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圧倒的な古墳の描写も秀逸! 話題の“若き無頼派”が描く、奈良が舞台のコミック

  • 2025.9.11

大山海さんの最新作『はにま通信』をご紹介します。

あらゆる惑いに古墳は沈黙…。奈良が舞台のままならない青春譚

「マンガで何を描きたいのかは、始めてみないとわからないんです。なので、もともと興味のある奈良の風土を出すための取っかかりとして、古墳の話にしようと思いました」

古都で繰り広げられるカオスな群像劇『奈良へ』で、“若き無頼派”として話題を呼んだ大山海さん。最新作もやはり奈良が舞台なのだが、無性に惹かれる理由をこう語る。

「出身は奈良県なんですけど、親の転勤でいろんなところに住んで、そのあとまた戻ってきました。奈良は歴史が深いもんですから、1400年以上前の古墳が今でもたくさん残っていて、普通に手で触れることもできて。東京とか大阪だったらなかなかできないことだろうし、これは奈良の特権だと思うんです」

「はにま」こと埴田(はにた)麻央は、古墳巡りが好きな女子高生。会話中でも古代人の妄想にふけってしまうのだが、彼女にはなぜか、別の人の記憶が急に入り込んでくる感覚がある。

「人は時間や空間をどうやって認識しているのか、当時の僕自身が気になっていました。『はにま通信』を描きながら、それがテーマのひとつになっていったように感じます」

はにまたちは古墳部を始動。疎遠だった父親らしき男がSNSで絡んできたり、同じく古墳が趣味の男性と親しくなったり。そんな主人公とともに、大山さんのなかで無視できなくなってきたのが、同級生の安永という冴えない男子(2巻表紙)。はにまに気があるが、女子の視界には入っておらず、でも無根拠な自信に溢れた人物として描かれている。

「日常系のマンガっていわゆるモブの人らの生活は、あえて描かないじゃないですか。だけど僕はモブのことが異様に気になるんですよね。だからこれは世界観の話になると思っていて。はにまにははにまの、安永には安永の世界があって、道で出くわすおっさんとか、陰謀論を信じてるやつも同様で。それらが同じ空間でぶつかり合ったときにどうなるのか、描きたくなってきたのです」

主人公の役割を担うはにまも、ひとりの小さな世界に過ぎず、奈良や古墳などもっと大きな枠で物語を捉えたいと大山さんは考えている。そんな現代人の喜怒哀楽を呑み込むような、圧倒的な古墳の描写が秀逸。2巻の後半では、この先の展開を暗示しているかのような仕掛けも。

「挑戦というか、向こう見ずなんですけど、歴史という縦軸と空間という横軸の広がりをマンガで表現できたらいいなと思ってます」

大山 海

おおやま・かい 著書に『東京市松物語』『奈良へ』『令和元年のえずくろしい』。『はにま通信』をトーチwebで、「力石持つ」をコミックビームで連載中。

トキメキもダサさも沈黙で受け止める古墳。奈良の高校生が織りなす、古墳青春グラフィティ。
『はにま通信』2

恋の予感に浮き立つはにま、恋心を抑えられず暴走する安永。トキメキもダサさも沈黙で受け止める古墳。奈良の高校生が織りなす、古墳青春グラフィティ。リイド社 1100円 ©大山海/トーチweb

写真・中島慶子 インタビュー、文・兵藤育子

anan 2461号(2025年9月3日発売)より

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