ディズニー映画『マレフィセント』のトリビア──アンジェリーナ・ジョリーがヴィランを演じた理由、エル・ファニング起用の背景etc.

アンジェリーナ・ジョリーにとって念願だったヴィランの物語

ディズニーのプロデューサーはブロードウェイのミュージカル『ウィキッド』を観て、誰もが知る物語のヴィランの背景に光を当てるという発想に影響を受けた。そこで、オリジナルアニメではオーロラに呪いをかける魔女として描かれたマレフィセントを「誤解された存在」として再定義。彼女を主人公に据えて、なぜマレフィセントが悪の存在となったかにフォーカスするストーリーとした。少女時代に出会った人間の少年ステファンの裏切りと翼を奪われた過去、母性や愛、贖罪、環境保護のテーマを描いた。

ディズニー映画を観て育ったアンジェリーナ・ジョリーは、特に好きだったのが『眠れる森の美女』だったという。「小さな頃からマレフィセントがお気に入りだった」と語る彼女は、子ども心に恐ろしいと感じながらも惹かれたキャラクターについてもっと知りたいという気持ちを持っていたこと、オファーを受けた当時は子育て中であり、子どもたちが見られる作品に出演したかったことなどが重なって出演を決意し、最終的には製作総指揮にも名を連ねた。

熟練のクリエイターと魅力的なキャラクター

監督は、『アバター』（2009）や『アリス・イン・ワンダーランド』(2010)などで美術を手がけ、前者で第82回アカデミー賞美術賞を受賞、後者でも同賞ノミネートのロバート・ストロンバーグ。本作が監督デビュー作だが、映像作りを熟知している彼は実写とCGを見事なバランスで融合させ、幻想的かつリアルな映像を作り出した。

マレフィセントを裏切った人間の国の王、ステファンの娘で心優しい無垢な少女オーロラを演じたのは、撮影時14歳だったエル・ファニングだ。2歳から子役として活躍していた彼女がヒロインを演じたジュブナイル作『SUPER8/スーパーエイト』（2011）を観て、ストロンバーグ監督は、その才能と魅力に注目。初めて対面したとき、エルの透明感に魅了されたという。ダークなマレフィセントと対照的で、物語の光と影を印象づけた。

オーロラが16歳の誕生日を迎えるまで森の小屋で育てる3人の妖精を演じたのはレスリー・マンヴィル、イメルダ・スタウントン、ジュノー・テンプルという実力派揃い。CGで作られたキャラクターだが、モーションキャプチャーで捉えた3人の顔の表情は実にリアルで個性的だ。

マレフィセントの忠実な下僕、ディアヴァルはオリジナルアニメでは名もなきカラスだったが、本作では危機一髪のところをマレフィセントに救われ、人間（サム・ライリー）の姿に変身させられる。シリアスでダークなトーンの本作で、マレフィセントとのやり取りはどこかユーモラスで、笑いを誘う。ちなみに撮影で使われたカラスは言うことをきかずに勝手に飛びまわり、アンジェリーナが「言うことを聞いて」とジョークで場を和ませたそうだ。

キャラクターを引き立てるヘアメイクと衣装

マレフィセントのトレードマークである角は、特殊効果アーティストのリック・ベイカーがオリジナルアニメのデザインを再解釈したもの。蛇の鱗や鳥の羽を思わせる革製のヘッドラップで覆われた角そのものは樹脂製で軽量だが、存在感があり、撮影現場ではセットや他のキャストに引っかかるトラブルも発生し、その度に調整した。

彫刻的な風貌は、レディー・ガガの「Born This Way」のミュージックビデオから着想を得て、アンジェリーナ自身が提案した。当初、ディズニーは尖った頬骨のプロテーゼに難色を示したが、メイクアップテストの仕上がりで納得させ、さらに尖った耳と鋭い奥歯、あまり目立たないノーズピース、ヤギの目にインスピレーションを得たコンタクトレンズを追加した。メイクには毎日3時間かけ、赤リップはM・A・C（メイクアップ アート コスメティックス）の「Anthurium」を3本使い切った。

