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「地図が見えない」残り20件、夜の住宅街で…。再配達の焦りが招いた、ベテラン宅配員の「痛恨のミス」

  • 2025.12.21
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出典元:photoAC(画像はイメージです)

配達の現場では、想定外のトラブルに出会うこともしばしば。

今回は、「まさかそんなことが!?」と冷や汗をかいた実際の出来事をお届けします。

 時間に追われる夜の配達現場

あれは夜の配達をしていた時のことです。

日中不在がちなお客様。夜であればたいてい在宅なので、18時半過ぎにお伺いしました。

ところがこの日に限っては、まだご不在。

私の勤務していた会社では、ネットでの再配達指定は当日は夕方17時45分まで、ドライバーへの直通連絡は19時までと決まっていました。

そのため、配達後10分ほどで「今帰ってきたから再配達お願い!」という電話を受けるのはよくあること。

ちょうど近くを回っていたので、すぐに再配達に向かいました。

ここまではいつも通り。

しかしこのあと、悪夢が待っていたのです。

業務端末が消えた――現場で起きた最悪の瞬間

再配達を終えてホッとしたのも束の間。

車に戻って次の配達先を確認しようとした瞬間、仕事の相棒である大事な業務端末がどこにも見当たらないことに気付きました。

背筋がゾッとしました。

その端末には荷物情報や地図、配達記録など、業務に必要なすべての情報が入っています。
これがなければ仕事にならないほどの重要アイテム。
もし紛失したら、最悪の場合、顧客情報の漏洩にもつながりかねません。
ただのミスでは済まされない事態です。

車内をくまなく探しても見つからず、焦りながら外に出て周囲を見回していると、数メートル後方の道路に黒い小さな影が落ちていました。

まさか、と思い近づくと、案の定。
そこにはアスファルトに叩きつけられて傷のついた端末が。
拾い上げた瞬間、思わず息を呑みました。

まるで何かに強く打ち付けられたような、痛々しい傷跡。

画面は蜘蛛の巣のようにひび割れ、液晶の7割が認識不可。
「やってしまった……」

かろうじて電源は入るものの、地図もデータも確認ができない状況。

残りの荷物は20件近く。
20時までの時間指定もある。

時間は夜の19時をすこし回り、残りの件数からしても、時間内に配達を終えられるかの瀬戸際でした。

助けを呼べない夜、迫られる“現場判断”

夜間は日中に比べて人員が減るので、他のドライバーに頼ることは難しい。
事故や車両トラブルなど、よほどの緊急事態でない限り、基本的には一人で最後までやり遂げる”現場力”が求められます。

私の担当エリアは山間部で広範囲。1時間で10件前後が妥当な配達数です。
その日はすでにぎりぎりのスケジュールの中で起きたイレギュラー。
焦りを押さえ込みながらも、止まるわけにはいきません。
時間は刻一刻と過ぎていきます。

しかし、幸いだったのは、ここが長年担当していたエリアだったこと。
10年以上同じ地域を回っていた経験があったおかげで、主要な配達先であれば迷うことはありません。
伝票を手作業で並べ替え、頭の中でルートを組み直す。

「絶対に間に合わせるんだ」と自分に言い聞かせて再びハンドルを握りました。

経験が救った一夜、“慣れ”の中に潜む油断

結果的に、1件だけ20時指定に間に合わなかったものの、残りの荷物はすべて時間内に配達完了。
営業所に戻ったのは21時を過ぎていました。

もちろん端末の破損について、破損した時点で上司に報告をしてあり、反省会もありました。

けれど、同時に強く思ったのです。

「経験と土地勘があって本当によかった」

あの夜、慣れないエリアを担当していたら、絶対に回り切れなかった。

新人だったら、もっとパニックになっていた。

命綱である地図もデータも見えない中で配達を終えられたのは、

現場で積み上げた“勘”と“記憶力”の力でした。


ただ同時に、どんなに慣れても油断は禁物。
端末ひとつに頼りすぎないことの大切さを痛感した一日でもありました。

現場で学んだ、“ミスを防ぐ一呼吸”

配達業務は、時間との戦いであり、集中力との戦いでもあります。

疲れていたり、焦ったりするといつもなら絶対しないミスが起こる。

だからこそ、

  • 大事な端末は、動く前に必ず手元にあるか確認する
  • 配達中も、物音や異変に敏感でいる
  • 焦っても、一呼吸おいてから動く

ミスを恐れるより、どう立て直すか。

あの夜の焦りが、今でも私の原点になっています。

どんなに経験を積んでも、現場には“想定外”がつきもの。

多くの配達員の方々も、こうした見えないプレッシャーの中で、一つひとつの配達に誠意を込めて向き合っているのだと、私は信じています。



ライター:miako

宅配ドライバーとして10年以上勤務しました。現場で感じたことや、お客様とのやり取りの中で見えてきた、働く人・届ける人・受け取る人などの「宅配にまつわるリアル」を、やさしい言葉でお届けします。


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