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「安い」の代償は、治療費ゼロの“泣き寝入り”。空港に潜む白タクに、現役タクシー運転手が警鐘

  • 2025.10.16
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出典元:photoAC(画像はイメージです)

インバウンド需要が増え、街中に外国人観光客の姿が目立つようになった日本。空港や観光地では、大きなスーツケースを抱えた旅行者がタクシーを待つ光景が日常化しています。

しかし、その賑わいの陰で、違法な「白タク」が横行し、正規のタクシー運転手たちを苦しめているという現実があります。

「真面目に働くのがバカらしくなる」

そう声を絞り出すのは、都内で働く20代後半の現役タクシー運転手・Aさん。

彼が目の当たりにしている白タクの実態は、深刻なもののようです。今回は、Aさんの証言をもとに、白タク問題に迫ります。

そもそも「白タク」はなぜ違法?正規タクシーとの2つの決定的な違い

まず理解しておきたいのが、白タクと正規のタクシーの根本的な違いです。

国(国土交通大臣)の許可を受けずに白色ナンバープレートの自家用車やレンタカーを使用して、有償で客を運送する車両を、「白タク」といいます。緑色ナンバープレート以外の車両は、原則として有償で人を運送することができません。

国土交通大臣の許可を受けずに金銭を受け取って自家用車で旅客を運送するタクシー類似行為を行うと、道路運送法違反の罪に問われます。

つまり、白タクは「無認可」で営業する違法サービス。正規のタクシーとは似て非なる存在です。

月70万円と売上の6割…不公平な収益差

白タク問題が深刻化する背景には、あまりに不公平な収益構造があります。現役タクシー運転手のAさんの怒りは、この点にも向けられていました。

「『白タク運転手が月70万円稼ぐ』という報道も目にしました。あくまで私個人の話ですが、二種免許を取って、国のルールに従って働いて、さらに売り上げの4割を会社に納めて、やっと6割の給料をもらっている。なのに、彼らは何の資格も認可もなく満額を懐に入れている。『真面目にやってるのがバカらしい』って同僚と話してますよ。本当にやるせない気持ちになります」

正規のタクシー運転手は、会社への手数料、車両の維持管理費など、多くのコストを負担しながら働いています。一方、白タク運転手は、これらのコストを一切負わず、売り上げを丸々懐に入れることができる。このような理不尽が、今この瞬間も繰り返されています。

「友達です」空港で横行する白タクの巧妙な手口

では、白タクはどのようにして摘発を逃れているのでしょうか。Aさんは羽田空港での目撃体験を語ってくれました。

「私自身、羽田空港で白タクらしき光景を2回ほど目撃しました。問題は、警察に職務質問されても、運転手とお客さんが口裏を合わせて『友達です』と言い張れば、それ以上追及できないことにあります」

摘発は難しい場合もあるようですが、違法であることに変わりはありません。

なぜお客さんが白タク運転手に協力してしまうのでしょうか。

「単純に、正規のタクシーより安いからです。白タク側は会社にマージンを取られない分、安く料金設定できる。そして売り上げは満額もらえる。お客さんは安く移動できる。彼らにとっては、違法な“Win-Win”の関係が成立してしまっているんです」

さらにAさんは続けます。

「特に外国人観光客にとって、正規タクシーと白タクとの区別は難しいでしょう。そもそも違法だという意識も異国なので薄い。『安いほうがいい』という程度の感覚で利用しているのでしょう」

言葉の壁、文化の違い、そして「安さ」という誘惑。これらが組み合わさることで、白タク利用が進んでいるのだとAさんは言います。

「安い」の代償は「無保険・無補償」という重大なリスク

「安いから」という理由で白タクを利用する人々。しかし、その代償はあまりにも大きいとAさんは警告します。

「利用するお客さんに一番注意したいのは、安全面のリスクです。まず、運転が『素人』であることに加え、万が一事故が起きても、まともな補償は期待できません。事業用の保険に入っているはずがないし、そもそも違法行為なので、運転手は事故が発覚したら逮捕されてしまう。僕が白タク運転手だったら、間違いなく逃げますよ」

Aさんの言葉は、白タクの本質的な危険性を浮き彫りにしています。事故が起きた瞬間、運転手は逮捕を恐れて逃走する可能性が高い。そうなると、乗客は完全に見捨てられることになります。

