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「きっぷ購入待ち2時間なのに、乗車は20分だけ」希望に燃える新人駅員を襲った“思わぬ誤算”

  • 2025.10.17
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出典元;photoAC(画像はイメージです)

こんにちは。元鉄道駅員の川里です。

今回は、私が駅員時代に経験した「キャリア選択時の大誤算」をご紹介します。「正社員になれば、もっと幅広い仕事に携われるはず」、そう信じて登用試験に臨んだ結果、見事大都市のターミナル駅へと配属されました。

しかし、目の前に待っていたのは想像以上の行列に膨大な業務量…。自分の見通しの甘さに気づくこととなりました。

正社員になることを目指して

私は当初、いわゆる契約社員として入社しました。入社時の目標は「正社員になること」。当時、契約社員は5年で契約終了というルールだったためです。

「正社員になることで業務範囲が広がる」と聞いていました。駅に泊まっての勤務、人身事故の事故現場対応、グループ会社への出向や駅以外の職場への異動などは、いずれも契約社員には課されていません。

「転職せずに様々な仕事を経験できるのは、むしろメリットだ」

私はそう感じていました。駅での接客のほか本社や支社では割引きっぷの企画に携われるし、グループ会社では鉄道とは違った仕事の経験ができます。

登用試験の採用枠としては駅係員ですが、これも契約社員に比べて異動が活発になり、より多くの駅を経験できるとポジティブに捉えていました。試験の面接で、どのような駅で働きたいかと問われた私の回答は、以下のようなものでした。

「これまで中規模の駅に配属されてきたので、新幹線のあるような大きな駅を経験してみたいです」

想像以上のターミナル駅

なにが上層部のお眼鏡にかなったのかはわかりませんが、私は登用試験に合格することができました。配属された駅は面接時に話していた通り、会社が路線を伸ばしている中で最も大きな都市のターミナル駅です。面接時の回答が配属先に反映されると思っていなかった私は「本当に大丈夫だろうか」と、遅まきながら不安を感じました。

配属先で、私は窓口の担当を任されました。窓口担当は、きっぷ売り場で販売や変更、払い戻しを行います。これまで契約社員としても行ってきていたので、問題なくやれるだろうと甘く考えていました。

ところが、きっぷ売り場に入ってすぐ、行列の長さに驚かされました。折しくもちょうどコロナウイルスの流行が終息しつつあり、お客様が「やっとゴールデンウィークに遠出ができる」と駅に戻ってきていた時期です。

コロナ対策として縮小されていた窓口にできた列は、驚異の2時間待ち。椅子もないきっぷ売り場に2時間並び続け、乗車時間20分程度のきっぷを買うお客様もいました。当然、お客さまのフラストレーションは溜まる一方です。

また、ターミナル駅には、あらゆる方面にあらゆる割引サービスを利用して旅行しようとするお客様が集まります。目の前にいるお客様はそのサービスの対象に含まれるか、もっとお得なサービスはないかを即座に判断しなければいけません。グレーゾーンであれば窓口裏の事務室にいる上司の判断を仰ぎますが、他の窓口や改札からの問い合わせと重なることもあり、そのときは更にお客様を待たせてしまうことになります。

「大きな駅なら多くの仕事を経験できると思っていたが、これでは窓口応対だけで手一杯だ…」

私はそのとき初めて、自分の甘い見通しに気づきました。

携わる仕事の種類は減った

窓口で扱う商品の種類は確かに増えましたが、経験できる仕事が増えたとはいえない状態でした。

中規模駅では駅員1人がきっぷの販売や改札対応をはじめ、お手伝いが必要なお客様の乗降介助や忘れ物の管理までに関わります。ところが、この駅では窓口担当はきっぷの販売と変更しか行いません。同じように改札担当は改札口での案内のみ、忘れ物担当は忘れ物の管理のみ。乗降介助に至ってはグループ会社のスタッフに委託していました。

払い戻しさえ別窓口を案内します。お客様は、きっぷを買った窓口で払い戻せないはずがないと思って長い列に並んだあとなので、落胆するのも当たり前です。

余裕がなくなった人間とは恐ろしいもので、かつて大切にしてきたはずの「お客さまの気持ちに寄り添おう」というマインドを失っていました。払い戻し窓口に行くようにと機械的に案内してもなんとも思わなくなっていたのです。

いつしか、以前の駅では当たり前に使っていた乗降介助用アプリの使い方も忘れてしまいました。また、人身事故発生時に改札の応援をするよう指示されて向かったものの、次の列車が今どこにいるのかすら調べられず、自身のできる仕事が減っていることを痛感しました。

やがて行きついたのは、目の前に来たお客さまに向かって機械的な販売をするだけの毎日。いわゆる「静かな退職」状態です。このような勤務態度で、新しい仕事や次の職場など任されるはずがありません。

なぜ大きな駅と言ったのか

私はなぜ面接で「大きな駅に行きたい」と言ったのか。

当時、私は「正社員になること」だけを考えており、「正社員になってやりたいこと」を考えていませんでした。そのため面接での回答は面接者への印象を第一に考え、自分が本当にできるかどうかを二の次にしていたのです。

契約社員として働いた経験から、常に忙しい職場で徹底的に効率を追い求めるより、時間に余裕のある職場で働く方が性に合うことには気づいていました。にもかかわらず「正社員になるために都合よく答えよう」としすぎたあまり、現実を見ようとしていませんでした。

今は鉄道の現場から離れていますが、仕事でもプライベートでも時間に余裕を持たせることを心がけています。ターミナル駅では時間的なプレッシャーを感じて判断を誤り、窓口の売上金額が合わなかったり、間違ったきっぷを販売したりしてしまったことが多々ありました。自分にとって、時間の余裕が必要であることはごまかさずに向き合うべきことなのだと学びました。


ライター:川里隼生

鉄道会社の駅係員として8年間、4つの駅を経験しました。コロナ禍やデジタル化を通して移り変わってきた、会社としての鉄道サービスの未来像と、お客様それぞれが求めている鉄道サービスのあり方の両方から学んだことを記事にしていきます。


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