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【奈良のおすすめホテル】一日一客の宿「翠門亭」で人気盆栽店「塩津植物研究所」のモダン盆栽を堪能!

  • 2025.7.26

こんにちは、奈良在住の編集者・ふなつあさこです。「山滴る(やましたたる)」という夏の季語がありますが、奈良では芝生に覆われた若草山と春日山の濃いグリーンが目にも鮮やかです。その後ろには、もこもこと入道雲が浮かぶ真っ青な空。盆地なので、京都同様とても暑いですが、夏の奈良もいいものです。

さて、今回は一日一客の宿・翠門亭(すいもんてい)をレポートします。何かで見かけてからずっと気になってはいて、訪れる機会を狙っていたところ、奈良・橿原の人気盆栽店・塩津植物研究所の個展が行われるというニュースをキャッチ! 一挙両得! どちらもぜひぜひご紹介したかったので、大喜びで伺ってきました。

翠門亭は宿泊しなくても食事をすることができるので、別日に再訪し、取材してきました。さらに! 塩津植物研究所さんは東京・銀座の森岡書店さんでも個展が開催され、タイムリーに帰京していたので併せてレポートします♪

築約100年の数寄屋建築で愉しむモダン盆栽

翠門亭があるのは、東大寺や興福寺、春日大社からもほど近い、奈良の高級住宅街・高畑(たかばたけ)。かつて文豪・志賀直哉先生も居を構え、多くの文化人が集った志賀邸は「高畑サロン」と呼ばれ、現在の高畑にもどこか文化の香りが漂っています。ただのれんがかかっているだけの翠門亭のエントランスも、その家並みに馴染む、凜とした慎ましさ。

築100年を超える数寄屋建築をモダンに再生させたのは、奈良の一級建築士事務所・北条工務店の4代目、北条愼示さん(写真左)。写真右は、個展を開いた塩津植物研究所の塩津丈洋さん(右)。

仕事を通じて出会い、塩津さんがご自宅を建てる際に北条さんに相談しはったという縁もあり、今や家族ぐるみのお付き合い。おふたりが話していると“仲ええ男の子同士”なリラックスムード。今回の個展は、塩津さんが『盆栽ごよみ365日』(誠文堂新光社)を出版することを記念してイベントを開きたいと北条さんに相談したことがきっかけで実現したそう。

玄関を入ると、イギリス出身のアーティスト、リアム・ギリックの作品と盆栽が。ふだんからそこに盆栽があるように見えますよね? ……ないんですって!

塩津さんは大学ではデザイン学科で建築を学んでいたそうですが、日本建築から木を使った家具などのアートへ、さらに木そのものへと興味が移り、盆栽にたどり着いたというから驚きです。だからこそ、今の時代の住空間に合う盆栽を生み出せるのかもしれません。

まずは、ふだん宿泊客しか立ち入れない客室へ。実は元々の建物は空き家だった期間が長かったそうで、伝統的な数寄屋建築をベースにモダンにフルリノベーションされています。その橋渡し役を担っているのが、ジャパニーズモダン家具。

三人掛けのソファはインテリアデザイナー・剣持勇さんのヴィンテージ、一人掛けのソファはその剣持さんと関わりの深い天童木工の現行品。インテリアマニアは、その細部を見比べるのも楽しいのだとか。どんな世界も深みにハマると、無限の楽しみがあるものですね。

いつもなら、東京・日比谷の日生劇場などの設計を手がけた建築家・村野藤吾氏の蔵書をメモって北条さんが買い集めた(!)という書籍が並ぶ棚も、個展中は塩津さんの盆栽が並べられていました。あまりに空間にマッチしすぎていて忘れそうになりましたが、すべての盆栽は購入可能でした。

2階は吹き抜けを中心に寝室と浴室、広縁(ひろえん。幅の広い縁側)が配置されています。同じときに見学していた方が「こんなおうちに住みたい……」と呟いてはりましたが、ほんと、それです。

広縁では、それほど詳しくない私でもお名前を存じ上げているアーティスト、イサム・ノグチが手がけたあかりと盆栽が共演。布をギュッと絞るタイプの照明もイサム・ノグチのものだそうで、私は初めて見ました。