「そうなれば、乗客は怪我をしても治療費も出してもらえず、完全に泣き寝入りです。事故や怪我だけでなく、その他の犯罪に巻き込まれる可能性もあります。会社の管理下にない個人の車に乗るわけですから、どんな危険があるかわからない。『安いから』という軽い気持ちで、取り返しのつかないリスクを背負っていることに気づいてほしいです」

警視庁も白タクについて、「このような車両は、国(国土交通大臣)の管理が及ばないため、運行管理体制などが杜撰で、重大交通事故を起こす可能性が高く、万が一、交通事故で怪我をしても補償されない場合がありますので、安易に利用しないよう、注意してください」と訴えています。

「スマホの中身まで確認を」現役運転手が訴える“本気の対策”

では、白タクを根絶するにはどうすればよいのか。Aさんは現状の取り締まりに対する不満を率直に語りました。

「現状の取り締まりは、正直言って不十分かと思います。本気で根絶する気があるなら、特に白タクが集中している空港に、専門の監視機関を常設してほしい。そして、空港側と連携して毎日見回りを行うべきかなと」

さらに、Aさんは踏み込んだ対策を提案します。

「怪しい場合はその場でスマホのやり取りを確認し、金銭の授受の約束がされていれば現行犯で逮捕する。お客さんと口裏を合わされたら追求が難しい以上、それくらいの強い姿勢を見せないと、抑止力にはならないと思います」

もちろん、このような捜査手法はプライバシー権などとの兼ね合いから慎重な議論が必要となりますが、「友達です」という一言で逃れられてしまう現状を変えるには、より踏み込んだ捜査権限が必要だというのがAさんの主張です。

特に観光地では、警察が白タク取り締まりを強化しているほか、関東運輸局が「白タク行為に関する対策会議」を開催した例もあります。また、観光庁は白タク問題を含めた「日本版持続可能な観光ガイドライン(JSTS-D)」を策定しています。しかしながら、これらの対策は進んでいる一方で、依然として十分とは言いがたい状況のようです。

白タク問題…法的な問題点を弁護士が解説

白タクにはどのような問題点があるのでしょうか?法的観点から、NTS総合弁護士法人札幌事務所の寺林智栄弁護士に解説していただきます。

---そもそも、なぜ「白タク」は法律で禁止されているのでしょうか?

寺林弁護士:

「白タク」が法律で禁止されている最も大きな理由は、乗客の安全を確保するためです。有償で乗客を運送するタクシー事業は、人の生命に関わるサービスであるため、国が厳格なルールを定めて許可を与えた事業者のみが行えることになっています。これを許認可事業と言います。


---「乗客は怪我をしても治療費も出してもらえず、完全に泣き寝入りです」とありましたが、白タクに乗った利用者が事故に遭った場合、どのようになるのでしょうか?

寺林弁護士:

正規のタクシーに乗車中、事故で怪我をした場合、乗客は法律で手厚く保護されます。まず、 事故を起こした運転手個人だけでなく、運転手を雇用するタクシー会社も「使用者責任」という法律上の責任を負い、乗客は、資力のあるタクシー会社に対して、治療費や慰謝料などの損害賠償を請求できます。

また、 正規のタクシーは、「自賠責保険」に加え、賠償額が高額になる場合に備えて、対人8,000万円以上を補償する事業用の「任意保険」または「タクシー共済」への加入が義務付けられています。

これらの保険により、乗客は事故によって生じた損害(治療費、通院交通費、仕事を休んだ間の収入減(休業損害)、精神的苦痛に対する慰謝料など)について、十分な補償を受けることができます。

一方、白タクで事故に遭うと、状況は一変し、乗客は非常に危険で不安定な立場に置かれます。

白タクは個人による違法な活動であるため、責任を追及できる相手は運転手個人だけです。運転手本人に支払い能力がなければ、事実上「泣き寝入り」になる可能性があります。

白タクの運転手が使用する車は、当然ながら自家用の「白ナンバー」です。そのため、加入している自動車保険も「自家用」の任意保険です。 しかし、自家用自動車保険の契約には、「有償で人を運送している間の事故は補償の対象外とするという条項(有償旅客運送免責条項)が必ず定められています。 つまり、白タク行為という違法な営業中に起こした事故では、運転手が任意保険に加入していても、保険会社は支払いを拒否できるのです。

