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5年前“衝撃の俳優デビュー”を思い出す【NHK夜ドラ】「芝居が上手すぎる」日本ドラマ界で“特異に輝く”22歳

  • 2025.10.15

NHK夜ドラ『いつか、無重力の宙で』は、かつて天文部で「一緒に宇宙に行こう」と語り合った女性たちが、大人になったいま、ふたたび“宇宙”という夢と向き合う物語だ。社会のなかで役割を背負い、現実の重力に引き寄せられながらも、もう一度空を見上げようとする姿。その姿に、多くの視聴者が自分自身を重ねている。そんななか、ひときわ静かに、しかし確かな光を放つ存在がある。奥平大兼が演じる大学生・金澤彗だ。

観測者のまなざし:奥平大兼がもたらす静のドラマ

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『いつか、無重力の宙で』第3週(C)NHK

宇宙工学を専攻し、ファミレスでバイトをする青年・彗(奥平大兼)。人付き合いは時間の無駄だと考え、群れることを好まない。しかし、飛鳥(木竜麻生)やひかり(森田望智)ら“元・天文部”の女性たちが、個人で人工衛星を打ち上げようと奮闘する姿に触れることで、彼の内側にも小さな変化が芽生えていく。

このドラマにおいて、彗は“無重力”そのもののような存在である。感情を露わにせず、どこか浮遊するように場の空気を静め、ときに俯瞰する。彼が一歩踏み込むと、物語にわずかな“重力”が生まれる。

奥平の演技はまさに、その重力をコントロールするかのようだ。沈黙のなかに意味を置いていく。彼の目の奥にあるわずかな温度差が、視聴者に余白を与える。SNS上でも「芝居が上手すぎる」と話題になっている。

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『いつか、無重力の宙で』第4週(C)NHK

奥平大兼のデビュー作『MOTHER マザー』を観た人なら、彼が“喋らない時間”を支配できる俳優であることを知っているだろう。あの少年は、言葉を奪われながらも瞳で世界を語った。その後も『マイスモールランド』や『ヴィレッジ』など、孤独や閉塞を抱えた若者を何度も演じてきた。

しかし、どの作品でも彼の孤独は拒絶ではない。むしろ“他者を知るための静かな待機”として描かれる。

本作『いつか、無重力の宙で』における彗もまた、そうした“観測者”としての奥平の進化形である。飛鳥たちが理想に突き進む姿を、どこか冷めたように観察しているが、彼のなかには少しずつ“彼女たちを理解したい”という衝動が微かに揺れ始める。木竜麻生演じる飛鳥との会話シーンでは、理系的な理屈を超えた“感情の手触り”がほんの一瞬だけ滲む。彼のなかで、重力が働き始めるのだ。

奥平の魅力は、演技が“説明的”ではないところにある。感情の頂点を描くのではなく、その手前の曖昧な場所を大切にする。微妙にずれた呼吸、伏し目がちに口角を上げる表情、相手のセリフを受けてから、ほんの一拍置いて返すリズム。それらが、彼のなかに流れる“無音のドラマ”を作り出している。

「無重力」というテーマと俳優・奥平大兼の親和性

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『いつか、無重力の宙で』第4週(C)NHK

この作品のタイトルにある“無重力”という言葉は、単なる宇宙への憧れではない。

現実社会のなかで押しつぶされそうになる重力……責任、焦り、諦めから解放される、一瞬の浮遊感を意味している。そして、奥平の演技にはまさにその“重さと軽さの境界”をたゆたう魅力がある。

彼の芝居は常に、地上から少しだけ浮いているようだ。リアリティのなかに、ほんのわずかな非現実を漂わせることで、観る者に“この人物はどこに心を置いているのか”と問いかける効果を生む。その不安定さが、現代の若者たちの“生きづらさ”や“静かな抵抗”を象徴しているようにも見える。

静かな重力を持つ俳優として

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『いつか、無重力の宙で』第6週(C)NHK

『いつか、無重力の宙で』は、夢を再起動させる大人たちの群像劇であると同時に、人と関わることの面倒くささと、それでも誰かに惹かれてしまう感情を、丁寧に描いた物語でもある。奥平大兼演じる金澤彗は、その両極の狭間で揺れる“触れない優しさ”を体現している。

派手な台詞も、感情の爆発もない。しかし、彼の存在があることで、登場人物たちの会話や沈黙が意味を帯びる。まるで、重力がなければ軌道に乗らない衛星のように。奥平の静かな演技が、ドラマ全体を軌道に留めている。

彼の演技には、派手さよりも“確かな重力”がある。無重力のように軽やかで、しかしそのなかに、人の心を引き寄せる強い引力を宿しているのだ。それは、今後の日本ドラマ界においても、きっと特異な輝きを放ち続けるだろう。


NHK夜ドラ『いつか、無重力の宙で』毎週月曜~木曜よる10時45分放送
NHK ONE(新NHKプラス)同時見逃し配信中・過去回はNHKオンデマンドで配信

ライター:北村有(Kitamura Yuu)
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。X(旧Twitter):@yuu_uu_