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朝ドラでも存在感を放った“国民的俳優” 新年スペシャルドラマも出演…“二枚目俳優”がみせた新境地

  • 2025.12.20

SNSを覗くと「年間ベスト」というワードがチラホラと投稿され始めており、今年もまた師走が来たのだと感じた。現在オンエア中のドラマでは、朝ドラの『ばけばけ』や野木亜紀子脚本の『ちょっとだけエスパー』に夢中になっているが、この1年を振り返った時に面白かった完結済みのドラマとしてパッと脳裏に浮かんだ一つが『しあわせな結婚』だった。

※以下本文には放送内容が含まれます。

『しあわせな結婚』を言い表したことわざ「禍福は糾える縄の如し」

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阿部サダヲ 松たか子(C)SANKEI

脚本を大石静、主演を阿部サダヲが務めた『しあわせな結婚』は、“マリッジ・サスペンス”と題され、考察要素のあるサスペンスとして、またはほのぼのとしたホームドラマとして多面的な表情を持ちながら、シンプルな結婚とはなにかを問う作品でもあったように思う。

最終回のセリフの中に、「禍福は糾える縄の如し」ということわざが登場する。この世の幸福と不幸は表裏をなしていて、何が不幸のもとになり、何が幸福をもたらすかわからない、という意味を示す言葉だ。オンエア時は、二転三転していく殺人事件の真相に翻弄され、新境地と言える松たか子のチャーミングでいてミステリアスな息をのむ演技に魅了されていたが、今改めて観直してみると、『しあわせな結婚』を象徴するような先のことわざやラストにネルラ(松たか子)が寝言で言ったイタリア語「クワンドモリレモ、サレーモインシエーメ(私たちは死ぬときも一緒にいるだろう)」の意味に辿り着くことができる。

同時に二枚目俳優としての阿部サダヲの演技にも心を掴まれる。幸太郎(阿部サダヲ)の弁護士として磨き上げてきた腕が全く通じないほどに、ネルラは掴みどころがない人物だ。最終回前の第8話で、事件の真犯人がレオ(板垣李光人)であることが明らかになる。その代償として、ネルラの家族はバラバラに。それならば、自分が犯人であることが真実であってほしかった、という気持ちはレオをかばう考(岡部たかし)とも歪んだ家族愛として共鳴してしまっている。

真犯人判明に終わらず、離婚を突きつけられた幸太郎が再び結婚に至るまでを最終回に持ってきていることが全体構成の上手いところ。自ら罪に問われる道を選ぶネルラを止め、「もう一回結婚しよう」と幸太郎はもう一度プロポーズをする。「しつこいんじゃない、粘り強いんだ」というセリフにも表れているように、幸太郎は“女神”のようなネルラに一目惚れをしてから、夫として励まし、手を取ってきた。何度も、何度も。ネルラが幸太郎と出会ったことは不幸などではなく、幸福としての、“しあわせな結婚”だということを示している。

“かっこいい”阿部サダヲを経て、2026年の始まりは『ふてほど』で弾ける

スペシャルドラマ『新年早々 不適切にもほどがある!~真面目な話、しちゃダメですか?~』として1月4日に放送となる『ふてほど』の市郎(阿部サダヲ)をはじめ、破壊(Vo.)としてフロントマンを務める『グループ魂』でのパフォーマンスなど、ユニークで飄々とした破天荒な姿がパブリックイメージとしては強いのかもしれない。脚本の大石は、2020年に放送された阿部と松の共演作であるドラマスペシャル『スイッチ』に登場する検事・駒月直(阿部サダヲ)を踏襲する形で、阿部に幸太郎を当て書きした。同時期に放送されていた朝ドラ『あんぱん』での“ヤムおんちゃん”こと草吉(阿部サダヲ)での優しく、真摯(飄々とした一面もあるが)な姿、さらには戦後80年ドラマ『八月の声を運ぶ男』での芝居も相まって、2025年の阿部は総じて誠実で、かっこいい役柄の多かった年とも言えそうだ。

だからこそ、年明けの『ふてほど』ではどれほど弾けた演技を見せてくれるのかが楽しみでもある。その振り幅を行き来しながら、彼は新たな“阿部サダヲ像”を粘り強く探求し続けていく。


ライター:渡辺彰浩
1988年生まれ。福島県出身。リアルサウンド編集部を経て独立。荒木飛呂彦、藤井健太郎、乃木坂46など多岐にわたるインタビューを担当。映画『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』、ドラマ『岸辺露伴は動かない』展、『LIVE AZUMA』ではオフィシャルライターを務める。