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台北フードシーンの今──人気シェフ4人の料理哲学に迫る【2025年台湾トラベルガイド】

  • 2025.6.26

【logy】香り高き料理で台湾食文化を伝える

常にレストランの本質を自問自答し続ける田原シェフ。Photo_ courtesy of logy
travel-taiwan-food-scene-logy-tahara-ryogo.jpg常にレストランの本質を自問自答し続ける田原シェフ。Photo: courtesy of logy

台北の人気店「logy」は、フレンチをベースに、アジアの食材や調理法を取り入れた「アジアンコンテンポラリー」をコンセプトに掲げる。東京ミシュラン二つ星フレンチレストラン「フロリレージュ」の姉妹店として、川手寛康が手がけたこの店で腕を振るうのが田原諒悟だ。イタリアで修業後、「フロリレージュ」でスーシェフを務め、2018年に台北へ渡った。開店後半年経たずしてミシュラン一つ星を獲得し、翌年には二つ星、今日まで5年連続で星を維持している。「レストランの本質とは何か」を自問自答しながら新たな味を追求し続ける田原のもと、2025年2月に新店舗に移転し、旧店舗の L字型カウンター式のオープンキッチンから一転、丸テーブルをメインにし、天井が高く開放的な高級感ある空間を作った。テーブルとテーブルの間には程よい距離感を持たせ、食事環境にも留意。インテリアデザインは日本の著名な建築デザイナーである芦沢啓治に委託。

「よもぎのアイス 、カボチャの種のオイル」は、台湾よもぎにカボチャの種のオイルやイタリアのハーブリキュールを合わせた一皿 Photo_ courtesy of logy
travel-taiwan-food-scene-logy-food.jpg「よもぎのアイス 、カボチャの種のオイル」は、台湾よもぎにカボチャの種のオイルやイタリアのハーブリキュールを合わせた一皿 Photo: courtesy of logy

料理面では、今まで同様に鋭い感性を生かしたオリジナルの「コンテンポラリー・アジアン・キュイジーヌ」を創る一方で、繊細さや厚みを感じさせるメニュー作りを始めた。香港やシンガポール、欧米からの外国人客が6割、台湾人客が4割だ。「どうやって国外からのゲストに台湾の食材と食文化を伝えるか。地元のゲストにサプライズを体験してもらえるのかが課題です。構成はシンプルでありながら、味や香りは微妙なバランスで成り立っている料理を作りたい」と話す田原が生み出すのは、例えばメインコースのA3和牛の付け合わせには台湾の30年熟成の塩漬け大根を合わせる。古漬けは水につけ込んでおいても匂いや味が強すぎる。そこで、日本の薄口醤油につけ込んだ有馬山椒を添えることで、臭みが弱まり牛肉の油脂や旨みと共鳴する。前菜の豆乳のババロワは、豆乳の豆臭さを抑えるために、少量の生クリームや松の実でバランスを取り、乳酸とトマトの旨味を乗せたクリアなソースと合わせた。シンプルな調理法で素材の利点を生かすのが狙いだ。

開放感のある店内。Photo_ courtesy of logy
travel-taiwan-food-scene-logy-restaurant.jpg開放感のある店内。Photo: courtesy of logy

「店に入った瞬間、心身ともに洗われる感覚を味わってほしい」と話す田原。移転からの2カ月間はほとんど寝ることなく、理想の店作りに没頭してきたという。「logy は現時点で、自分の理想の形です」と誇らしげに語った田原は、直後に「あ、非常口の明かりだけがまだ不完全ですが」と続け、その場の空気を和ませた。

logy

https://logy.tw/

【Restaurant A】充電期に世界で学んだ客としての視点を生かす

2年半飲食業界を離れていたアランは、その間、世界各国を旅して客側の視点から多くを学んだという。Photo_ courtesy of Restaurant A
travel-taiwan-food-scene-restaurant-a-Alain-Huang.jpg2年半飲食業界を離れていたアランは、その間、世界各国を旅して客側の視点から多くを学んだという。Photo: courtesy of Restaurant A

