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穏やかに見えた夫婦を一変させた“たった一つの約束” 離婚から始まる“令和ならでは”のホームドラマ

  • 2025.10.16
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仲間由紀恵(C)SANKEI

10月9日から始まった岡田惠和脚本の連続ドラマ『小さい頃は、神様がいて』は、子どもが20歳になったら離婚したいと妻に言われた夫が主人公のホームドラマだ。
東京郊外にある三階建てマンション「たそがれステイツ」の三階で暮らす小倉渉(北村有起哉)は妻のあん(仲間由紀恵)と共に、二人の子どもを育て上げた。娘のゆず(近藤華)は大学生で現在も同居中。息子の順(小瀧望)は消防士として働きながら一人暮らしをしている。
子育ても終わりが見え、一家は平和に思えたが、渉はかつて妻が言った、娘が20歳になったら離婚して欲しいという言葉が引っかかっていた。
もうすぐ娘は20歳になるが、あの話題はその後、出なかったため、もう消えたかと思っていた渉だったが「生きてるんだけど、あの約束。そのつもりでずっと生きてきたんだけど」と妻から言われ、愕然とする。

離婚から始まる令和ならではのホームドラマ

坂元裕二脚本の『最高の離婚』や宮藤官九郎と大石静の共同脚本の『離婚しようよ』など、離婚を題材にした夫婦のドラマは定期的に作られ、人気を博している。
この『小さい頃は、神様がいて』も、離婚に向かっていく夫婦の姿を描いたホームドラマとなりそうだが、「たそがれステイツ」には他にも二組の住人がいて、そちらのドラマも見逃せない。

一階の住人は、永島慎一(草刈正雄)&さとこ(阿川佐和子)のシニア夫婦。どうやら夫の方が妻にぞっこんのようだが、妻はどこか苛立っているようで、愚痴ばかり言っている。
一方、二階の住人は、樋口奈央(小野花梨)&高村志保(石井杏奈)。二人は高校で知り合った元同級生で、現在は恋人として同棲している。二人とも同じスーパー銭湯で働いており、奈央は明るく社交的だが志保は人見知り。そのため「たそがれステイツ」の住人とは深く関わらずにいたが、台風の日に小倉家に集まった際に自分たちが恋人同士だということを伝える。

同じマンションで暮らす三組の住人のライフスタイルを見せることで、現代の家族の在り方を問いかけようというのが本作の狙いだろう。そうでありながら、理想像を押し付けてくる感じがないのが、本作の居心地の良さだ。逆に「家族はこうあるべし」という理想を押し付ける世の中に異を唱えているようにも見える。

例えば永島家の場合は慎一を演じる草刈正雄の立ち振る舞いがあまりにも優雅で上品なため、理想の夫に見える。逆に愚痴ばっかり言う妻のさとこに対しては、何でこの人はこんなに陰気でいじけたことしか言わないのかと少し嫌な気持ちになるのだが、実は慎一は若い頃は家のことを全くやらずにさとこに押し付けていて、その罪滅ぼしとして理想の夫として振る舞っているのだが、その振る舞いが真剣すぎて鬱陶しいと、さとこは考えている。
二人のやりとりはコメディ風だが、完璧な夫として振る舞う慎一に対する彼女の複雑な感情は根深いものがあり、一筋縄ではいかない話になっていくだろうと予感させる。

それは小倉渉とあんの夫婦にも言えることだ。
子どもが20歳になったら離婚したいとあんが言ったのは育児ノイローゼが原因だったことは回想シーンで暗示されている。
しかし、それはきっかけで、本当の原因は毎日少しずつ溜まっていった“何か”なのだろう。

第1話ではそれは食事した後のお皿をシンクにそのまま置いて洗おうとしない夫の姿に表れており、ああいうやりとりが積もりに積もった結果、離婚したいという気持ちに至ったのではないかと感じた。

テレビドラマの伝統を引き継ぐ岡田惠和

前述した『最高の離婚』や、同じ坂元裕二脚本の映画『ファーストキス 1ST KISS』でも、日常生活の小さな行き違いが積もりに積もった結果、夫婦が離婚に至る描写があるのだが、こういった描写は山田太一や向田邦子の時代から続く日本のテレビドラマがもっとも得意とする表現であり、その伝統を最も強く引き継いでいる脚本家が岡田惠和だ。

岡田は山田太一に強い影響を受けている脚本家だが、『小さい頃は、神様がいて』を観て真っ先に連想したのは山田太一脚本の連続ドラマ『岸辺のアルバム』だ。

1977年に放送された『岸辺のアルバム』は、家族の崩壊を描いたホームドラマで、1974年に起きた多摩川の水害で家が流される場面に着想を得た、マイホームが水害に遭うラストシーンは今でも語り草となっている。
『小さい頃は、神様がいて』の台風が直撃するシーンを観て『岸辺のアルバム』の水害の場面を思い出したのだが、本作もまた家族崩壊の物語となるのだろうか?

スマホに表示された離婚まで「あと54日」という数字をあんが見せる中、松任谷由実の主題歌『天までとどけ』が穏やかなトーンで流れる中、次回予告に入るため、どう捉えていいのかわからなくなるのだが、ドラマの引きとしては実に見事で、この夫婦は本当に離婚するのか? それは幸せなのか? 不幸なのか? とあれこれ考えてしまい、来週が楽しみだと思った。

その意味で岡田惠和らしい隙のない脚本だったが、一方で新鮮だったのが、ポップで明るい酒井麻衣の演出。

酒井は2010年代に映画やMVで注目された若手女性監督で、テレビドラマは『荒ぶる季節の乙女どもよ。』や『明日、私は誰かのカノジョ』といった女性の内面に深く踏み込んだ深夜ドラマを手掛けている。
岡田惠和とは今年の10月17日に公開予定の映画『ストロベリームーン 余命半年の恋』でも組んでいるが、テレビ局出身のディレクターとは違う独自のセンスが映像の節々から感じられる。
中でも奈央と志保の女性カップルのやりとりや、部屋の中にテントを張って暮らしている個性的なビジュアルには、酒井のカラーが強く出ており、これまでの岡田惠和作品にはなかった個性を与えている。

酒井の演出が岡田脚本の世界から少しだけ浮き上がっているのが本作の面白さで、その立ち位置がそのまま、大人の夫婦の物語の中にいる奈央と志保という若い女性の立ち位置とマッチしている。

物語の行方も気になるが、酒井の演出がどのようなビジュアルを生み出すのかにも注目である。


ライター:成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)、『テレビドラマクロニクル 1990→2020』(PLANETS)がある。