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外国人観光客が渋谷で「レンタルカート」の大渋滞…これって違法性はないの?弁護士に聞いてみた

  • 2025.9.26
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出典:Photo AC ※画像はイメージです

東京の街中で、まるで遊園地やゴーカート場にあるような小さなカートが走っているのを見かけたことはありませんか?

外国人観光客を中心に人気を博している「公道レンタルカート」は、一般的な車と同じ道路を走行できるユニークな観光体験として注目を集めています。

SNS上で2025年7月に「渋谷で、外国人観光客が運転する複数台のレンタルカートが、縦一列に並んで止まったりのろのろ運転をしたりして、他の交通を妨げている」といった趣旨の投稿がされ、「危険すぎる」「迷惑行為では?」と話題になりました。

はたして、公道レンタルカートでののろのろ運転は違法なのでしょうか?気になる疑問について、弁護士に詳しくお話を伺いました。

公道レンタルカートの法的位置付けと問題行為を弁護士が詳しく解説

公道レンタルカートについては、過去に訴訟に発展したことも。

任天堂は2017年に公道カートレンタル会社「マリカー」(現MARIモビリティ開発)を提訴しました。同社が「マリカー」という商号を使用し、マリオなどのキャラクターコスチュームを貸し出した上で、それらの衣装が映った画像を宣伝・営業に無断使用していたことが、任天堂の知的財産権を侵害する不正競争行為に該当するとされたためです。

2020年に知的財産高等裁判所で任天堂勝訴の判決が確定し、被告会社は5,000万円の損害賠償の支払いと不正競争行為の差し止めが命じられました。現在、同様のレンタルカート事業者は任天堂とは無関係であることを明示してサービスを提供しています。

そこで今回は、公道レンタルカートの法的位置付けについて、NTS総合弁護士法人札幌事務所の寺林智栄弁護士に詳しくお話を伺いました。

公道でカートを運転って…違法じゃないの?

---そもそも公道レンタルカートに違法性はないのでしょうか?

寺林弁護士:

公道を走行するレンタルカートは、法律上「ミニカー」に分類され、普通自動車免許があれば運転が可能です。これは、道路運送車両法では「原動機付自転車」、道路交通法では「普通自動車」として扱われるという、法律の「すき間」を利用したものです。このため、ヘルメットやシートベルトの着用義務がないという状態が長く続いていました。

しかし、事故や交通トラブルの多発を受け、2018年に国土交通省が安全基準を強化する法改正を行いました。これによって、以下の安全基準を満たすことが義務付けられています。

・被視認性向上部品の設置
地上から1メートル以上の高さで、前後左右から一定の面積が視認できる構造であることが必要です。

・シートベルトの装着義務
安全基準を満たすシートベルトの装着が義務付けられました。

・ヘッドレストの設置
頭部後傾を抑止するためのヘッドレストの装備が義務付けられました。

・かじ取り衝撃吸収構造
ハンドルや軸への衝撃を吸収できる構造にすることが必要です。

これらの安全基準を満たしていない車両を貸し出す事業者は、道路運送車両法に違反していることになります。

レンタルカート、どんな行為が違法になる?

---レンタルカートで違法になるのは、どのような行為なのでしょうか?

寺林弁護士:

レンタルカート自体が法律の基準を満たしていても、以下の行為は交通違反として罰則の対象となります。

・無免許運転
普通自動車免許(国際免許を含む)を持たない外国人観光客にカートを貸し出し、運転させる行為。

・交通ルールの無視
信号無視、一時不停止、車線変更の際のウインカー未点滅など、一般的な交通ルールを無視した運転。

・整備不良車両の運転
上記の安全基準を満たさない違法なレンタルカートを運転する行為は、運転者も事業者も罰則の対象となります。

・危険運転
交通を妨害するような運転、危険な追い越し、歩行者への迷惑行為など。

・著作権・商標権侵害
特定のキャラクターのコスチュームをレンタルして営業することは、著作権や商標権の侵害にあたる可能性があります。先の「マリカー」の訴訟では、著作権・商標権の侵害にあたるとして任天堂が勝訴しました。

公道レンタルカートは、法律上の位置付けが複雑であることから、適切な知識と安全意識がないまま利用されると、交通トラブルや事故につながる危険性が高い乗り物といえます。特に外国人観光客の場合、日本の交通ルールやマナーを十分に理解していないことが多いため、より慎重な対応が求められます。

公道で「のろのろ運転」をするのは違法?

