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ヴァカンスが待ち遠しい!?色褪せない女子映画、ジャック・ロジエ監督『オルエットの方へ』

  • 2025.7.4
『オルエットの方へ』4Kレストア版 © 1973 V.M. PRODUCTIONS / ANTINÉA

  夏は始まったばかりですが、一足先に夏休み気分を味わえるヴァカンス映画の傑作を紹介します。ジャク・ロジエ監督による1971年の作品『オルエットの方へ』が4Kレストア版として7月5日よりユーロスペース(東京都渋谷区)にて公開、同時に「ジャック・ロジエ監督特集」として過去の作品も上映されます。本作がなぜ“ヴァカンス映画の傑作”と称されるのか、その魅力をひもときます。

待ちに待ったヴァカンス、女子3人が海辺の別荘へ!

ヴァカンス映画の傑作、ジャック・ロジエ監督『オルエットの方へ』
『オルエットの方へ』4Kレストア版 © 1973 V.M. PRODUCTIONS / ANTINÉA

ヌーヴェル・ヴァーグの初期の代表作のひとつ『アデュー・フィリピーヌ』(1962年)で知られるジャック・ロジエ監督は、2023年に96歳でこの世を去りましたが、長い生涯のなかで残した作品は長編5作といくつかの短編のみ。今回上映される『オルエットの方へ』は、長編2作目にあたります。
 
8月下旬のパリ。オフィスで働く若い女性・ジョエルは、友人のカリーンとともに親戚のキャロリーヌが持つ海辺の別荘にヴァカンスに出掛けることを決めます。9月1日、彼女たちは大きなバッグを持ち、うきうきしながら別荘へと向かいます。

ヴァカンスを過ごす海辺の別荘へと向かう3人。『オルエットの方へ』4Kレストア版 © 1973 V.M. PRODUCTIONS / ANTINÉA
『オルエットの方へ』4Kレストア版 © 1973 V.M. PRODUCTIONS / ANTINÉA

古びた別荘の扉を開けると、目の前は海! 彼女たちは波打ち際ではしゃぎ、部屋では寝転がっておしゃべりを楽しみ、ワッフルを食べに行き、エビをとり、気ままに休暇を楽しんでいました。そんなある日、ジョエルの上司ジルベールと遭遇します。

海辺ではしゃぎ、笑い転げる3人組。『オルエットの方へ』4Kレストア版 © 1973 V.M. PRODUCTIONS / ANTINÉA
『オルエットの方へ』4Kレストア版 © 1973 V.M. PRODUCTIONS / ANTINÉA

実はジルベールはジョエルに思いを寄せていて、偶然を装って別荘の近くまでやってきたのでした。暇を持て余している彼女たちは、ジルベールと一緒に過ごすことにします。すると、今度はヨットに乗る青年と出会い……。

ヴァカンスでありがちな海辺での出会い。『オルエットの方へ』4Kレストア版 © 1973 V.M. PRODUCTIONS / ANTINÉA
『オルエットの方へ』4Kレストア版 © 1973 V.M. PRODUCTIONS / ANTINÉA

楽しさ、解放感、ほろ苦さ、あらゆる感情が波のように迫ってくる

海辺でのヴァカンスをまばゆい映像とともに描く。『オルエットの方へ』4Kレストア版 © 1973 V.M. PRODUCTIONS / ANTINÉA
『オルエットの方へ』4Kレストア版 © 1973 V.M. PRODUCTIONS / ANTINÉA

ひとことで言うと、3人の女の子たちが海辺の別荘で笑い転げながらダラダラと過ごしている、それだけの話です。けれども、退屈するどころか、見入ってしまう不思議な魅力があります。
 
なんといっても彼女たちの会話やふるまいが自然で、自分もそこにいるかのような気分になれるのです。前半は3人とも夏休みの子どものようにハイテンションで、他愛もないやりとりに大笑いしています。まさに「箸が転んでもおかしい」状態です。タイトルの「オルエット」もそんな会話のなかに出てきます。

部屋でダラダラして過ごすのもヴァカンスの楽しみ。『オルエットの方へ』4Kレストア版 © 1973 V.M. PRODUCTIONS / ANTINÉA
『オルエットの方へ』4Kレストア版 © 1973 V.M. PRODUCTIONS / ANTINÉA

とはいえ、何もすることがない日々にもやがて飽きてくるというもの。そんなところに現れたのが、上司の男・ジルベールです。彼女たちは退屈しのぎに彼を歓迎しますが、バカ騒ぎのなかにも少しずつピリピリした空気が漂いはじめ、観ているこちらがヒヤヒヤしてしまいます。

微妙な空気がいたたまれない。『オルエットの方へ』4Kレストア版 © 1973 V.M. PRODUCTIONS / ANTINÉA
『オルエットの方へ』4Kレストア版 © 1973 V.M. PRODUCTIONS / ANTINÉA

