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女性患者「入れ歯がない!」深夜のナースコールで大捜索→ゴミ箱も漁ったのに…発見場所に「思わず吹き出しました」

  • 2025.12.11
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こんにちは。現役看護師ライターのこてゆきです。

医療の現場は、患者さんの容態変化に気を張り続ける、緊張感の連続です。特に夜勤の病棟は、昼間の喧騒が嘘のように静まり返り、スタッフの心にもピリッとした空気が流れます。

そんな静まり返った深夜、突如として発生した「消えた入れ歯」という名の小さな事件。

患者さんの焦りとともに始まった大捜索の顛末は、私たちが忙しさの中で置き忘れそうになっていた、「人と笑い合うこと」の温かさを思い出させてくれました。

静寂を破った、切実なナースコール

深夜、点滴の滴下音だけが響く中、ナースコールが鳴り響きました。軽度認知症の女性患者Aさんのその声は、いつになく切実なトーン。

「入れ歯が、どこにもないんです!」

一瞬の戸惑いとともに、私はすぐに病室へ向かいました。

入れ歯は、その方にとってまさに顔の一部であり、失くしたときの不安は計り知れません。私たちはベッド周り、洗面所、テーブルの下まで、あらゆる可能性を想定して捜索を開始しました。

「寝る前にケースに入れたはず…」

「もしかしてゴミ箱の中に?」

夜勤の限られた時間の中で、こうした「探し物」はスタッフの時間を奪います。それでも、患者さんの焦りの表情を見れば、放っておくわけにはいきません。私たちは手袋をしてゴミ箱の中身をひとつひとつ確認するなど、部屋中をひっくり返す勢いで探しましたが、ケースも入れ歯もどこにも見当たりません。

「あっ…!」の瞬間、響いた笑い声

30分ほどが経過し、私たちは一度区切りをつけることにしました。

「もしかしたら明るくなったら見つかるかもしれませんね」

と声をかけ、病室を出ようとした、その瞬間。

患者さんがズボンのポケットをポン、と叩きました。

「あっ…!」

そこから出てきたのは、ティッシュに丁寧に包まれた入れ歯。

「大事だからしまっといたんだよ。失くしたら困るからね」

そう言って照れくさそうに笑うAさんの顔に、私たちスタッフは思わず吹き出しました。深夜の静かな病棟に、安堵とユーモアの混じった、ひとときの笑い声が響き渡ったのです。

探していたのは、笑顔と安堵

あの瞬間の空気は、今でも忘れられません。探し物が見つかった安堵。患者さんの照れくさそうな笑顔。そして、張り詰めていたスタッフの心に灯った温かさ。

ナースステーションに戻ると、先輩が静かに「入れ歯探しも夜勤の定番イベントよ」と一言。思わず、また笑ってしまいました。

後になって振り返ると、あの夜に私たちが探していたのは、入れ歯だけではなかったのかもしれません。

忙しさの中で置き忘れそうになっていた「心のゆとり」であり、患者さんと共に笑い合える「人とのつながり」だったようにも感じます。

「探してくれてありがとうね」

その一言が、何よりも嬉しくて、夜勤の疲れがふっと消えていくようでした。

小さな事件が結ぶ、信頼の絆

入れ歯がポケットから出てきただけの、たった一晩の出来事。

しかひ、看護の現場では、こうした小さな事件が人の心を動かし、深い信頼を築くことがあります。

探し物は入れ歯だけではなく、笑顔であり、安心であり、そして私たちと患者さんとの信頼の絆です。それを一緒に探し、一緒に笑い合えることが、看護の現場のあたたかさなのだと思います。

忙しい夜勤の中にも、こうした瞬間があるからこそ、私たちはまた次の夜も患者さんのそばに立ち続けることができる。そう感じた、忘れられない夜でした。



ライター:こてゆき
精神科病院で6年勤務。現在は訪問看護師として高齢の方から小児の医療に従事。精神科で身につけたコミュニケーション力で、患者さんとその家族への説明や指導が得意。看護師としてのモットーは「その人に寄り添ったケアを」。


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