗り切れる」と周囲に静かに誇示することで、かえって助けを求める勇気を失っていたのです。

夜勤中の限界。手が震え、器具を落とした瞬間

その日の夜勤は、まさに私の限界を示していました。スタッフは一人少なく、入院したての患者さんが多い病棟で、ナースコールは鳴り止まない喧騒の中。気づけば休憩どころか、水も一口飲んでいませんでした。夜間の多忙と疲労が蓄積し、心身ともに悲鳴を上げていたのです。

そして、ついにその瞬間が訪れます。

ある患者さんの処置中に、ふとした拍子に手が震え、器具を落としてしまったのです。小さな音でしたが、患者さんが不安そうに私を見つめました。

「大丈夫?疲れてるんじゃない?」

患者さんのその一言が、私の心の奥を鋭く突きました。私、疲れてる。けれど、それを認めたら崩れてしまいそうで、頷けませんでした。自分の限界が、医療安全という絶対に越えてはいけないラインに迫っていることを痛感しました。

静かに響いた、たった一言の本音

ナースステーションに戻った私に、同期の看護師が「顔、真っ青だよ。少し休みな」と声をかけてくれました。

それでも私は、長年の習慣で、作り笑顔で「大丈夫」と言い返しました。

すると、彼女は私を責めるでもなく、静かにそして真剣に、私の目を見て言いました。

「大丈夫じゃないよ。助けてって言っていいんだよ」

その言葉は、私の胸の奥のにあった感情が溢れ出し、涙腺を緩めました。私は、自分一人で背負い込もうとしていた重しが、一瞬にして外れたのを感じました。

溢れる涙を止められずに声を詰まらせながら、私はようやく言いました。

「ごめんね、ちょっと手伝って」

初めての「助けて」は、私にとって弱さの告白ではなく、チームを信じる勇気の証となりました。

頼ることで生まれる、心の一杯分のゆとり

同期とナースコール対応を分担し、ほんの10分間、スタッフルームで深呼吸をしました。体も頭も少しずつ落ち着いていくのがわかります。まるで、長い間飲み込めずにいた熱いコーヒーを、ようやく静かに一口飲めたような、心にゆとりが生まれる瞬間でした。

病室に戻ると、先ほどの患者さんが穏やかな表情で

「大丈夫だった?顔色戻ったね。よかった」

と言ってくださいました。

やはり、私の張り詰めた空気が伝わっていたのでしょう。

あの夜、人に頼ることを覚えてから、私の看護は変わりました。

誰かに頼ることは、決して甘えではありません。それは、自分を大切にする力であり、チームで働くプロフェッショナルとして、安全を確保するための最も建設的な行動なのだと知ったのです。心に余裕が生まれたからこそ、患者さんの小さな変化にも気づけるようになり、以前より穏やかに接することができるようになりました。

優しい言葉が、次の安心を紡ぐ

「頑張る」ことが習慣化している医療現場だからこそ、仲間に頼ることで、チームとしての看護はより柔らかく強くなるのだと確信しています。一人で背負わず、チームで支え合うことが、患者さんにも本当の安心を与えるのです。

今、私は後輩に必ず声をかけます。

「無理してない?」「助けてって言っていいんだよ」

あの夜の経験は、私に「完璧じゃなくてもいい」という優しさをくれました。そう言えるようになった今、私は看護師として、そして一人の人間として、深く成長できた気がしています。頼ることは弱さではない。それは、信頼と勇気の証なのです。



ライター:精神科病院で6年勤務。現在は訪問看護師として高齢の方から小児の医療に従事。精神科で身につけたコミュニケーション力で、患者さんとその家族への説明や指導が得意。看護師としてのモットーは「その人に寄り添ったケアを」。