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「食べすぎの日本人」が"栄養不足"に…93歳の栄養学者が警告「ヨボヨボ老人になる人がよく食べているもの」

  • 2025.11.24

健康に長生きするためには、どうすればいいのか。93歳の栄養学者で、女子栄養大学副学長の香川靖雄さんは「飽食の時代と言われるが、多くの日本人は栄養不足に陥っている。超加工食品の摂りすぎは栄養の偏りを招くので、十分に気を付けてほしい」という――。

食卓を囲んで「いただきます」
※写真はイメージです
飽食の時代だが、“20代の栄養不足”が進行中

最近は朝晩の冷え込みが厳しく、秋が深まってきました。みなさんはいかがお過ごしでしょうか。

秋といえば、読書、スポーツ、お月見、紅葉狩り等々、いろいろな楽しみがありますね。私の専門は栄養学ですから、なんといっても「食欲の秋」です。栗、柿、りんご、梨、ぶどう、さつまいも、かぼちゃ、銀杏、さんま、かつお等々、スーパーにもたくさん並んでいることでしょう。旬なものは栄養価が高かったり、価格も安くなることがありますから、季節を感じながら、しっかりと必要な栄養素を体にとり入れていたければと思います。

とはいえ、最近は、技術の進化で1年中食べられる食材も多くなっています。また、忙しい生活をしている方のために、栄養価の高い加工食品もたくさん用意されていますので、「栄養不足」に陥る心配はない……そう思われている方も多いのではないでしょうか。

しかし、油断は禁物です。実は、「飽食の時代」と言われて久しい日本において、とくに社会人になりたての20歳代の栄養不足が進行している可能性があるのです。

図表1は厚生労働省が2025年7月に発表した「令和5年国民健康・栄養調査報告」を基に作成した20〜29歳の栄養素の充足度を示したものになります。男女によってばらつきがありますが、総じて、食物繊維、ビタミンA、ビタミンC、カルシウム、カリウムが不足していることが読み取れます。

【図表】20代男女の栄養素の充足度
筆者作成
「生活習慣病」「高血圧」「骨粗鬆症」…すべてのリスクがあがる

たとえば、食物繊維やカリウムの不足について、厚労省は「日本人の食事摂取基準(2025年版)の策定ポイント」で次のように記しています。


「食物繊維は摂取不足が生活習慣病の発症に関連するという報告が多い」

「少なくとも1日当たり25~29gの食物繊維の摂取が、様々な生活習慣病のリスク低下に寄与すると報告されている」

「高血圧の重症化予防のためには、発症予防のための目標量よりも多くのカリウムを摂取することが望まれる」

一般的には、食物繊維は整腸効果、ビタミンは皮膚や粘膜等を正常に保つ役割が期待されますし、カルシウムはご存じの通り不足すると、骨粗鬆症のリスクがアップすることに加え、近年ではフレイルリスクにもつながるとされています。

カリウムについては厚労省が示したように、とりすぎた塩分の排泄にも重要な栄養素です。加工食品などで塩分をとりすぎる現代人にとっては、血圧を正常に保ち、高血圧の予防や重症化させないためには不可欠です。

全年代で“野菜が不足している”

これらの栄養素が不足している理由の1つとしては、「野菜」の摂取量が減っていることが挙げられます。「令和5年国民健康・栄養調査報告」によると、1日あたりの野菜の摂取量の平均(図表2)は、20代の男性で230.9g、女性で211.8gと、男女ともに数値の低さが際立っています。

ただし、()内で中央値を示しているように、平均値はあくまで平均値であり、厚労省が「健康日本21(第三次)」で掲げる350gに対して不足している人は20代に限らず、たくさんいらっしゃいます。ご覧いただいたとおり、すべての年代で平均値も中央値も350gには達していません。

厚労省の健康日本21のホームページによると、野菜料理1皿あたりは約70g。350gの目標をクリアするには、ほうれん草のおひたしであれば、1~2皿分が不足しているとも指摘しています。

「野菜が不足している」「ほとんど食べていない」と自覚している方は、がんや生活習慣病予防にもつながりますので、今後意識して、多めに摂取するようにしてください。

【図表】野菜類の摂取量 1日あたりの平均値
出典=「令和5年国民健康・栄養調査報告」より
“加工食品に頼った生活”で、「野菜」「果物」「魚」が不足する

ここまで、野菜に焦点を絞ってお伝えしましたが、図表3のとおり、野菜の摂取量は年々減っています。また、図表4に示した通り、穀類、乳類、肉類の摂取が比較的多いのに対して、果実類や魚介類などの摂取量が少なくなっています。

【図表】野菜摂取量の有意の減少
厚生労働省「令和5年『国民健康・栄養調査』の結果」より筆者作成
【図表】2023年の食品群別の摂取量
厚生労働省「令和5年『国民健康・栄養調査』の結果」より筆者作成

野菜や果物、魚の摂取量が少ないのは、手軽においしい加工食品が手に入るようになったことも理由の1つです。スーパーやコンビニで食べ物を購入する消費者からすれば、せっかくお金を出すからにはおいしいものを食べたいと思うのは仕方のないことであり、そうした消費者のニーズを満たすために各社、手軽に食べられるおいしい加工食品を開発して今に至っているのです。

実際、消費者が食品を選ぶ際のポイントは、1に「おいしさ」、2に「値段」、そして3番目に栄養バランスとなっています〔「食育に関する意識調査報告書」(令和6年3月 農林水産省)〕。食事の根本にある目的は、よい栄養をとって健康な体を維持することなので、願わくば1番にあってほしいとは思います。