1階の食堂のテーブルセットは柳宗理作品。写真はホンマタカシ作品。「こんなおうちに住みたい……」(2回目)。実際に人が過ごす場に展示されていると、盆栽と暮らすイメージがどんどん膨らんできて、気づけば盆栽をお迎えする気満々に。

食堂周辺に展示されていた盆栽のなかで、私が好きだったもの。塩津さんに「盆栽って、盆=器、栽=植物がワンセットになって盆栽っていうんです」と説明していただいてハッとしました。改めて考えたことなかったけど、言われてみればそうですよね。目からウロコ落ちた……。

暮らしに“山の景色”を 自分好みの盆栽をハント

盆栽欲しい気持ちが高まるなか、庭のギャラリーへ。母屋とは打って変わって、モードな雰囲気ですが、そういう空間でも、塩津さんの盆栽、かっこいい(すっかりファン)。

ギャラリーに並んでいたなかの私好み。たぶん、ちょっとひねくれてる盆栽が好きみたいですね、私。

北条さんと塩津さんのお話を伺いながら庭から母屋を眺めていて、「あ、『Casa BRUTUS』(マガジンハウス)の表紙だ」と、何で見かけたんだったか思い出しました。

母屋に戻り、サロンへ。ガラスケースに盆栽、こういう余白が空間を贅沢に見せてくれるんだろうなぁ。

サロンでは、『盆栽ごよみ365日』も販売されていました。塩津さんが2年がかりで写真を撮りため、妻の久実子さんが言葉を添えた労作で、本当に365日分の盆栽が載っています。右はカフェラウンジで気になった盆栽です(やっぱりちょっとクセがある子が好き)。

最終的に購入したのは、こちら。うなだれたヤイトバナです。今、ピロローンとツルが伸びてきてます。

塩津さんによれば、あまり盆栽にすることの少ない植物だそう(「ヘクソカズラ」って名前の方がよく知られているぐらいですから)。海外向けのマッチョな盆栽というわけではないけれど、何年もかけて植物の個性を伸ばし、“用の美”として育て上げられた塩津さんの盆栽たちは、実に表情豊かです。

ところでこちらは、奈良が誇る名庭「依水園(いすいえん)」。若草山と東大寺大仏殿を借景に、なんとものびやかな庭です。

江戸時代に奈良晒(麻布ですね)で財を成した清須美道清(きよすみどうせい)が別邸と庭を整えたことに始まり、これを受け継いで庭を完成させたのが関藤次郎さん。明治期の奈良で活躍した実業家であり、茶人でもあった関藤次郎の雅号「翠門翁」が、翠門亭の名の由来なんです。

今に残る素晴らしい建築や庭は、その時々にそこを守り、大切にしようとする人の志があってこそ受け継がれていくもの。翠門亭として生まれ変わるまでのこの建物も、主人を変えながら住み継がれてきたそう。先人たちのスピリッツに対するリスペクトを込めつつ、単に古民家再生にとどまることなくアップデートする北条さんのリノベーション建築を体験できる場としても貴重。

穏やかに、ゆっくり、じっくり。翠門亭で昼食を

後日、食事をしに翠門亭を再訪しました。私はランチをいただきましたが、ビジターでもディナーも予約が可能です。料理はコースのみで、日によりますが2〜3組ずつ受け付けているそう。端から端までこだわり抜いた空間を独り占めしたい! と、ひと組で貸し切りにしたゲストもいたそう。

お献立は月替わり。先附の水無月豆腐は、朝練って練りたてで供される、その日にしか味わえない食感。氷に見立てて角を取った、涼やかなルックス。

椀物は鱧・ズッキーニ・香味油・ぶぶあられ。鱧の骨を香ばしく焼いて取った出汁と、日本料理の椀物では珍しい香味油のネギの香りがたまりません……書いていて、過去の自分を羨んでいます。

「びっくりするほどおいしいイサキを見つけたんです!」と料理長が自信たっぷりにサーブしてくれた焼物。添えられているのは、甘長唐辛子と、紅くるり大根。確かに、イサキ、ふっわふわでした。味付けはシンプルに塩のみ、それでも十分な旨み!