ヴァカンスのはじまりから終わりまでの心の機微を、まばゆい海辺の映像とともに綴った本作。楽しみ、喜び、解放感、恋しさ、気まずさ、自責の念、ほろ苦さ、懐かしさ、感傷的な気持ちが、打ち寄せる波のように心に迫ってくる、そんな珠玉の映画です。

『オルエットの方へ』4Kレストア版

1971年

監督・脚本・台詞:ジャック・ロジエ
出演:ベルナール・メネズ、ダニエル・クロワジ、フランソワーズ・ゲガン、キャロリーヌ・カルティエ
配給:エタンチェ、ユーロスペース

2025年7月5日よりユーロスペースにて公開

© 1973 V.M. PRODUCTIONS / ANTINÉA

ゴダールに絶賛された才能「ジャック・ロジエ監督特集」も同時開催

『アデュー・フィリピーヌ』2Kレストア版(1962年)© 1961 Jacques Rozie
『アデュー・フィリピーヌ』2Kレストア版 © 1961 Jacques Rozie

輝く季節を軽やかに大胆に切り取るジャック・ロジェの才能に対し、ヌーヴェル・ヴァーグの象徴であるジャン゠リュック・ゴダールは絶賛し、フランソワ・トリュフォーは嫉妬したといいます。そんなロジエ監督の作品群を楽しんでみてはいかがでしょうか。

◆『アデュー・フィリピーヌ』2Kレストア版(1962年)

1960年パリ。アルジェリア戦争のさなか兵役を数か月後に控えた青年ミシェルは、勤務先のテレビ局でリリアーヌとジュリエットと出会います。二人の娘は次第にミシェルに惹かれていきますが、彼はどちらとも上手くやろうとします。そんななか、仕事でミスをしたミシェルは、兵役前にヴァカンスを楽しもうと仕事を辞め、二人に告げぬままコルシカ島へ旅立ちます。
© 1961 Jacques Rozie

◆『トルテュ島の遭難者たち』4Kレストア版(1976年)

パリの旅行代理店に勤めるボナヴァンチュールと同僚の「太っちょノノ」は、ロビンソン・クルーソーの冒険を追体験させる無人島ヴァカンスツアーを企画。彼らはツアー候補地のカリブ海へ調査に向かいますが、空港で「太っちょノノ」が逃げ出し、代わりに弟の「プティ・ノノ」がボナヴァンチュールに同行することになります。現地に着いた二人が無人島を探していると、パリから最初のツアー客がやってきますが、誰もボナヴァンチュールの言うことを聞こうとしません。
© 1974 Jacques Rozier

◆『メーヌ・オセアン』4Kレストア版(1985年)

ブラジル人ダンサーのデジャニラは、パリ発の特別列車「メーヌ・オセアン号」に飛び乗りますが、検札係に罰金を命じられてしまいます。フランス語がわからない彼女は、たまたま通りがかった弁護士の女性に助けられます。翌日、弁護士に誘われ漁師の裁判に立ち会ったデジャニラは、その漁師が住む大西洋の島で週末を過ごすことにしますが、そこに検札係もやって来て……。

◆『フィフィ・マルタンガル』デジタル・レストア版(2001年)

ブールヴァール劇『イースターエッグ』はパリで大ヒット中。この低俗な自作が権威あるモリエール賞を受賞したと知った劇作家は、これを何かの陰謀だと思い込み、上演中の戯曲を改変して「敵」に報復しよう企みます。

<短篇集>
◆『ブルー・ジーンズ』2Kレストア版(1958年)

ジャン゠リュック・ゴダールに絶賛されたロジエ監督の短篇第2作。カンヌの海辺でヴェスパに乗り、ナンパに明け暮れる二人組。その刹那的な彼らの青春が、浜辺の緩やかな移動撮影で見事に捉えられています。

◆『パパラッツィ』2Kレストア版(1963年)
◆『バルドー/ゴダール』2Kレストア版(1963年)

『バルドー/ゴダール』と『パパラッツィ』は、ゴダールの『軽蔑』(1963年)の後半部分を占めるカプリ島での撮影現場を訪れたロジエ監督による短篇ドキュメンタリーで、いわば双子のような作品。『パパラッツィ』が『軽蔑』の撮影現場の外側で起きていたブリジット・バルドーと彼女を狙うパパラッツィとの攻防戦に焦点を当てた作品であるのに対し、『バルドー/ゴダール』はその内側でのバルドーとゴダールとの関わりをとらえています。

ジャック・ロジエ監督特集

『オルエットの方へ』の公開を記念して、ロジエ監督の短篇第3作『ブルー・ジーンズ』も2Kレストア版で公開されるほか、上記の作品を上映。

構成・文

ライター
中山恵子

中山恵子

ライター。2000年頃から映画雑誌やウェブサイトを中心にコラムやインタビュー記事を執筆。好きな作品は、ラブコメ、ラブストーリー系が多い。趣味は、お菓子作り、海水浴。

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