衣装デザイナー、アンナ・B・シェパードは、わずか8週間という短期間にルネサンス時代のフランスやイタリアの美術をインスピレーションに2000着以上を制作し、3度目のオスカー・ノミネートを果たした。マレフィセントの衣装は特別にチームを組み、アンジェリーナも明確な方向性を提案し、マレフィセントの9着の衣装を作成。黒や深緑の衣装は森の守護者らしく、自然との一体化を表現した。洗礼式の黒い衣装は、アニメのシルエットを再現しつつ、コウモリの羽根のようなトレーンで動きを加えている。衣装の内側やアクセントにエメラルドグリーンや紫を使用したのは、アニメのカラーパレットへのオマージュだ。

アンジェリーナは靴やアクセサリー、帽子についてはロンドン在住の新進デザイナー3人を推薦した。アクセサリーに貴石やクリスタル、動物の骨や歯、羽根、人間の髪まで使用し、骨を模したヒール付きの靴など攻撃的な要素が印象的。角を覆うヘッドラップも、オーストリッチや魚の鱗などを使用したユニークなデザインだ。頭を締め付けるのでアンジェリーナは頭痛に悩まされながらも、プロ意識で乗り切った。

シェパードは「彼女が原動力でした」とアンジェリーナの貢献を語り、アンジェリーナも「衣装を着るとマレフィセントの魂が入る」と語っている。マレフィセントのルックは、今もコスプレで絶大な人気を誇る。いっぽうで若い頃のマレフィセントの装いには、アンジェリーナがオフで好むゆったりとしたデザインを採用。オーロラは、14歳というエルの年齢に相応しいイノセントで可憐なシルエットになった。

ブランジェリーナの子どもたちの活躍

アンジェリーナとブラッド・ピットの実子であるヴィヴィアンが、幼き日のオーロラを演じたのも大きな話題となった。このキャスティングは、候補だった子役たちが、メイクと角で真に迫るマレフィセントを怖がって泣き出してしまったから。一方、ヴィヴィアンは普段とは全く違う姿の母アンジェリーナを見ても少しも動じず、自然な笑顔で演技した。

当時は6人の子どもたちはまだ小さかったため、撮影現場には家族全員が帯同し、ヴィヴィアン以外にもザハラとパックスが、オーロラの洗礼式に世界中から招待された王女や王子の1人としてカメオ出演している。アンジェリーナとブラッドの第1子のシャイロも出演予定だったが、当日は機嫌が悪くて撮影には参加しなかったそうだ。

妖艶かつ威厳ある声は、ジョリーが子どもたちをお風呂に入れる際のお話タイムで出した声が起源。物語を語る際にいろいろな声色を使っていたが、ある夜、オリジナルアニメのマレフィセント（エリノア・オードリー）の声に似せてみせたところ、子どもたちに大好評で、その声で演じることに決めたという。独特の笑い声も、子どもたちの前でトライしたバリエーションから選んだ。

名作アニメ『眠れる森の美女』へのオマージュとしてのイースターエッグ

16歳の誕生日を迎えたオーロラが糸車の針を指に刺してしまう呪いのシーンは、1959年のアニメをほぼ忠実に再現している。オーロラを催眠状態に誘う緑の光や糸車のデザイン、眠りに落ちたオーロラがベッドに横たわる描写も、アニメの象徴的な構図を意識したもの。

主題歌「Once Upon a Dream」は、誰もが一度は聴いたことのあるスタンダード・ナンバーであり、劇中ではオーロラがフィリップ王子と出会うシーンで、お馴染みのメロディが流れるほか、いくつかのシーンでアレンジを変えて、オーロラやマレフィセントの感情を表現している。エンド・クレジットではラナ・デル・レイが同曲を歌っているが、彼女の起用はアンジェリーナが彼女の大ファンで強く推薦したことから実現したと言われている。

3人の妖精の名前はフローラ、フォーナ、メリーウェザーからノットグラス、フリットル、シスルウィットに変わったが、それぞれのカラーコードはアニメを踏襲。ノットグラスはフローラが纏う赤に近いスモーキーなピンクになっているが、フリットルは青、シスルウィットは緑とアニメを忠実に再現している。

Text: Yuki Tominaga

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