食事は新生姜御飯、牛時雨煮、あおさと絹厚揚げの味噌汁と香の物。パッと華やかに生姜が香る生姜御飯のお米は“近所のもの”だそう。牛時雨煮とも、当然のことながら好相性ですとも。

菓子は「とまと」。奈良の贅沢なフルーツトマトを湯むきし、甘くなりすぎないようにコンポートにしたものを、何度も検証を重ねてベストな時間で凍らせたものなのですが、これがもう、ちゃんと「菓子」でした。写真だとただのトマトに見えますが、口に運ぶとシャリっとしたあとに、なめらかにやさしい甘さのトマトの味わいが広がりつつもトマト特有の青くささは一切なく、ただモノではない「とまと」でした。

料理長を務めるのは滋賀や京都の高級ホテルで経験を積み、地元・奈良に戻った吉住俊次さん。料理長に就任したのは初めてということで、試行錯誤を重ねながら日々料理に実直に向き合っているであろうことは、ひと皿ひと皿から感じることができるような気がしました。

わかりやすい派手さはないけれど、主に奈良の食材を使って、手間を惜しまず作られた料理を、窯元まで足を運んで選んだ器に盛る……クラス感もありながら、気立てのいいお料理でした。奈良らしさって、そういうところにあると私は思っています。

ちなみに当たり前ですが、この日、盆栽はひとつもありませんでした!

見比べてみると、いかに塩津さんの盆栽が個性を発揮しながらも住空間に馴染んでいるかが伝わるのではないでしょうか?

塩津植物研究所の盆栽たちが銀座にお目見え

塩津植物研究所さんの『盆栽ごよみ365日』の東京会場は、銀座にある森岡書店。ちょうど出張で帰京していたので、奈良への帰りがけに立ち寄ったところ、初日ということもあり森岡書店の森岡督行(よしゆき、写真左)さんも在廊しておられました。急に現れた私を見て塩津さんもびっくり!

オープン時間から間もないというのに店内にはすでに数人のお客さんが。それも、若い方が多かったです。留学先から一時帰国しているという学生さんは「盆栽って海外に持ち出せますかね?」と相談してはりました。ちなみに植物の持ち出しはかなりハードル高いらしく、残念そうに諦めていました。

翠門亭にも展示されていた盆栽ですが、空間が違うと印象が違いますよね。

東京の展示のために選んだ作品も多数。より小ぶりな盆栽が多く、これならマンションの玄関先などに置きやすそう。奈良・橿原市のお店から盆栽を車に載せてはるばる東京出張してきた塩津さんも、塩津さんが育てた盆栽たちも、かなりタフ!

なお、塩津さんの盆栽は橿原市にある店舗で購入することができますが、改装のため8月いっぱいはお休みし、営業再開は9月5日(金)からを予定しているとのこと。Webサイトから購入することもできるので、遠方の方にはおすすめです! ただし、その場合は季節に合わせたその時々のおすすめの盆栽が届くお任せスタイルです。

エントランスの一角に鎮座していた盆栽は、森岡さんが購入したもの。盆栽の佇まいが、空間の印象をガラッと変えてくれます。

森岡書店といえば、以前は茅場町にもギャラリーを併設したセレクト古書店をしてはりましたが、そちらではモデル撮影でお世話になりました。

銀座店は、一冊だけの本を扱うよりいっそうソリッドな本屋さんです。去年は友だちのヘアメイクさんも出版記念イベントを開催するなど、身近な人や気になる人の個展に行こうとすると「あれ、また森岡書店だ」ってなる高感度なスポットです。最新イベントなどは、SNSでチェックを!

この記事を書いた人

編集者 ふなつあさこ

ふなつあさこ

生まれも育ちも東京ながら、幼少の頃より関西(とくに奈良)に憧れ、奈良女子大学に進学。卒業後、宝島社にて編集職に就き『LOVE! 京都』はじめ関西ブランドのムックなどを手がける。2022年、結婚を機に奈良へ“Nターン”。現在はフリーランスの編集者として奈良と東京を行き来しながら働きつつ、ほんのり梵妻業もこなす日々。

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