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「しまった!」終着駅で気づいた“重大な勘違い” 乗降介助を任された新人駅員の『忘れられないトラブル』

  • 2025.10.25
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出典:photoAC(写真はイメージです)

こんにちは。元鉄道駅員の川里と申します。

今日は、私が駅員時代に経験した「忘れられないトラブル」をご紹介します。どうして気づかなかったのかと、今でも思い出すと背筋が凍るエピソードです。

乗降介助は緊張する業務

駅員の業務のひとつに「乗降介助」があります。脚や目が不自由なお客さまの列車の乗り降りをお手伝いすることです。駅員たちはこのとき、細心の注意と緊張感を払います。

「乗り降りの手伝いくらい、簡単にできるのでは?」

と思った方もいるでしょう。確かに、車いすを使った乗り降り自体は練習すればコツを掴めます。

最も大きな問題は「降りる駅への連絡を忘れないこと」、そして「お客さまが乗る列車や位置を間違えないこと」です。これを失念してしまうと、お客さまが希望の時間に希望の駅で下車できなくなることは容易に想像できるでしょう。最悪の場合、無理に下車しようとしてホームとの隙間に転落して命に関わる恐れもあります。

そのため、私が働いていた会社では改札口に介助希望のお客さまがいらっしゃると、案内する列車の番号、乗降するドア、乗り場に向かう時刻などを専用の用紙に記入し、ただちに相手駅へ電話をかけていました。連絡を忘れないよう、ほかのどの業務にも優先して行うよう言われています。

入社して初めての異動を経験したあるとき、乗車介助と降車介助が同じホームに連続して入ったことがありました。改札口の人数にも限りがあるので、あまり多くの人数を介助業務に専念させることはできません。そこで私は乗車介助を行ったあと、そのままホームに残って自分が降車介助の列車を待つことにしました。

2連続の介助位置はどちらも「最前部前ドア」

乗車介助時刻の5分前に設定していたアラームが鳴り、私は介助用のスロープと2枚の介助専用用紙を持って1番ホームへ向かいました。このお客さまの乗車位置は2両編成の先頭車、運転席のすぐ後ろのドアです。私は介助用紙を見ながら運転士に連絡します。

「介助の連絡です。この列車の番号は〇〇〇〇で間違いないですか?△△駅まで1名、最前部前ドアにご乗車です」

乗務員にも情報共有するのは、万が一にも到着駅の駅員が介助業務を失念して下車できない、という事態を防ぐためです。運転士と相互確認してからお客さまにご乗車いただいた私は、もう1枚の介助用紙を再確認しました。

「次は降車介助。到着時刻は今から10分後、停車位置は1番ホーム、お客さまは1両目の最前部前ドアにご乗車。さっき乗車介助したのも1両目の前ドアだったから、ここで待っていたらいいな」

さて、この駅にはある特徴があります。それは「終端駅であること」です。一般的に、途中駅ならひとつのホームに発着する列車は上り方向か下り方向かの一方通行です。

しかしこの駅は終端駅のため、同じホームでも出発する列車はすべて上り方向に、到着する列車はすべて行き止まりの下り方向に走ります。つまり、先頭と最後尾が反対になるのです。このまま待っていると目の前に来るドアは最後尾の後ろドア。そのことに気が付いたのは、列車が目の前に進入してきたときでした。

走れ!急げ!

「しまった!」

気が付くや否や、私はスロープを持って列車の先頭車両を目指し、走り始めました。昼下がりだったためか、ホームに並ぶお客さまはほとんどいません。また、幸いにも2両編成でゆっくりとした速度だったため、なんとかお客さまが自力で降車される直前に間に合うことができました。

日常的に運動していない私は、それだけの短距離走でも息が上がってしまいました。お客さまから指摘されることはありませんでしたが、私が何らかの失敗をして焦ってやってきたことは察知されていたと思います。

これが間に合わなかったら大変なところでした。もしも私が最後まで気づかなかったら、お客さまを危険にさらすことはもちろん、介助業務に失敗したことが会社全体に情報共有されてしまうのです。

駅員が停車直前の列車と並走しているのを見たお客さまは、さぞ不審に思ったことでしょう。コロナ禍でお客さまの数が少なく、私の醜態の目撃者が少なかったのは不幸中の幸いでした。

なぜ気が付かなかったのか

では、なぜ私は列車の向きに気が付かなかったのでしょうか。もちろん直接の理由は私の確認不足なのですが、確認不足だった背景には異動してすぐの介助業務だったことが関係しているのかもしれません。

私がひとつ前に配属されていた駅は、終端駅ではなく途中駅でした。そこから異動して間もなくの出来事だったため、まだ前の駅の癖が残っていたのだと思います。電話に出たときに異動前の駅名を名乗ってしまったこともありました。

この会社では、駅員は長くても10年ほどで異動があります。その中でも私は平均して2年おきに駅が変わる、異動の多いキャリアでした。

異動は業務のマンネリ化防止になり、新しい町を知れるメリットもありますが、回収したきっぷの保管場所や主要駅までの運賃など、細かい点を覚えなおす必要があります。特に介助業務という命を守るための仕事には、一層の注意をしなければならないと気を引き締めるきっかけになった事件でした。


ライター:川里隼生

鉄道会社の駅係員として8年間、4つの駅を経験しました。コロナ禍やデジタル化を通して移り変わってきた、会社としての鉄道サービスの未来像と、お客様それぞれが求めている鉄道サービスのあり方の両方から学んだことを記事にしていきます。