---今回の動画のように複数台が縦に連なり、立ち止まったりのろのろ運転をしたりという行為に違法性はないのでしょうか?

寺林弁護士:

以下の問題が生じる可能性があります。

1. 交通の著しい妨害(道路交通法第75条の10など)

複数台が縦に連なって道路の中央を占拠し、後続車が追い越せないような状態を作り出す行為は、交通の著しい妨害とみなされる可能性があります。いわゆる「あおり運転」と同様に、他の車両の通行を妨害する目的で行われた場合に適用されることがあります。

特に、立ち止まったり、渋滞がない状況でのろのろ運転を続けることは、単なる交通の流れの妨害に留まらず、後続車に危険を生じさせるおそれがあるため、妨害運転罪に問われる可能性も出てきます。

2. 最低速度違反

高速道路などには「最低速度」が設定されていますが、一般道には最低速度の規定はありません。しかし、渋滞がないにもかかわらず、著しく遅い速度で走行し、後続車の通行を妨害する行為は、「著しく交通を妨害する」行為とみなされる可能性があります。

3. 安全運転義務違反(道路交通法第70条)

道路交通法第70条は、車両の運転者に「他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなければならない」という安全運転義務を課しています。

・のろのろ運転
渋滞や危険回避といった正当な理由なく、周囲の車の流れを著しく阻害するような速度で走行することは、安全運転義務違反とみなされることがあります。

・立ち止まる行為
信号待ちや交通状況に応じての停止を除き、不必要に道路上で立ち止まる行為は、後続車との追突事故を引き起こす可能性があり、これも安全運転義務違反に問われる可能性があります。

4. 危険運転致死傷罪(自動車運転死傷行為処罰法)

立ち止まったり、のろのろ運転を繰り返すことによって後続車に追突事故を起こさせ、死傷者を出した場合、危険運転致死傷罪に問われる可能性もゼロとはいえません。

今年7月からストリートカートに関する新条例が

このような状況の中、2025年7月からストリートカートに関する新しい条例・届け出制度が東京都や渋谷区で施行されました。

こちらの内容についても、寺林弁護士に詳しく解説していただきます。

条例の内容とは?

寺林弁護士:

2025年7月1日から、渋谷区では公道カート事業者に対する届け出を義務付ける条例が全国で初めて施行されました。

この条例は、観光客に人気の公道カートが引き起こす騒音や排気ガス、そして危険運転といった「観光公害」に対応するために制定されたものです。

この条例によって、事業者は以下の事項を区に届け出ることが義務付けられました。

・事業所開設届の提出
新規で事業所を開設する場合、開設の30日前までに事業所の名称、所在地、営業時間などを区に届け出る必要があります。

・情報提供の義務
走行ルート図や車両ナンバーなど、事業所の運営に関する具体的な情報を提供することが求められます。

・利用者の免許確認
利用者の日本国内で有効な運転免許証、または国際運転免許証の提示を義務付けることが必要です。

・車両の安全対策
車両保険への加入や、車両の適切な整備を徹底することが求められます。

・苦情対応窓口の設置
地域住民からの苦情や意見に対応するための窓口を設置することが必要です。

・近隣住民への説明会
事業所が所在する敷地から半径50メートル以内の住民に対し、事前に説明会を開催し、その報告書を区に提出することが必要です。

この条例には罰則規定はありませんが、条例を遵守しない事業者は、区のホームページで公表されることがあります。渋谷区は、この条例によって事業者のコンプライアンス意識を高め、地域住民との共存を図ることを目指しています。

観光と安全のバランス、適切なルール作りが重要

外国人観光客にとって魅力的な体験サービスとして人気を集める一方で、地域住民からは騒音や交通への影響を懸念する声も上がっています。

こうした状況を受け、渋谷区では全国初となる公道カート事業者への届け出を義務付ける条例が制定されました。この条例には罰則規定はありませんが、事業者のコンプライアンス意識向上と地域住民との共存を目指す取り組みとして注目されています。

観光サービスとして定着しつつある公道レンタルカートが、安全で持続可能な形で運営されていくためには、事業者・利用者・地域住民それぞれの理解と協力が不可欠といえるでしょう。


参考:公道カートのレンタルサービスに伴う当社知的財産の利用行為に関する最高裁決定(勝訴確定)について(任天堂)

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