任意保険が使えない場合、乗客が頼れるのは、最低限の補償である「自賠責保険」だけになります。自賠責保険は、傷害の場合で最大120万円までしか補償されません。

もし事故で重傷を負い、治療が長期化したり後遺障害が残ったりした場合、自賠責保険の上限額では到底足りず、不足分はすべて運転手個人に請求するしかありません。 しかし、違法な白タク営業で生計を立てている運転手に、十分な支払い能力があるとは考えにくく、高額な治療費を自己負担せざるを得なくなるという最悪の事態に陥る危険性が非常に高いのです。

---「警察に職務質問されても、運転手とお客さんが口裏を合わせて『友達です』と言い張れば、それ以上追及できない」とありましたが、なぜ「友達です」という一言で摘発が難しくなるのでしょうか?

寺林弁護士:

白タク行為が罪に問われるのは、道路運送法で禁止されている「有償で」人を運送する行為だからです。「有償」とは、運送の対価としてお金やそれに準ずる利益を受け取ることを指します。

つまり、検挙・立件するためには、警察や検察が「運転手と乗客の間で運送の対価の受け渡しがあった(または約束があった)こと」を客観的な証拠に基づいて証明しなければなりません。しかし、「友達です」と言われると、この「有償性」の証明が非常に難しくなります。

実効性のある規制を行うためには、以下のような多角的な法的対策が必要だと考えられます。

1. プラットフォーム事業者への規制強化
現在の白タクの多くは、海外製のライドシェアアプリなどを介して行われています。個々のドライバーを摘発するのは困難であるため、ドライバーを仲介するプラットフォーム事業者自体に法的な責任を課すのが最も効果的です。

2. 「有償性」に関する推定規定の導入
例えば、「空港や駅などの特定の場所で、スマートフォンのアプリ等を用いてマッチングし、自家用車で人を送迎する行為は、特段の事情がない限り有償の運送と推定する」といった規定を設けることも有効です。 これにより、立証のハードルが下がり、運転手側が「無償であったこと」を具体的に説明する必要が出てきます。

3. 捜査手法の現代化
デジタルツールを使った巧妙な白タク行為に対応するため、捜査手法のアップデートも必要です。

4. 利用者への罰則・周知の強化
現状、白タクを利用した乗客が罰せられることはありません。しかし、違法性を知りながら安易に利用する行為が、犯罪の温床となっている側面も否定できません。

悪質な利用(常習的な利用など)に対しては、行政罰である「過料」を科すといった制度も考えられます。

また、事故時の無保険リスクや犯罪に巻き込まれる危険性について、政府や自治体が空港などで集中的に広報活動を行い、「違法であり、極めて危険な行為である」という社会的な認識を広めることが重要です。

法を守る者が報われる社会へ

白タク問題は、単なる違法営業にとどまりません。それは、法を守って働く人々の労働意欲を削ぎ、乗客を危険にさらし、日本の安全神話を揺るがしかねない深刻な社会問題なのだとAさんは語ります。

「真面目にやってるのがバカらしい」

Aさんのこの言葉は、私たち一人ひとりに問いかけています。安易に「安さ」に飛びつく前に、その裏に潜むリスクについて、今一度考えなくてはいけません。

日本の交通の安全を守るのは、結局のところ私たち利用者の選択にかかっているともいえます。「安いから」という安易な理由で違法サービスに手を出さないこと。それが、法を遵守する人々を守り、ひいては自分自身の安全を守ることにつながるのではないでしょうか。

正規のタクシーを選ぶこと。それは、少し高くつくかもしれませんが、安全と安心、そして真面目に働く人々への敬意を買う行為なのだと、改めて認識すべきではないでしょうか。


取材協力:現役タクシー運転手・Aさん
2020年よりタクシー運転手として従事している20代後半男性ドライバー。4年半の乗務経験を持ち、現在は都内にて勤務をしている。

記事監修:NTS総合弁護士法人札幌事務所 寺林智栄 弁護士
2007年、弁護士登録(札幌弁護士会所属)。 2013年から2017年まで東京家庭裁判所家事調停官を務める。 離婚・相続などの家事事件、労働問題、一般民事事件、企業法務など、幅広い分野を担当している。


参考:
白タク・白バスとは?(警視庁)
違法タクシー(白タク)の啓発について(国土交通省 近畿運輸局)


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