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新築を購入も「2階は歩かないように…」40代夫婦を襲った“誤算”に「本末転倒ですよね」【一級建築士は見た】

  • 2025.11.15
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出典:photoAC(写真はイメージです)

Fさん(40代・夫婦+子ども2人)は、郊外の落ち着いた住宅街に念願の新築戸建てを建てました。

日当たりがよく、プライバシーも守れる2階リビングを採用し、設計段階では「上階にリビングがあれば、明るくて風通しも良い家になる」と期待していました。

しかし、住み始めて数ヶ月後…思わぬトラブルに遭遇してしまいました。

静かな住宅街のはずが、家の中が一番うるさい

「夜になると、歩く音や洗濯機の振動音、トイレやお風呂の排水音が1階の寝室まで響いて眠れません」

Fさんは最初、外からの騒音かと思ったといいます。

けれど、原因はすべて“自分の家の中”。

静かな住宅街に建てたのに、家の中が一番うるさいという想定外の事態に直面したのです。

生活音が伝わる構造

Fさんの家は、2階にリビング・キッチン・浴室・洗面・トイレをまとめた設計でした。

1階には寝室と子ども部屋を配置し、「生活動線の分離」で落ち着いた暮らしを思い描いていました。

ところが、2階リビングで発生する生活音は、床や梁を通して1階まで伝わります。

特に、洗濯機やお風呂の排水音は、配管を通して共鳴し、深夜には耳障りなほど響くのです。

「外はとても静かです。車も少なくて、夜は虫の声だけ。でも、家の中の音がこんなに気になるなんて、想像もしませんでした」

生活動線と構造のズレ

2階リビングは、採光や風通し、プライバシーの確保といったメリットが大きい反面、生活設備の配置に細かな工夫が必要な間取りです。

特に、施工経験が少ない工務店の場合、2階リビングの床を一般的な構造のまま施工してしまうことがあり、防振材や遮音材が入っていないケースも珍しくありません。

その結果、足音や椅子を引く音などの生活音が、梁を伝って1階まで響いてしまいます。

さらに、洗濯機や浴室、トイレといった水まわりを2階にまとめると、排水管を1階へ通す必要があります。

このとき、防音処理がされていない配管だと、1階の天井や壁の中を通る際に「ゴボゴボ」「ザーッ」という音が響くことがあります。夜間や早朝など静かな時間帯ほど、こうした音はより気になるものです。

2階リビングを採用するなら、設計段階から防音構造や配管ルートを慎重に検討することが大切です。

後から直そうとすると、構造の一部をやり直す必要があり、どうしても費用がかさんでしまいます。

毎日気を遣う生活に…

「営業担当から“2階リビングは人気ですよ”とは言われましたが、“音が響きやすい”なんて一言も聞かなかったです」

実際、2階リビングを採用した施主の中には、住んでから「階下の音ストレス」に悩む人が少なくありません。

特に、木造2階建て住宅では構造体そのものが“音の通り道”になりやすい構造です。

Fさんは今でも夜遅くなると、2階の家事を早めに切り上げ、1階の家族が寝ている時間には極力歩かないよう気を遣って生活しています。

「静かな住宅街に住んだはずなのに、家の中で気を遣うなんて、なんだか本末転倒ですよね」

2階リビングを快適にする工夫

2階リビングを快適にするには、間取りと生活音の配慮が欠かせません。

具体的には、次のような工夫が効果的です。

  • 床下に遮音ボード・制振シートを敷設する
  • 排水管に遮音シートを巻き、寝室の天井を通さないルートを確保する
  • トイレ・浴室・洗濯機を寝室から離れた位置に配置する

これらは「後からの対策」ではなく、最初の設計段階で織り込むことが重要です。

2階リビングは魅力的だが…

2階リビングは、都市型住宅の限られた敷地でも明るさと開放感を確保できる魅力的な間取りです。

しかし、採光や風通しを優先するあまり、防音という“もう一つの快適性”を後回しにすると、Fさんのように「外は静か、家の中がうるさい」という逆転現象が起きてしまいます。

“家は外よりも静かであること”――それは当然のようで、実は設計の積み重ねでしか実現できません。

見た目や間取りだけでなく、暮らしの音までデザインする。

それこそが、真に快適な住まいづくりに欠かせない視点なのです。


ライター:yukiasobi(一級建築士・建築基準適合判定資格者) 地方自治体で住宅政策・都市計画・建築確認審査など10年以上の実務経験を持つ。現在は住宅・不動産分野に特化したライターとして活動し、空間設計や住宅性能、都市開発に関する知見をもとに、高い専門性と信頼性を兼ね備えた記事を多数執筆している。


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