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元ホテルマン「別に怒らないから…」 宿泊客の悪気ない「無言の退出」に頭を抱える“本当のワケ”

  • 2025.11.14
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※ChatGPTにて作成(イメージ)

「急に予定が早まったから、フロントに寄らずに帰ろう」

連泊中、あるいはチェックアウト時刻より少し早く。そう考えて、フロントに声をかけずにホテルを後にした経験はないでしょうか。

悪気はない、ほんの少しの手間を省いただけかもしれません。

しかし、この「無言の退出」が、実はホテル側を深刻な事態に陥れているとしたら?

「お客様がまだお戻りにならない…」「清掃に入っていいのか、それともまだ滞在されるのか…?」

たった一言の連絡がないだけで、現場は混乱し、多大な「機会損失」が生まれているのです。

今回は、元大手ホテルチェーンに4年間勤めた(2025年10月時点)Aさんにその切実な実態を明かしてもらいました。

意外と多い「無断チェックアウト」の実態

現場で問題となる「無断チェックアウト」とは具体的にどのようなケースなのでしょうか。Aさんはこう例を挙げます。

「例えば、連泊で予約されているお客様が、予定を早めて帰られる際に、フロントに何も言わずにチェックアウト、事実上キャンセルしてしまうケースです」

驚くべきことに、こうした事態は少なくないとのこと。Aさんによれば日本人・外国人問わず結構あるのだそうです。

しかし、Aさんは「さらに厄介なパターンがある」と指摘します。

「鍵を持って帰られてしまうと、ホテル側はチェックアウトしたかどうかも分からず、確認が必要になります。お客様が無言で退出された場合、客室に戻られるのか、もう帰られたのか、私たちには判断がつかないんです」

この「判断がつかない」という状態こそが、現場を混乱させる元凶です。

ホテルが頭を抱える「2つの困りごと」

では、宿泊客がフロントに一声かけず帰ってしまうと、ホテル側には具体的に何が起こるのでしょうか。Aさんは「大きく2つ困ること」があると教えてくれました。

「1つ目は、『販売機会の損失』です。もし早めにチェックアウトの情報がわかっていれば、その部屋を清掃して、その日のうちに他のお客様に『再販』できたかもしれません」

特に満室に近い状況では、この遅れが致命的です。「宿泊客が戻られるかもしれない」状態では、清掃に入れず、販売もできない。販売できたはずの部屋が、ただ空いたまま。これはホテルにとって直接的な収益の損失を意味します。

Aさんは続けます。
「そして2つ目は『確認の手間』です。お客様のステータスが『チェックイン中』のままだと、清掃スタッフが勝手に部屋に入ることができません」

もしお客様が在室中であれば、大クレームに繋がりかねません。その結果、清掃に取り掛かる前に、ホテル側のスタッフが「お客様は本当にいらっしゃらないか」部屋まで確認しに行く必要が生まれます。

「その分、手間が増えてしまいます」

Aさんの説明から、通常業務に加え、この「無駄な確認作業」が現場の負担を大きく増やしていることがわかります。

ホテルマンの切実な本音「別に怒らないから、ちゃんと言って」

 ではなぜ、宿泊客はわずかな手間であるフロントへの声かけを怠ってしまうのでしょうか。

Aさんは、宿泊客側の事情をこう推測します。
「例えば、会社の経費で泊まっていて、自分のお金ではないから1泊分無駄になっても気にしない、という方もいるかもしれません」

あるいは、急な予定変更でフロントに寄る時間がなかった、というケースも考えられます。もしかしたら「予定より早く帰る、と言うと何か手続きが面倒なのかもしれない」という心理もあるのかもしれません。

では、ホテル側にとってこれは金銭的な損害になるのでしょうか。

「基本的に宿泊費は前払いでいただいているので、ホテルとして大きな金銭的損害はありません」

ただし、Aさんは強調します。
「しかし、運営上は非常に困ります。」

Aさんは穏やかな声のトーンで、しかしはっきりと断言しました。その言葉には現場の切実な思いが込められていました。

「『ちゃんと言ってください。別に怒らないから』これが本音ですね」

「怒らないから」から「一声」を

Aさんの「別に怒らないから」という言葉に、この問題のすべてが凝縮されているようです。

宿泊客側は「早く出ると言ったら、返金交渉など面倒なことになるのでは」と勝手に想像し、忖度して黙って出ていってしまうのかもしれません。

けれども、ホテル側がほしいのは返金交渉の機会ではなく「今から帰ります」というたった一言の「情報」だけなのです。

ホテルを出る際のほんの一言が、現場の目に見えない混乱を防ぎ、スムーズな運営を助けます。みなさんも、宿泊の際はくれぐれもご注意くださいね。


取材協力:元ホテルマンAさん

20代後半の男性。大手ホテルチェーン従業員として4年間のキャリアを経て、現在は旅行業界で勤務している。


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