台湾一予約困難な店といわれるミシュランレストラン「RAW」で、江振誠シェフの有能な片腕として活躍していたアラン・ホワン。彼が突如店を辞めたことは、台湾フードシーンでちょっとしたニュースになった。その彼が2年半ぶりにシーンに再登場し、自身の店をオープンさせた。店名は「Restaurant A」。「A」はシェフの名前アランの頭文字であり、多様な可能性を意味しているという。『A』はアルファベットの最初の文字で、単独でも使えます。ほかの単語と組み合わせれば別の意味にもなり、広がりを感じさせる文字です」キャリアを中断していた時期は、自分磨きのために外国語を学んだり、コーヒーや茶、酒を研究したり、世界各地を飛び回って店の経営方法を学んだりしていたのだという。客側の視点から飲食店を観察することで、得た学びも多かったと語る。この充電期間が、オーナーシェフとなった今に大いに生かされている。

広々とした空間にはアート作品も多く飾られている。Photo_ courtesy of Restaurant A
travel-taiwan-food-scene-Restaurant-A.jpg広々とした空間にはアート作品も多く飾られている。Photo: courtesy of Restaurant A

「Restaurant A」は4階建てで、ワンフロア150坪の開放感あふれる空間だ。バーカウンターには座り心地のいいソファと低めのテーブルが置かれ、客は数種類のアペタイザーを堪能できる。白が基調の室内はスタイリッシュな印象を与える。インテリア、家具、食器、スタッフの制服、キッチンに至るまでどれもが白一色だ。「焦点をお客様に当て、心から満足いただける店を目指しています。そのためには、スタッフ全員が料理をスムーズに提供し、お客様の邪魔をしないサービスを徹底する必要があります。スタッフが身につける衣服が白であることは、空間に融け込んで、存在をなじませる効果があります」とアランは話す。さらに、スタッフにはゲストの反応や気持ちを敏感に感じ取り即座に対応するよう言い聞かせているという。

メニューは定期的に変えるのではなく、臨機応変に調整する。Photo_ courtesy of Restaurant A
travel-taiwan-food-scene-Restaurant-A-Arrabbiata.jpgメニューは定期的に変えるのではなく、臨機応変に調整する。Photo: courtesy of Restaurant A

店では定期的にメニューを変えることはせず、いい食材があれば使い、要望があれば調整もする。「私たちは季節によって、もしくは決まった枠でメニュー作りをしません。状況の変化に応じて、いつでも臨機応変に調整していくことが大事です」。昔は料理を作ることだけに集中していればよかったが、オーナーとなった今では、それ以外の部分にも目を光らせ、指導していかなければならない。例えば、メニューデザインや店の環境作り、スタッフのサービス方法、コミュニケーションの取り方の指導まで、やることは山積みだ。「変わる」ことは簡単ではないが、同時にその「変わる」ことを楽しんでもいる。アランの新たな挑戦が今、始まった。

Restaurant A

https://restaurant-a.com/

【NOBUO】素材本来の味を生かし、「自然の本質に還る」

ノブ・リーが佇む店の前には、目立った看板はない。洗練された店構えが印象的だ。Photo_ courtesy of NOBUO
travel-taiwan-food-scene-nobuo-nobu-lee.jpgノブ・リーが佇む店の前には、目立った看板はない。洗練された店構えが印象的だ。Photo: courtesy of NOBUO

