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「本人には言わないでください…」隣の“イビキ”で涙ながら訴える入院患者→夜勤で直面した「誰も悪くない問題」

  • 2025.10.14
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出典:photoAC(写真はイメージです)

こんにちは、現役看護師ライターのこてゆきです。

病棟で働いていると、患者さんの治療やケア以上に、「人と人の関係」に悩まされる瞬間があります。たとえば、ほんの小さな音「いびき」。

誰にも悪意がないのに、眠れない夜が続けば、それは確実に人を追い詰めていきます。

今回は、そんな「誰も悪くない問題」に直面し、どうすればいいのか答えが出なかったある夜の出来事をお話しします。

「隣の人のいびきで眠れないんです」

夜勤の静かな時間、ナースコールが鳴りました。50代の女性患者Aさんが半身を起こして、私を見つめます。

「すみません…隣の人のいびきが、もう我慢できなくて…」

涙をこらえるように話すその声には、疲れと苛立ちが混じっていました。Aさんは術後で体力も落ち、眠れない夜が続いていました。

「昨日も一晩中うるさくて…。今日こそ眠りたいんです」

隣のベッドを見ると、いびきをかいているのは60代の女性Bさん。

呼吸は規則的で、苦しそうな様子もなく、ぐっすりと眠っています。ただ、眠っているだけ。

けれどAさんには、その「ただのいびき」が夜通しのノイズとなり、限界を超えるほどのストレスになっていました。

「本人には伝えないでください」と泣いたAさん

耳栓を渡し、ベッドの位置を少しずらしてみました。

「これで少しは違うかもしれません」

そう声をかけると、Aさんは小さくうなずきました。しかし1時間後、再びナースコールが鳴ります。

「やっぱり無理です。響くんです…壁越しに、体にまで」

その声を聞いた瞬間、胸が痛みました。いびきの音は、心の疲弊と不安を増幅させてしまう。「眠れない」というのは、心をすり減らす苦痛なのだと改めて感じました。

「本人には…言わないでくださいね。悪いことじゃないのは分かってるんです。でも、今はもう耐えられなくて」

Aさんの涙を前に、私は言葉を失いました。Bさんにも非はない。Aさんも悪くない。

しかし、このままではAさんの心が壊れてしまう。どうすればいいのか、答えが出ませんでした。

「夜勤帯では対応できません」と言いたくなるほどの行き詰まり

ナースステーションに戻ると、同僚がぼそりとつぶやきました。

「いびきの件、またか…。この時間に部屋替えは無理だしな。空いてる部屋もないからね」

確かに、看護師が少ない夜間の部屋移動は難しい状況でした。

それでもAさんのナースコールは30分おきに鳴り、ついに「もうこのままじゃ眠れません」と涙ながらに訴える声がスピーカーから聞こえました。

私は深呼吸をして、Bさんのベッドの方へ。呼吸の様子を確認するために近づくと、いびきの音は確かに大きく、低く響いていました。

Aさんのベッドまで届くのも無理はありません。

「Bさん、苦しそうな感じはありませんか?」

声をかけると、Bさんは半分寝ぼけたように「すみません…昔から言われるんです」とつぶやきました。

そう言って、またすぐに眠りに落ちる。

本人に罪悪感を与えることも違う。

けれどAさんの限界も見過ごせない。

私は再びナースステーションに戻り、先輩に相談しました。

「どちらも悪くない」からこそ難しい

「どちらの訴えも正しい。けど、どっちかを犠牲にするしかないのが現実だよね」

先輩のその言葉に、私は何も返せませんでした。

いびきをかくことも、眠れずつらいことも、どちらも自然なこと。でも病棟という限られた空間では、それが簡単に共存できない。

最終的に、夜勤帯ではAさんのベッド位置を一時的に廊下側へずらし、朝になったら部屋替えを検討する方針に。

Aさんは「ありがとうございます」と小さく微笑んでいましたが、目の下には深いクマが残っていました。

チームで動いて初めて見えた安心の形

翌朝、日勤チームに経過を申し送りました。

すぐに師長が対応し、いびきが気にならない患者さんを探し、Bさんをその方の隣へ移動する調整をしてくれました。

後日Aさんは穏やかな表情で言いました。

「昨夜はぐっすり眠れました。本当にありがとうございました」

その言葉を聞いたとき、私はようやく息をつけました。けれど同時に、頭の中には「これが最善だったのか」という小さな問いが残り続けました。

看護師として学んだこと

この経験を通して感じたのは、誰も悪くない問題ほど難しいということ。

正解はなく、どちらの「安心」も奪わないように調整するしかない。

けれど、その中で私たち看護師ができるのは、「どちらの気持ちも代弁すること」だと気づきました。

Aさんの眠れない苦しさも、Bさんの罪悪感も。

どちらも否定せず、そっと寄り添うこと。

それが小さくても「安心」へとつながる第一歩なのだと思います。

同じように悩んでいる看護師へ

病棟では、騒音、光、臭い。些細なことが人の心をすり減らします。

「誰も悪くない」からこそ、対応が難しく、正解がない。

もし今、あなたが同じような状況にいるなら、どうか一人で抱え込まないでください。

夜勤中に解決できないことも、チームで動けば必ず道が開けます。

静かな夜に響くいびきの中で、私は学びました。安心とは、問題をなくすことではなく、誰かのつらさに気づき、寄り添うことなのだと。



ライター:こてゆき

精神科病院で6年勤務。現在は訪問看護師として高齢の方から小児の医療に従事。精神科で身につけたコミュニケーション力で、患者さんとその家族への説明や指導が得意。看護師としてのモットーは「その人に寄り添ったケアを」。


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