1. トップ
  2. 「実は…飲んだふりをしていました」隠れて薬を捨てる統合失調症患者→薬を飲まない“ワケ”に「本当に大切なのは…」

「実は…飲んだふりをしていました」隠れて薬を捨てる統合失調症患者→薬を飲まない“ワケ”に「本当に大切なのは…」

  • 2025.9.17
undefined
出典:Photo AC ※画像はイメージです

こんにちは、現役看護師ライターのこてゆきです。

精神科病棟で働いていると、表面上は落ち着いて見えても、その奥に複雑な葛藤や不安を抱えている患者さんに出会うことがあります。薬を飲む時スムーズに見えても、胸の内では「薬を飲みたくない」「でも飲まなければ退院できない」という思いがせめぎ合っていることも少なくありません。

今回ご紹介するのは、配薬の場面で「飲んだふり」をしていた30代の男性患者さんです。一見、きちんと服薬しているように見せながら、実際には薬を吐き出していました。

スタッフの目を盗んで薬を捨てる姿を見つけたとき、私たちの胸には「なぜそんなことを?」という疑問と同時に、彼の心の叫びに耳を傾けなければという思いが湧き上がりました。私たち看護師は単に「飲ませる」ことではなく、「なぜ飲みたくないのか」「どうすれば安心して服薬に向き合えるのか」を一緒に探る関わりを学んだ出来事です。

服薬はしているけど、心は落ち着かない

30代男性Aさんは統合失調症の診断を受け、入退院を繰り返してきた患者さんです。今回も症状の安定のため、抗精神病薬を内服していました。

配薬の際には拒否せず、毎回きちんと薬を口に入れます。しかし、日々の表情の中には焦りや苛立ちが見え隠れし、スタッフの声かけにもぎこちない反応や時には急に怒り出すこともありました。

ある日、私はふと目をやると、配薬後に彼がトイレに向かうのを目撃。

「…あれ、またトイレ?」

最初は気のせいかと思いましたが、次の配薬でも同じ行動が繰り返されました。スタッフ間で話題になり、「もしかして吐き出しているのでは?」と確認することに。

その結果、手洗い場で薬を吐き出している彼を見つけました。怒りや悪意はなく、ただ不安と戸惑いが混ざった表情でした。

否定の奥にある本音

最初、彼は薬を吐き出していることを否定しました。

「…飲んでます」

目をそらし、声を小さくするAさん。私は焦らず、静かに伝えました。

「薬を飲みたくないっていう気持ちは悪いことじゃないよ。感じていることを教えてほしい」「私も薬を飲むのすごく苦手だから、続けるとなると余計に辛いですよね」

時間をかけて少しずつ話すうちに、彼は打ち明けてくれました。

「実は…飲んだふりをしていました」

その言葉に、私は少し安心したのを覚えています。

「理由を聞いてもいいですか?」

「薬を飲むと楽になるのはわかるんです。でも飲むこと自体が昔から嫌で…でも、言ったら怒られると思って…1日3回も飲むのもちょっとしんどい…」

「吐き出すと効果が出なくて、余計にしんどかったですね…」

「はい…だから怖くて…」

その瞬間、私は正しい看護の意味を改めて感じました。薬を飲ませることだけが看護ではない。彼の気持ちを受け止め、どう支えられるかを一緒に考えることが大切です。

気持ちを受け止め、支えをつなぐ

私はAさんと何度も振り返りを行いました。薬の必要性を丁寧に説明しつつ、彼の思いに共感し続けました。

「無理に飲むんじゃなくて、一緒にどうしたら負担が減るか考えましょう」「嫌な気持ちを我慢しなくても大丈夫です。話してくれてありがとう」

主治医にも相談し、服薬回数をできるだけ減らす調整や、配薬時の口腔内チェックを取り入れることになりました。しかし、それですぐに解決するわけではありません。ある日はしっかり飲めても、翌日には薬を手にしたまま固まってしまったり、舌の下に隠そうとしたり。私たちは「昨日できたのに、今日は難しい」と感じるたびに、また振り出しに戻ったような気持ちになりました。

そんなある日、病棟のレクリエーションで一緒に絵を描いていたとき、Aさんがぽつりと漏らしました。

「手が少し震える気がして…絵を描くのが好きだから、震えると困るんです」

その言葉をきっかけに、主治医に情報を共有し、副作用の可能性や薬の切り替えが検討されました。あらためてAさんにも薬の内容や副作用について丁寧に説明し、理解を深めてもらいました。

すると次第にAさんは安心感を持ちながら、薬を飲めるようになっていきました。ある日、彼は笑みを浮かべてこう話してくれました。

「薬を変えてから、手の震えが落ち着いた気がします。絵も描きやすくなって嬉しいです」

もちろん波はありましたが、それでも少しずつ前に進んでいるのを感じました。後日、Aさんは小さく笑いながら、こんな言葉を口にしました。

「もう飲んだふりをしなくていいのは、ちょっと楽です。薬を飲むと気持ちは楽になるけど、手が震えたり動きにくくなるのが不安だったのかも…。もしまた飲みたくないと思ったら、その時は一緒に考えてください」

「嘘」じゃなく「気持ちの表現」

精神科看護では、どうしても「薬を飲んだかどうか」という行動の有無に目が向きがちです。しかし本当に大切なのは、その行動の奥に隠れている気持ちや、拒否という表現に込められた意味を理解することです。信頼関係は、ただ「守らせる」ことで築かれるものではありません。むしろ「なぜ飲みたくないのか」を丁寧に聴くことから始まります。

トイレで薬を吐き出していたAさんの行動も、決して嘘や裏切りではありません。彼なりに「飲むのは不安だ」という気持ちを伝える方法が、それしかなかったのです。拒否という行動は大切なメッセージだと思います。

「薬を飲むのが嫌」という思いを、安心して口にできる環境さえあれば、隠さなくてもいい。看護師がその声を聴き、受け止めることで初めて、薬を続ける工夫や症状の安定につなげることができます。服薬支援は、薬を飲ませるためのテクニックではなく、患者さんの人生や大切にしていることを共に考える過程そのものなのだと、あらためて感じました。



ライター:こてゆき
精神科病院で6年勤務。現在は訪問看護師として高齢の方から小児の医療に従事。精神科で身につけたコミュニケーション力で、患者さんとその家族への説明や指導が得意。看護師としてのモットーは「その人に寄り添ったケアを」。


【エピソード募集】日常のちょっとした体験、TRILLでシェアしませんか?【3分で完了・匿名OK】
【エピソード募集】日常のちょっとした体験、TRILLでシェアしませんか?【3分で完了・匿名OK】