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朝ドラで山寺宏一が明かした“プレッシャーを感じた一文” 視聴者の記憶に残る圧倒的な存在感と“異色の輝き”

  • 2025.8.14
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『あんぱん』第6週(C)NHK

朝ドラ『あんぱん』で、視聴者の注目を集めたキャラクターのひとりが、座間晴斗。北村匠海演じる嵩が通っていた東京高等芸術学校の図案科教師であり、絵だけでなく人生の哲学も語る恩師として、強い印象を残していた。この座間を演じているのは、日本を代表する声優のひとり・山寺宏一。アニメ『それいけ!アンパンマン』で、めいけんチーズ、カバおくん、かまめしどん、そして2代目ジャムおじさんなどを演じていることで知られ、「七色の声を持つ男」とも称される彼だが、実写ドラマでの演技もまた、圧倒的な存在感を放っている。

※【ご注意下さい】本記事はネタバレを含みます。

「惚れ惚れさせる演技」への挑戦

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『あんぱん』第6週(C)NHK

『あさイチ』に出演し、恒例の朝ドラ受けを披露した回、山寺は『あんぱん』の台本に記されていたある一文にプレッシャーを感じたと語っていた。

それは「嵩が惚れ惚れと見る」という指示。何気ない一文にも見えるが、「惚れ惚れされる演技」とは、具体的にどう演じればいいのか。山寺はそのプレッシャーを笑い話にしていたが、観る側としては、彼の演技が確かにその一文に応えていたと感じる。『あさイチ』に出演する山寺に対し、SNS上では「サービス精神旺盛というか気配りがすごい」といった感想も見られた。

本編で座間が、「ワッサワッサワッサリンノモンチキリンノホイ」といった意味不明なフレーズを歌い出すシーンがあったのも印象深い。図案科に伝わる自由な歌だというが、教え子の嵩はそれに歌詞をつけ、自分なりの意味を見出そうとする。そしてその瞬間、座間は嵩を褒めるのだ。

このやり取りこそ、座間が教える「創作の自由」や「芸術の根源的な楽しさ」を象徴しているように思えた。山寺の声と表情は、その奔放さと温かさを見事に表現していたといえる。

座間は軍人に「その歌は何だ」と詰め寄られても、「図案科に伝わる歌だ」と言い張る自由人でもある。戦時中の抑圧された空気のなかでも、芸術や自由な表現を捨てずに貫こうとする姿は、教師という枠を超えた「大人のかっこよさ」を感じさせる。

山寺宏一は、声優としての実績だけでなく、NHKドラマ『半分、青い。』や『なつぞら』、大河ドラマ『鎌倉殿の13人』などにも俳優として出演し、高い評価を得てきた。今回の『あんぱん』でも、その経験が存分に活かされていると思えてならない。

七色の声の妙技

山寺の代名詞とも言える「七色の声」は、今回の役でも効果的に使われていた。たとえば、生徒たちに語りかける穏やかなトーン、意味不明な歌を叫ぶ突き抜けたテンション、軍人と対峙する毅然とした響き。そのすべてが、座間という人物の多面性を引き立てていた。

また、実はこの座間というキャラクターは、実際にアンパンマンの生みの親・やなせたかしの恩師だった杉山豊桔がモデルである。嵩がアンパンマンを生み出す物語のなかで、彼に大きな影響を与える座間。その座間に、アンパンマン声優でもある山寺宏一が命を吹き込む。これほど粋なキャスティングがあるだろうか。

2025年5月5日配信された『ステラnet』の取材では以下のように語っている。

僕が演じる座間晴斗という役は、やなせ先生の実際の恩師で、その後の人生に大きな影響を与えた杉山豊桔さんという方がモデル。やなせ先生もご著書の中で、「自由であること、既成概念にとらわれないことを説いてくれた先生」だと書かれています。そんな人の役を演じられることは喜びと同時に、「僕で大丈夫か?」と恐縮もしましたね。 引用元:ステラnet 2025年5月5日配信

アニメや吹き替えの第一人者として知られる山寺だが、実写演技においても、その身体表現や目線の使い方は秀逸だ。座間が教室でふと見せる、どこか寂しさのにじむ目線。嵩に語りかけるときの、柔らかな頬の動き。彼の演技には、細部にまで神経が通っており、それがただのユニークな教師で終わらせない、視聴者に座間という人物の奥行きを感じさせていた。

『あんぱん』を通して表出する、新たな魅力

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『あんぱん』第6週(C)NHK

声優として確固たる地位を築きながら、実写でも確かな演技力を見せつける山寺宏一。『あんぱん』での座間役は、彼のキャリアのなかでもとくに印象的な役となったと言えるだろう。

アニメと実写、声と身体、そのすべてを自在に操る山寺宏一。『あんぱん』を通して、彼の新たな魅力に気づいた視聴者も多いのではないだろうか。そしてこれからの彼の活躍に、ますます期待が高まる。

朝ドラのなかに生きる“座間晴斗”という一人の教師は、物語のなかだけでなく、視聴者の記憶にも深く刻まれた。その理由のひとつに、山寺宏一という俳優の底知れぬ表現力があるのだ。


連続テレビ小説『あんぱん』毎週月曜〜土曜あさ8時放送
NHKプラスで見逃し配信中

ライター:北村有(Kitamura Yuu)
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。Twitter:@yuu_uu_