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新築を購入も「テレビが見えない」と隣人から苦情殺到…40代夫婦を襲った“誤算”【一級建築士は見た】

  • 2025.11.13
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出典:photoAC(写真はイメージです)

Aさん(40代・夫婦+子ども2人)は、2年前に郊外に念願の新築戸建てを建てました。

「環境にも家計にも優しい家にしたい」と考え、屋根には補助金を利用して太陽光発電システムを設置。工務店の営業担当からは「電気代もぐっと下がりますよ」と勧められました。

しかし、入居して間もなく、隣家の奥さんから思いもよらない言葉をかけられました。

太陽光パネルで想定外のトラブルに…

「お宅のパネルが午後になると、リビングに光が反射してまぶしいです。テレビも見えなくて困っています」

最初は「たまたまだろう」と思っていたAさんでしたが、季節が変わっても状況は改善されません。

晴れた日の午後、太陽光パネルの反射が隣家の窓を直撃。角度によってはカーテンを閉めても光が差し込み、隣家の壁が鏡のように光って見えることもありました。

「太陽光パネルでトラブルになるなんて、考えたこともありませんでした」

“工務店に任せれば安心”ではなかった

設置時、Aさんは工務店にすべてを一任していました。

「補助金の対象製品だから問題ない」と言われ、発電効率やコスト面しか説明を受けなかったといいます。

しかし、太陽光パネルは8〜12%程度の反射率を持つため、角度や立地条件によっては“鏡”のように光を反射することがあります。

特に隣家との距離が近い住宅地では、屋根勾配と太陽高度の関係で、特定の時間帯に反射光が集中するケースが少なくありません。
Aさんの家もまさにその典型でした。

南向きの屋根がちょうど西日を拾う角度にあり、午後3時から5時にかけて強い反射光が隣家のリビングを直撃していたのです。

「業者に相談したら“設置位置を変えるには再工事が必要で、費用は自己負担です”と言われました。そんなこと、最初に説明してほしかったです」

“太陽光の光害”を想定していない設計

問題の背景には、再生可能エネルギーの普及と法制度の“空白地帯”があるからです。

現行の建築基準法では、太陽光パネルの反射光に関する明確な規制がありません。

環境省のガイドラインでも、「近隣への配慮を行うよう努めること」とされているだけで、あくまで“努力義務”にとどまります。

また、設計段階で「日射シミュレーション」や「反射角度検討」を行うのは大型施設や公共建築が中心で、一般住宅ではほとんど実施されていません。そのため、施工後に問題が発覚するケースが多いのです。

「環境に優しい」という目的だけが先行し、周囲の生活環境への影響が設計に反映されない。

これが、反射光トラブルの根本的な原因といえます。

後悔を生まないための対策

Aさんのようなケースでは、後からできる対策もあります。

  • パネルの角度を再調整する
  • 反射防止シートを使用する
  • 光の方向に防風ネットや植栽を設ける

ただし、これらは多くの場合設置者側の自己負担になります。

一度設置したパネルの移設や交換には数十万円単位の費用がかかり、簡単に決断できるものではありません。

そのため、最も重要なのは「設置前の検討」です。

  • 隣家の窓の位置や高さ
  • 季節ごとの太陽高度
  • 反射角度のシミュレーション
  • 反射防止性能の有無

これらを業者任せにせず、施主自身も確認しておくことが、トラブルを未然に防ぐ最大のポイントになります。

「環境への配慮」と「人への配慮」は別物

Aさんは、いまこう語ります。

「電気代が下がって喜んでいたのに、まさか近所に迷惑をかけてしまうとは…。“環境にいい家”が、“人にやさしくない家”になるなんて、思ってもいませんでした」

太陽光発電は、確かに地球にも家計にも優しい技術です。

しかし、設置の仕方を誤れば“生活の光害”を生む可能性があります。

これからの家づくりでは、発電効率や補助金制度と同じくらい、周囲との調和を重視する視点が欠かせません。


ライター:yukiasobi(一級建築士・建築基準適合判定資格者) 地方自治体で住宅政策・都市計画・建築確認審査など10年以上の実務経験を持つ。現在は住宅・不動産分野に特化したライターとして活動し、空間設計や住宅性能、都市開発に関する知見をもとに、高い専門性と信頼性を兼ね備えた記事を多数執筆している。


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