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「NHKだからこそ」初回放送の“秀逸な描写”が話題に…!菅田将暉主演の“新ドラマ”で描かれた7,500万キロ離れた恋

  • 2025.12.16

NHK特集ドラマ『火星の女王』が描くのは、2125年、火星と地球という7,500万キロの隔たりのなかで静かに芽吹く“恋”の存在だ。視覚を持たない火星生まれの少女リリ-E1102(スリ・リン)と、地球に住む青年・白石アオト(菅田将暉)。互いに会えず、触れられず、声すら聞こえない。しかし、たしかに心だけが通い合っている。そんな“距離”によって保たれる儚い関係性が、第1話で丁寧に紡がれていく。やがて壊れるかもしれない“安全な遠さ”と、それでも繋がっていたいという希望。その対比が、胸の奥を静かに焦がす物語。

※以下本文には放送内容が含まれます。

『ディスク・マイナーズ』がふたりをつなぐ唯一の“現在”

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放送100年特集ドラマ『火星の女王』第1話 12月13日放送(C)NHK

7,500万キロという距離は、あまりに現実離れしている。地球と火星。その間には宇宙があり、広大な無があり、時間がある。しかし、NHK特集ドラマ『火星の女王』第1話は、そのとてつもない距離を、親密さの証明に変換していた。

火星に生まれ育った少女・リリ-E1102(スリ・リン)は視覚を持たない。しかし、だからこそ培われた彼女の内なる目は、誰よりも遠くまで見通す力を持っていた。地球帰還計画に参加するという人生の節目に、彼女が思い浮かべていたのは、ある一人の青年の姿。それが、地球で暮らす研究員・白石アオト(菅田将暉)である。
ふたりの関係は、いわゆる“恋人”と呼べるほどのものではないのかもしれない。火星での短い研修中に出会い、偶然にも同じバンド『ディスク・マイナーズ』のファンだったことから会話が始まった。言葉を重ねた回数は少ない。約束した未来もあやふや。それでも、リリはアオトとの記憶をずっと胸にしまっていた。

物語が始まってすぐに提示されるのは、届かない距離に生まれる信頼である。ふたりは会えない。触れられない。すぐにメッセージの返事がもらえるわけでもない。それでも、音楽という共通の趣味や、互いに贈ったささやかな言葉が、時空を超えて心をつなぎとめている。
目の前にいない相手の存在を信じられる力。それこそが、本作が描こうとしている“リアル”なのだ。
SNS上でも「めちゃくちゃリアル」「NHKだかこその演出」と話題の、本作におけるさまざまな描写が秀逸なのは、それがいわゆるロマンチックな見せ方に頼っていないこと。むしろ、会話の合間、記憶の断片の中に、ふと顔を覗かせるような淡い感情として、恋の気配が描かれている。

崩れゆく距離? “事件”が示唆する、とある予感

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放送100年特集ドラマ『火星の女王』第1話 12月13日放送(C)NHK

そんな“安全な距離”が、急激に崩れ始める。訓練を乗り越え、地球帰還を目前に控えたリリが、突如として誘拐されてしまうのだ。その報せを受けたアオトの動揺。宇宙空間を挟んで、彼はリリを救うことができるのか?
そもそも“彼が何者であるか”すら、まだ完全には明かされていない。彼は父の失踪という痛みを抱えており、その過去とリリの誘拐事件がどう繋がっていくのか、謎が少しずつ提示されはじめている。これはラブストーリーであると同時に、スケールの大きなSFミステリーでもあるのだ。

この事件によって、これまで保たれていた彼らの距離感は、確実に変わりはじめている。彼らの関係性は、遠すぎるからこそ壊れなかったのかもしれない。それは、ある意味でとても優しい真実だ。人は、近づけば近づくほど、互いの温度差に傷つくものだから。
しかし、『火星の女王』は、その優しいバランスが崩れたときにこそ、リリとアオトがどう行動するのか。それを、これから真正面に描こうとしている。

恋が“リアル”になる瞬間を、私たちはまだ見ていない

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放送100年特集ドラマ『火星の女王』第1話 12月13日放送(C)NHK

リリ役のスリ・リンは、視覚障害を持つ少女の内面を繊細に演じており、表情の一つひとつに奥行きがある。彼女の“見えないまなざし”が、どれほど多くのものを捉えているか、視聴者にはじわじわと伝わってくる。
そして、アオトがその想いにどう応えていくのか。次回以降の展開に期待が高まるばかりだ。

第1話を観終えたあと、胸に残るのは、会えないからこそ信じられるという不思議な感覚だ。これは、宇宙という空間を借りた、限りなく私たちに近い物語なのかもしれない。
会いたくても会えない、触れたくても触れられない。それでも、誰かと繋がっていたいという願い。『火星の女王』が描くのは、そんな私たちの日常に潜む“もう一つの現実”なのだと思う。


NHK総合 放送100年特集ドラマ『火星の女王』2025年12月13日放送
NHK ONE(新NHKプラス)同時見逃し配信中

ライター:北村有(Kitamura Yuu)
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。X(旧Twitter):@yuu_uu_