1. トップ
  2. 軒ゼロ住宅を購入も「まるで太鼓を叩いている…」30代夫婦を襲った“大誤算”【一級建築士は見た】

軒ゼロ住宅を購入も「まるで太鼓を叩いている…」30代夫婦を襲った“大誤算”【一級建築士は見た】

  • 2025.11.17
undefined
出典元;photoAC(画像はイメージです)

「軒がない家って、こんなに不便だったんですね……」

そうため息まじりに話してくれたのは、Hさん(30代・夫婦+子ども1人)。

Hさんは、友人の家やSNSで見かける“軒ゼロ住宅”に強く憧れていました。

しかし、実際に建てた結果、“美しさ”の裏には思わぬリスクが潜んでいました。

流行りの“軒ゼロ”を採用

直線的でミニマルなデザイン、屋根がすっきり見える美しい外観。

「これぞ理想のマイホーム」と思い、地元の工務店に相談したといいます。

設計時、担当者からはこう説明を受けました。
「軒をなくすと屋根の面積が減るのでコストを抑えられますし、重量も軽くなる分、耐震性にも有利です」

「軒(のき)」とは、壁より外側に伸びて雨や日差しを防ぐ屋根のこと。

合理的な理由も聞いて納得したHさんは、デザイン性とコスト、両方を兼ね備えた選択だと確信。「モダンで賢い家ができる」と期待に胸をふくらませ、迷わず“軒ゼロデザイン”を採用しました。

入居した当初は、外観の美しさに毎日見惚れたといいます。

玄関先から見上げる屋根のラインはシャープで、夜には照明が壁に反射して幻想的。
「友人にも“モデルハウスみたいだね”と言われて、本当にうれしかったです。」

しかし、その喜びは長くは続きませんでした。

雨の日に気づいた“想定外の不快音”

最初に違和感を覚えたのは、秋の長雨が続いたある夜でした。

「最初は“ちょっと音が大きいな”程度でした。でも、夜中になると、雨が窓に当たる音が響いて眠れなくて。
バチバチッ、バタバタッと、まるで外で太鼓を叩いているみたいで……」

軒がない住宅は、窓や外壁が外気に直接さらされる構造。
屋根の庇(ひさし)が雨を防ぐことがないため、雨粒がガラスにそのまま打ちつけます。

特に大きな掃き出し窓や、吹き抜けの高窓を採用している家では、雨音や風切り音がダイレクトに室内へ伝わるのです。

冬になると、風を伴った横殴りの雨がサッシに叩きつけられ、「ガタガタッ」と窓が震えるような音も感じるようになりました。

「外観はかっこいいけど……。雨の日が来るたびに、雨音が気になって仕方ありません」

外壁の汚れが目立ち始めた――半年で“想定外の劣化”

そして、Hさんをさらに悩ませたのが外壁の汚れでした。

「半年くらい経ったころ、北側の外壁に黒いスジが出てきたんです。最初はカビかなと思ったけど、雨だれの跡でした。軒がない分、雨水が直接壁を伝って流れています」

軒は、本来“建物の顔”を守る傘のような存在です。
軒ゼロ住宅ではその機能が失われるため、外壁やサッシが常に雨や紫外線にさらされます。

その結果、

  • 雨だれ跡が出やすい
  • 外壁の劣化が早い
  • サッシまわりの汚れが目立つ

といった現象が起こりやすくなります。

「友人に“新築なのに、もう汚れてるね”と言われてショックでした。外観が気に入ってこの家にしたのに、1年も経たないうちに古びて見えるなんて……」

“軒ゼロの落とし穴”

軒ゼロ住宅は、決して悪いデザインではありません。

ただ、その“美しさ”の裏には、次のようなリスクが潜んでいます。

  • 外壁・窓の汚れや劣化が早い
  • 雨音が響きやすい
  • 壁と屋根の間の雨漏りリスクが高い

軒は単なるデザインパーツではなく、家を長く快適に守るための“構造的な機能”なのです。

後悔しないために…

「軒がないことで得たのは、デザインだけでした。でも、失ったのは“暮らしやすさ”。家って、見た目だけじゃないんですね」

軒ゼロ住宅は、住む人のライフスタイルやメンテナンス意識が問われる設計です。

見た目の美しさに惹かれる気持ちは自然なことですが、その陰にある「住み心地」や「維持の手間」にも目を向けることが大切です。

“建てたときの満足”よりも、“10年後の快適さ”を。

その視点を持つことが、後悔しない家づくりへの第一歩なのです。


ライター:yukiasobi(一級建築士・建築基準適合判定資格者) 地方自治体で住宅政策・都市計画・建築確認審査など10年以上の実務経験を持つ。現在は住宅・不動産分野に特化したライターとして活動し、空間設計や住宅性能、都市開発に関する知見をもとに、高い専門性と信頼性を兼ね備えた記事を多数執筆している。


【エピソード募集】日常のちょっとした体験、TRILLでシェアしませんか?【2分で完了・匿名OK】