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占拠シリーズだからこそ描けた“テレビの歪んだ歴史” 内側から“バラエティという名の暴力”を描いた話題作

  • 2025.8.18
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『放送局占拠』第4話より(C)日本テレビ

連続ドラマ『放送局占拠』は、500名の人質をとってテレビ局に立てこもった武装集団「妖」と警視庁刑事部BCCT(立てこもり犯罪対策班)の戦いを描いたタイムリミットサスペンスだ。
主人公の刑事・武蔵三郎(櫻井翔)は、人質を殺されたくなければ、その男が関わった事件の真相をタイムリミット内に突き止めろと言われ、BCCTの仲間と捜査に向かう。
劇中では一人、また一人と人質がバラエティ番組に見立てた処刑装置に拘束される。彼らが過去に関わった罪の真相を武蔵が解き明かすことで人質を救っていくのだが、その過程で次第に「妖」の真の目的が明らかとなっていく。

本作は日本テレビで放送されている『占拠』シリーズの最新作で、これまで病院を舞台にした『大病院占拠』、空港を舞台にした『新空港占拠』が作られている。
どの作品も人質を取って巨大施設に立て籠もった武装集団が、人質が関わっていた事件の真相を武蔵に暴かせ、その姿を実況中継することで、自分たちの真の目的を世間に知らしめるという劇場型犯罪を描いたクライムサスペンスとなっていた。

※【ご注意下さい】本記事はネタバレを含みます。

バラエティ番組的なアイデアで獲得した番組としての見やすさ

劇場型犯罪をリアルタイムで実況するテロ組織と警察の戦いを描いた『占拠』シリーズは、最新のテクノロジーを用いて現代社会の問題を描く情報量の多い複雑なストーリーが展開されるドラマだが、同時にとても見やすい作りとなっており、若い世代からも絶大な支持を受けている。
人気の秘密はシリーズを通しての「お約束」と言える展開が多数用意されていて、バラエティ番組的な楽しみ方ができること。

たとえば、武装集団は仮面を付けた謎の組織で、『大病院占拠』では鬼の名でお互いを呼び合う「百鬼夜行」、『新空港占拠』では十二支の名前で呼び合う「獣」、そして今回の『放送局占拠』では妖怪の名で呼び合う「妖」として登場する。
「妖」を演じる役者は仮面を被っているため、初めは正体が伏せられているのだが、途中で仮面を外し正体が明らかとなる。 第2話では「天狗」の正体がモグライダーの芝大輔、「がしゃどくろ」の正体が瞳水ひまりだとわかるのだが、仮面を外す時に役者の名前がテロップで表示される。
この武装組織の犯人を演じる役者の予想が視聴者の間ではゲーム的な盛り上がりを見せており、第3話で「アマビエ」の正体が、サスペンスモノの犯人役にはあまり出演していない、ともさかりえだと判明した時はSNSで観ていた多くの視聴者が意外なキャスティングに「そう来たか!」と驚いた。
演者を当てるクイズ的要素と言ってしまえば、それまでなのだが、そのキャスティングが毎回絶妙で観ていて飽きない。

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『放送局占拠』第4話より(C)日本テレビ

同じく毎回の定番となっているのが、櫻井翔が演じる武蔵刑事が予想外の出来事に遭遇した時に発する「ウソだろ」という台詞。
これも毎話の決め台詞と言ってしまえばそれまでなのだが、同じ台詞でも「ウソ……だろ!」や「ウソだ・ろ・ぉ……」といった感じで状況に応じて言い回しが大きく変化するので「次はどんなふうに言うのか?」と毎回注目してしまう。

普通のテレビドラマはシリーズ化が進むと、前作でやっていなかったことをやろうとしたり、無理やりスケールを大きくしようとするあまり、当初の面白さが消えていくことが多い。だが、『占拠』シリーズは『大病院占拠』で当てた要素を大事にしており、舞台が変化してもドラマとしての勘所は押さえることで、このシリーズでしか味わえない様式美的な面白さを打ち出すことに成功している。
こういったドラマの作り方は日本テレビが得意としているものだ。たとえばミステリードラマの嚆矢となり10代の視聴者から熱烈に支持された初代『金田一少年の事件簿』は、閉鎖された空間で起きる殺人事件のトリックの謎を解いて犯人探しをおこなうゲーム性がドラマとして新しい流れを生み出し、主人公の金田一 一(堂本剛)の決め台詞「じっちゃんの名にかけて!」も様々な撮り方で見せる工夫が施されていた。
ドラマの流れをうまくパターン化することで普段ドラマを見ない視聴者にもバラエティ番組のノリで気軽に楽しんでもらえるようにする。そんな日本テレビが得意とする必勝パターンが『占拠』シリーズには盛り込まれており、だからこそ安心してハラハラドキドキすることができる。

テレビ局を舞台にしたことで生まれた鋭いテレビ論

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『放送局占拠』第4話より(C)日本テレビ

また、今回は舞台がテレビ局ということもあり、テレビ関係者が人質となっている。
同時に劇中で描かれるテレビ関係者の罪も放送倫理に関連したものが多いため『エルピス-希望、あるいは災い-』や『不適切にもほどがある!』といった近年流行しているテレビ業界の内幕をテレビの作り手が描いた連続ドラマとして観ても面白い。
制限時間内に武蔵が謎を解かないとテレビ関係者が受ける罰ゲームを模した処刑方法は、過去にバラエティ番組『スーパージョッキー』の中で人気コーナーだった「熱湯風呂」や、コントのオチで定番化している上から(70キロの重しの入った)金ダライが落ちてくるものや、パイ投げ(ただし中に釘が入っている)といった、テレビ番組のバラエティの定番ネタを誇張したグロテスクなものとなっている。
舞台がテレビ局になると知った時から、これまでの『占拠』シリーズよりも自己言及的な作品になるのではないかと期待していたが『放送局占拠』は、これまでシリーズの核として存在したバラエティ番組的な構造が持つ暴力性が際立っている。

作品の全貌はまだ見えないが、おそらく「妖」が暴こうとしている罪は、バラエティ番組の罰ゲームに内包される暴力性を「笑い」として視聴者に届けてきた「テレビの罪」そのものへと向かっていくのではないだろうか?
バラエティ番組化を追求してきた『占拠』シリーズだからこそ描ける鋭いテレビ論を期待している。


日本テレビ系ドラマ『放送局占拠』毎週土曜よる9時

ライター:成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)、『テレビドラマクロニクル 1990→2020』(PLANETS)がある。