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“予想だにしない結末”と残された余韻「心臓にダメージ」「やっぱりすげぇ」“217円の意味”を問いかけた名作ドラマ

  • 2025.10.3
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『217円の絵』(C)NTV

日テレシナリオライターコンテスト大賞作として誕生したドラマ『217円の絵』は、絵を媒介に“人間の価値”について問いただされる一編だ。風間俊介と齋藤潤のW主演で描かれるのは、日常のはざまに生きる中年男性と高校生が交差する、たった一度の奇跡のような物語。現代社会に蔓延する「評価されなければ価値がない」という空気に抗いながら、本作は“本当の価値とはどこにあるのか?”という根源的な命題へ、真正面から向き合っていく。

※以下本文には放送内容が含まれます。

価値は、他人が決めるのか?自分が信じるのか?

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『217円の絵』(C)NTV

主人公は、自称画家の御所明(風間俊介)と、美大進学を夢見ながらも家庭の事情でその夢を諦めかけている高校生・春文涼(齋藤潤)。ふたりはコンビニのバイト先で出会い、少しずつ言葉を交わすようになる。

春文が有名野球選手のサインをもらったノートを「2,000円くらいにはなった」と笑う一方で、御所は「人を殺した奴の命に、どうして価値がつくんだろうね」とシニカルに笑う男だ。価値の定義そのものが、社会や経済の論理で歪められていく現代において、この対照的な価値観のぶつかり合いは非常に示唆的に映る。

御所の描いた絵に春文が価値を見出し、買いたいと申し出ると、御所は「この絵の作者は僕だから、お金は要らない」と拒む。それは“作者が何者か”で絵の価格が変動するゴッホのエピソードを引き合いに出したうえでの、自分自身への痛烈な皮肉でもあった。

孤独と喪失がにじむ、風間俊介の演技

風間俊介が演じる御所は、言動の端々に皮肉と絶望を滲ませた、謎多き中年男。家族も友人も出てこない彼の人となりは一切描かれないが、だからこそ彼の“孤立”がひときわ際立つ。

風間はこの役を、声のトーンや立ち居振る舞い、視線の置き方の細部に至るまで緻密に構築している。リアリティなんてないのに、それでもふとした瞬間に見せる絵への情熱や、春文とのやりとりに滲むほのかな優しさが、確かに彼の過去にあったであろう傷を想像させる。

本編ラストにおいて、御所が自分の血液で絵を描こうとする場面は衝撃的でありながら、それまでの物語すべてを回収するような不穏な美しさを備えてもいる。自らの命に“価値”を見出せなかった彼が、最期に残した表現こそが、少なくとも春文の意識を変えたのだ。

齋藤潤が体現した、希望と矛盾

対する齋藤潤は、春文という現代的な若者像をリアルに、そして繊細に演じ切った。美大に行きたいが経済的な理由でためらい、家庭でも学校でも自分の存在意義を見失いかけている春文は、まさに“自己肯定感の空白”のなかで揺れる高校生だ。

彼の姿を見ていると、確かに、自宅の電気代を高校生の息子に支払わせ、自分の都合で荷物ごと家から出ていってしまうような親のもとでは、冷笑せざるを得ないよな、と思えてしまう。

齋藤の演技が織りなす緊張と緩和のコントラストは、春文の内面の揺れを雄弁に語っていた。とりわけ御所に向かって、「分割で絵の代金を支払います、10,001円払うことで御所さんはゴッホを超えます」と口にした場面には、言葉以上の熱が孕んでいた。齋藤潤という俳優の観察力と説得力を証明する名場面と言える。

命の価値は誰が決めるのか?

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『217円の絵』(C)NTV

本作でもっとも衝撃的な展開は、御所が指名手配中の殺人犯を殺害していた可能性を示唆するラストである。

懸賞金300万円がかけられていた犯人の命には“価値”がついていた。一方で、誰にも存在を顧みられない御所自身の命は、絵を通して“無価値”から“希望の火種”へと変貌する。だがその代償は、あまりにも大きい。

御所の最期の行動は、命を削って何かを伝えようとする、叫びに近い“表現”だったのかもしれない。そしてその絵を、春文が217円で“買った”という行為には、消費と創造の両面が刻印されている。あまりにも切なく、あまりにもリアルな物語の締めくくりだ。

SNSでも「心臓にダメージ」「やっぱりすげぇ役者だよ」と絶賛の声が多数。ドラマファンだけでなく、現代を生きるすべての人に刺さるテーマ性が、本作の評価を決定づけている。

『217円の絵』が提示したのは、「価値は他者に与えられるものではなく、自ら信じるところから始まる」という強いメッセージではないだろうか。安っぽい自己啓発とも、きれいごとの理想論とも違う。人生のなかで何かを信じることの困難と、そこに踏み出す一歩の尊さを、物語は確かに伝えてくれる。

その意味でこのドラマは、風間俊介と齋藤潤の“ふたりの画家”が描いた、もっとも人間的な“肖像画”だったのかもしれない。


日本テレビ系全国ネット 火曜プラチナイト 『217円の絵』9月30日(火)24:24〜24:54 (単発ドラマ)

※TVer・Hulu にて配信中

ライター:北村有(Kitamura Yuu)
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。Twitter:@yuu_uu_