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朝ドラで“数話だけ”登場した人物に注がれる熱視線「また出てこないかな」“主演のキャリア”を持つ俳優に再登場の期待高まる

  • 2025.10.16
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『ばけばけ』第2週(C)NHK

朝ドラ『ばけばけ』ヒロイン・松野トキ(髙石あかり)の初めての見合い相手として登場した、黒のフロックコートに身を包んだ青年・中村守道。演じるのは、戦隊シリーズ『王様戦隊キングオージャー』で主演を務めた酒井大成だ。守道は、元武家ながら商人の道を歩み始めた青年。貧しい生活から抜け出すために“婿取り”を決意したトキと、明治という時代の転換点で出会う。

時代のはざまに立つ青年のリアリティ

両家の初対面の場面は、絵に描いたような“文明開化の衝突”だった。黒いスーツ姿の守道に対し、トキの父・司之介(岡部たかし)と祖父・勘右衛門(小日向文世)は、まげを結い裃姿で堂々と登場。「跡取りになれば、このようになれるぞ」と誇らしげに言い放つ勘右衛門に、守道は驚きを隠せず、気まずそうに「ご立派なまげでありますな」と返す。その丁寧さと苦笑のなかに、酒井大成の誠実な“間合いの演技”が光った。

このお見合いシーンのおもしろさは、単なる時代ギャグにとどまらない。

明治初期という、武士の矜持と商人の合理がせめぎ合う時代。松野家が象徴する“旧来の価値”と、守道が体現する“新しい生活様式”のぶつかり合いは、ドラマ全体が描こうとする“時代の裂け目”にほかならない。

酒井が演じる守道は、その“裂け目”に立つ人物として、見事に呼吸している。

彼は決して、進歩主義の旗を掲げる青年ではない。司之介たちの時代遅れなまげ姿を笑うでもなく、かといって執拗に文明を誇示するでもない。どちらの価値にも一瞬戸惑いながら、誠実に相手を見ようとしている。

その微妙な立ち位置を、酒井は肩の動きやまばたきのリズムで繊細に表現していた。細やかな仕草に、彼が敬意と困惑を同時に抱く青年であることが伝わる。

多くの俳優が、ここをコミカルに処理するだろう。しかし酒井は笑いに逃げず、守道という青年の“まっすぐさ”を保ち続けた。結果として、シーン全体が奇抜ではなく、どこかしみじみと温かい余韻を残している。

トキの“初恋”を映す鏡?

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『ばけばけ』第2週(C)NHK

酒井大成といえば、『王様戦隊キングオージャー』で演じた熱血王・ギラ役の印象が強い。しかし『ばけばけ』の守道は、まるでその“戦い終えた後の青年”のような静けさをまとっている。

声を張らず、穏やかに言葉を置く。トキを前にしても、彼女を圧倒せず、目線の高さを合わせる。その一挙手一投足が、“この人は相手を尊重する人間だ”という説得力につながる。ヒーロー時代に培った真っすぐな眼差しはそのままに、声を潜め、姿勢で語る方向に表現をシフトしたことで、俳優としての新境地を感じさせた。

守道の出番は短いながらも、画面に“心の余白”を残して退場していった。この潔さが、反対に視聴者の印象に深く残る結果となった。

髙石あかり演じるトキにとって、守道は人生で初めての見合い相手であり、初めて“異性の眼差し”を意識する存在だ。髙石の演技が少しぎこちなく揺れると、酒井はその動揺を包み込むように微笑む。彼の穏やかな受け身の芝居が、ヒロインの初々しさを際立たせていた。

このシーンが、恋愛ドラマ的な高揚ではなく、どこか“生活の温度”を感じさせたのは、酒井の芝居が決してトキを圧倒せず、対話として成立していたからではないだろうか。

髙石と酒井。ともに20代の俳優同士だが、互いの芝居を尊重し合うバランス感覚に好感を抱く。“お見合いの相手”という一度きりの登場にして、トキの人生に確かな印象を刻みつけた守道は、ドラマのなかで“恋の始まり”ではなく、“大人になるための通過儀礼”として機能していた。

誠実さで魅せる俳優、酒井大成の“次のフェーズ”

彼の魅力は、“誠実さ”を軸にした変幻自在さにある。

ドラマ『三ツ矢先生の計画的な餌付け。』の現場で共演した山崎まさよしが、2024年9月3日掲載の『kukka』のインタビューで「ありのままの素直さが好印象」と語ったように、芝居に無理がない。

山崎:酒井さんはまだ若いのに、監督ともきちんと向き合ってディスカッションをしていたんです。また、その受け答えがとても素直そうで、そんなやり取りしているのを見て、とても清々しい人だと感じたことをよく覚えています。ドラマの経験がまだ多くない酒井さんが、決して自分を大きく見せようとすることなく、そのことを真摯に受け止めて現場で向き合っている姿がとても印象的でした。ある意味、とても羨ましかったですね。これからまだまだ経験できるんだ、と思えて。
ーーありのままの素直さが好印象だったんですね。
山崎:そうですね。何か奇をてらうようなことをせず、一生懸命さやきちんとした姿勢が良い印象でした。
出典:『kukka』2024年9月3日掲載 【山崎まさよし×酒井大成:インタビュー】より

今回の『ばけばけ』でも、出番はわずかだったが、空気を浄化するような存在感を放っていた。SNS上でも「また出てこないかな」と早くも再登場を待望する声が多い。時代劇の様式にも、その感覚にも寄り添える柔軟さ。これは、朝ドラ俳優としての大きな武器になるだろう。

トキの初見合い相手として登場した中村守道は、時代の波に飲み込まれることなく、自分の誠実さで立とうとする青年だった。

そして、その誠実さを見せた酒井大成の演技は、“ヒーローの延長ではなく、ひとりの青年としての人間味”を見せた新しい挑戦だった。

黒いフロックコートの下にあるのは、戦うための鎧ではなく、他者を思いやる静かな強さ。文明開化の光と影を行き交う『ばけばけ』という物語のなかで、彼の姿は確かに、明治の新しい風を運んでいた。


連続テレビ小説『ばけばけ』毎週月曜〜土曜あさ8時放送
NHK ONE(新NHKプラス)同時見逃し配信中・過去回はNHKオンデマンドで配信

ライター:北村有(Kitamura Yuu)
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。Twitter:@yuu_uu_