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「結局、何をどうすればいいの」紙の保険証廃止でパニック…元厚労省FPが明かす、“普及が進まない要因”とは

  • 2025.12.3
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出典元:photoAC(※画像はイメージです)

2025年12月、紙の健康保険証がいよいよ原則廃止となり、マイナ保険証への完全移行が進められています。

しかし、世間では「手続きが複雑そう」「本当にどこでも使えるの?」「情報漏洩が怖い」といった不安の声が後を絶ちません。

移行に伴う実務上の課題や、いま抱えている不安をどう解消すべきか、ファイナンシャルプランナー 柴田 充輝さんの見解を詳しく伺いました。

マイナ保険証の普及が進まない現実とその背景

---「紙の保険証」廃止にともない、マイナ保険証へ移行するうえで、現時点で最も大きな課題は何だとお考えですか?

柴田 充輝さん:

「2025年10月時点で日本国民の約80%がマイナンバーカードを保有していますが、マイナ保険証の医療機関での利用率はわずか約45%に留まっています。つまり、カードを持っていても実際に使っていない人が半数以上という状況です。

この『登録はしたが使わない』という実態の背景には、制度の複雑さがあります。

医療機関を受診する際には、有効期限内の健康保険証、またはそれに代わるものとして『マイナ保険証』か『資格確認書』を提示します。ところが、ルール外といえる期限切れの健康保険証や、名称が『資格確認書』と酷似し役割の違いも分かりにくい『資格情報のお知らせ』など、複数の書類が併存しています。

マイナンバーカードの取得は法律上『任意』とされており、その延長線上にあるマイナ保険証も『原則』という曖昧な位置づけに留まっています。

資格確認書という代替手段を用意したことで、『マイナ保険証がなくても困らない』という状況が続いており、移行への切迫感が生まれていません。『結局、何をどうすればいいのか』が分からないまま、多くの国民が受け身の姿勢で移行期を過ごしているのが現状です。」

マイナ保険証への不安や誤解、その背景にある国民の感情とは?

---移行に対して不安の声も多いです。どういった点が心理的ハードルになっているのでしょうか?

柴田 充輝さん:

「建前上、デジタル化への移行は行政の効率化や最適な医療提供という観点からは、好ましい変化です。

しかし、周知や理解が十分に追いついておらず、また『慣れた制度からの変化を受け入れるのが面倒』という感情が、ミスマッチを起こしていると考えられます。

マイナンバーに関しては、『管理体制が不透明でよくわからない』『過去の情報漏洩が心配』『個人情報保護に対する規制が不十分』など、さまざまなネガティブな意見が寄せられています。行政の職員による不正なアクセスや、管理体制の不備によって情報漏洩が発生する可能性はゼロではなく、監視されているような印象を受けることもあるでしょう。

日本人がマイナンバー制度に否定的なのは、政府に対する不信感や、政府と国民とのディスコミュニケーションが挙げられます。また、政府の監視下で行動することを嫌うことも、要因の一つかもしれません。確かに行政手続きや医療情報の共有など利便性が高まる効果は期待できるものの、行政機関や医療機関が情報を正しく取り扱ってくれるかは別問題です。

さらに、『健康保険証が使えなくなる=無保険になる』といった誤解も広がっています。実際には資格確認書という代替手段があるにもかかわらず、この情報が十分に伝わっていません。そもそも、2026年3月までは暫定措置として従来の保険証が使用できるという中途半端な対応も、政府の柔軟な対応というよりも、制度を複雑にしているだけに見えます。」

マイナ保険証のメリットと今後進むべき道筋とは?

---利用者が安心してマイナ保険証を使えるようにするために、今後必要な改善策や、現実的にできる対処法はありますか?

柴田 充輝さん:

「政府は政府なりに情報発信をしているものの、国民からの理解を得るには至っていません。

2020年9月から2023年にかけては、マイナンバーカードの取得を促進するためにマイナポイント事業という『ポイント還元』が行われました。金銭的インセンティブがあることでマイナンバーカードの取得率は高まったものの、制度への本質的な理解促進にはつながりませんでした。

現在の状況をみると、最大の問題は制度の複雑さです。『資格確認書』『資格情報のお知らせ』など類似した書類や例外ルールが乱立しており、制度そのものが散らかっている印象です。まず、これらを整理して国民が『何を持っていけば医療を受けられるのか』をシンプルに理解できるようにする必要があります。

政府としても、マイナ保険証のメリットとして『過去のお薬・診療データに基づく、より良い医療が受けられる』『突然の手術・入院でも高額支払いが不要になる』『救急現場で、搬送中の適切な応急処置や病院の選定などに活用される』などを挙げています。これらのメリットを享受しやすいのは、医療機関を利用する機会が多い高齢者でしょう。そのため、官民を挙げてデジタル機器の操作に不慣れな高齢者や障害のある人への丁寧な情報提供と支援強化が不可欠です。

マイナンバーカードの交付や医療保険証との紐付けさえ済めば、マイナ保険証として機能します。厚生労働省の謳っているとおりの運用がされれば、医療機関を受診したときのデータの連携や処方の重複を回避でき、受けられる医療の質が向上します。また医療機関の窓口で行う顔認証や暗証番号による本人確認も、大した手間ではありません。

諸外国の事例を見ると、行政のデジタル化を短期間で進めた国々は、一定の強制力を伴う政策を実施しています。日本においても、丁寧な経過措置を設けつつも、最終的には『マイナ保険証でなければ保険診療を受けられない』という明確なルールを示すくらいの思い切った判断がなければ、なかなか現状は変わりません。

医療機関を受診した際にマイナ保険証が読み取れず、健康保険証として利用できなかったり、資格取得日から情報反映までに10日程度かかったり、課題があるのは確かです。これらの課題の解消も並行して進めることで、従来の保険証よりも利便性の高い制度として徐々に認知されるかもしれません。」

「マイナ保険証」を安心して使うためにできること

マイナンバーカードの普及は進んでも、医療現場でのマイナ保険証の活用にはまだ課題が山積しています。

制度の複雑さや情報不足、不安や誤解により、利用率が伸び悩んでいるのが現状です。今後、類似書類の整理や丁寧な情報提供、特に高齢者への支援強化が進めば、より便利で質の高い医療サービスの恩恵を受けられるようになるでしょう。

利用者自身も基本的な仕組みや手続きについて正しく理解し、必要な対応を早めに行うことが大切です。いずれは「マイナ保険証でなければ保険診療を受けられない」という明確なルールが示される可能性もあるため、今のうちに情報を整理し、変化に備えることが賢明といえるでしょう。


監修者:柴田 充輝
厚生労働省や保険業界・不動産業界での勤務を通じて、社会保険や保険、不動産投資の実務を担当。FP1級と社会保険労務士資格を活かして、多くの家庭の家計見直しや資産運用に関するアドバイスを行っている。金融メディアを中心に、これまで1200記事以上の執筆実績あり。保有資格は1級ファイナンシャル・プランニング技能士(FP1級)、社会保険労務士、行政書士、宅地建物取引主任士など。