超加工食品の“摂りすぎ”で、病気になりやすくなる

「超加工食品」という言葉を聞いたことがある方もいらっしゃるでしょう。ここでは、高度な加工が施された食品であり、糖質や脂質等を多く含む食品と考えていただければと思います。

詳細については2024年5月号の『栄養と料理』(女子栄養大学出版部)で佐々木敏東京大学名誉教授が解説していますが、アメリカの研究グループが提案した分類では、トマトソース、ゼリー、マーガリン、アルコール飲料、成形加工されたポテトチップ、ソーセージ、アイスクリーム等が高度な加工食品、すなわち超加工食品とされています。

私たちが日常的に使っている食品から嗜好品のような食品まで、さまざまな分野に「超加工食品」は存在していますので、一切摂らないというのは現実的ではありません。

ただし、超加工食品に関する49論文の988万8373人のメタ解析をした結果、超加工食品は、とくに循環器疾患、全死因、2型糖尿病、不安障害(パニック障害などの精神疾患)等に密接に関連していることがわかっています(図表5)〔Lane MM et al.: BMJ 284: e077310(2024)〕。

【図表】超加工食品摂取による身体の部位別の健康被害
筆者作成

ですので、結論としては、超加工食品の過剰摂取に気をつけつつ、不足しがちな野菜や魚をたくさん食べれば、栄養不足を解消できるということになります。

「完全栄養食」で栄養を補えるのか

ただ、忙しいみなさんが、大量の野菜と魚を、毎日欠かさずに食べるのは現実的ではないでしょう。

私がいま注目しているのが、近年開発が進んでいる「完全栄養食」です。これまでも、栄養の一部を補う食品は数多く開発・販売されてきましたが、「完全栄養食」はその名の通り、必要な栄養素をすべて接種できる「未来の食品」です。皆さんもコンビニやスーパー、CMなどで商品を見聞きしたことがあるかもしれません。

現状では「栄養すべて」というよりは、各社の商品によって「完全」の定義は違ってきますが、三食欠かさず、完全栄養食を食べれば、バランスよく栄養を摂取することが可能で、栄養不足を解消できるということになります。まだ研究は始まったばかりですが、完全栄養食を「5週間」続けて食べた結果、BMIや血液の数値が正常化したという論文なども徐々に出てきました〔Wilcox MD, et al.: A pilot pre and post 4 week intervention evaluating the effect of a proprietary, powdered, plant based food on micronutrient status, dietary intake, and markers of health in a healthy adult population. Front Nutr. 9:945622(2022)〕。

その意味では、日本に予備群含めると2000万人超いるとされる糖尿病の患者さんにとっては、朗報かもしれません。今現在も、お医者さんから食事指導はなされていますが、残念ながら、それをしっかりと守っている人は全体の1割にも満たないと言われています。

制限された食事が味気なかったり、満足感がなかったり、原因はさまざまかとは思いますが、「完全栄養食」が今以上に進化すれば、おいしく、手軽に、必要な栄養素を過不足なくとれる可能性が広がります。

また、糖尿病だけでなく、高血圧等、症状に特化した「完全栄養食」の開発が進めば、将来的に患者数を減少させることにつながる可能性は十分にあるでしょう。その他にも、災害時、あるいは登山中、あるいは宇宙空間といった過酷な環境下における「食」として、「完全栄養食」は重宝されるかもしれません。

「未来の食」が目の前に来ている

「完全栄養食」の欠点があるとすると、とくに私たちが慣れ親しんできた「和食」と比べると、不自然な部分があるところでしょうか。いろいろなものがスープやソースに溶け込む洋食に比べて、和食には食材の形がわかるように料理されるという特徴があります。ですから、90年以上、和食とともに生きてきた私からすると、ちょっと物足りなさを感じるのもまた事実です。

香川靖雄『92歳、栄養学者。ただの長生きではありません!』(女子栄養大学出版部)
香川靖雄『92歳、栄養学者。ただの長生きではありません!』(女子栄養大学出版部)

そのため、今現在私は、毎食、完全栄養食を食べているわけではなく、忙しくて料理ができなかったり、大学の食堂に行けないときなどに、研究室で保管しておいた「完全栄養食」を週に一度か、二度くらい食べるくらいで、頻度としてはまだ多くはありません。

ただ、大学で学生たち向けの試食会を開催したところ、皆、興味深そうに食べていましたから、これからの時代を担う若い方は、そこまで違和感はないかもしれませんし、あと10年もすれば、もっとおいしい「完全栄養食」が開発されることでしょう。

ちなみに、すでにうなぎの培養肉の研究は進んでいます。先日閉幕した2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)の大阪ヘルスケアパビリオン「ミライの都市」でも「培養肉」が展示されて話題になりました。「完全栄養食」に限らず、一昔前には想像もできなかった「未来の食」はこれから間違いなく登場しますから、引き続き私も研究者として注視していきたいと思います。

大阪関西万博、大阪ヘルスケアパビリオン
大阪関西万博、大阪ヘルスケアパビリオン(写真=掬茶/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons)

構成=池口祥司

香川 靖雄(かがわ・やすお)
女子栄養大学副学長
1932年、東京都生まれ。東京大学医学部医学科卒業、聖路加国際病院、東京大学医学部助手、信州大学医学部教授、米国コーネル大学客員教授、自治医科大学教授、女子栄養大学大学院教授を経て、現在、自治医科大学名誉教授、女子栄養大学副学長。専門は生化学・分子生物学・人体栄養学。著書に『92歳、栄養学者。ただの長生きではありません!』『科学が証明する新・朝食のすすめ』『香川靖雄教授のやさしい栄養学』(以上、女子栄養大学出版部)、『老化と生活習慣』『生活習慣病を防ぐ』(以上、岩波書店)などがある。

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