閑静な住宅街の路地裏にひっそり佇むフレンチレストラン「NOBUO」。ミシュラン一つ星の獲得店だ。オーナーは人気料理人ノブ・リー。一時飲食業界を離れていたが、ゼロからのスタートとしてこの地を選んだ。派手な演出を好まない、シェフらしい温かみを帯びた落ち着いた雰囲気の店だ。場所はあえて立地の悪い泰安街を選んだ。「お客様が店に辿り着くまでの間、周りの景色を眺めながら心を穏やかにし、期待で胸を膨らませた状態で入店してほしいからです」。目立った看板はなく、木の温もりが感じられる洗練された店構えが印象的だ。そこにはリーが思い描く「家」の姿が投影されている。「店を訪れた誰もがほっとできる場所にしたかったのです」。ウッディで重厚なドアを開けて中に入ると、乳白色と千歳緑をアクセントにした落ち着いた空間が広がる。壁にはやわらかなタッチのイラストがさりげなく飾られ、シンプルかつ温かみのある北欧スタイルのスタイリッシュな空間だ。店内ロゴは、シェフの左腕に彫られたタトゥー「3つの牡蠣」柄に、剣を組み合わせたデザインだ。日本の家紋をコンセプトに、意義深いロゴにしたかったのだという。3つの牡蠣はそれぞれ、フランスのフィン・ド・クレール、オーストラリア東海岸のシドニー・ロック、ニュージーランドのブラフを指し、牡蠣で有名な3カ所の料理文化を表現した。「内装のアクセントカラーを千歳緑にしたのは、『自然の本質に還る』心境を表現するためです」

千歳緑をアクセントカラーにした落ち着いた内装。Photo_ courtesy of NOBUO
travel-taiwan-food-scene-nobuo2.jpg千歳緑をアクセントカラーにした落ち着いた内装。Photo: courtesy of NOBUO

決して広いとはいえない店内は16席のみ。オープンキッチンではリーが腕を振るう様子を見ることができる。彼は素材本来の味を生かすことを重んじていて、香水をつけての入店は厳禁だ。味覚に悪影響を与えないための基本マナーだという。店内で流れるバックミュージックはジャズオンリー。ジャズの即興性とバイタリティーが好きなのだという。「曲は時間やメニュー内容、食の風味なとを考慮して選びます。音は空間に生命力を加える効果があるのです」。料理の細部にまで神経を研ぎ澄ませる一方で、耳に入るすべての音符にもこだわりを見せる。これがリーの考える「美食は人の心を癒やし、音楽は人の魂を治す」ということなのだろう。

発酵キャベツで牡蠣を包んだ人気の一皿。Photo_ courtesy of NOBUO
travel-taiwan-food-scene-nobuo3.jpg発酵キャベツで牡蠣を包んだ人気の一皿。Photo: courtesy of NOBUO

東京、ニュージーランド、オーストラリア、台北で料理を学び、腕を磨いた。それぞれの地で吸収してきた異なる文化を、料理に融合させ、唯一無二の味を生み出している。彼が追求するのはSimplicity、Purity、Honesty の3拍子が揃った味だ。フレンチの技法を使い、素材本来の味を最大限に引き出す料理を提供し続ける。

NOBUO

https://nobuo.tw/en/

【盈科 EIKA】台湾でしか食せない日本料理を提供する

オープンキッチンでライトを浴びる稗田シェフ。見ている客も出演者の一部になる。Photo_ Hedy Chang
travel-taiwan-food-scene-eika1.jpgオープンキッチンでライトを浴びる稗田シェフ。見ている客も出演者の一部になる。Photo: Hedy Chang

昨年、台北の大稲埕にオープンした人気のファインダイニング「盈科 EIKA」でオーナーシェフを務め、「台湾でしか食べられない日本料理」を提供するのが稗田良平だ。2014年に「祥雲 龍吟」の料理長に抜擢され、5年連続でミシュラン二つ星を獲得した風雲児としても知られる。自らの足で台湾中を巡り、地元の生産者と強い信頼関係を築くことで、新鮮で質の高い食材を入手する。

「大稲埕は台湾一早く発展した場所で、歴史の跡が色濃く残っています。バロック様式や台湾建築、洋館など伝統建築が点在し、文化が入り混じる感じが興味深いですね」と稗田シェフ。店は4階建てのシックなレンガ造りで、看板はない。店内には緑がふんだんに取り入れられ、ホテルのような優雅さがあり、日常とかけはなれた空間が広がる。店のデザインは稗田自らが担った。インテリアデザインから家具、食器のチョイスに至るまですべてに彼のセンスが光る。

食事前に心を静めてもらう茶室。Photo_ Hedy Chang
travel-taiwan-food-scene-eika2.jpg食事前に心を静めてもらう茶室。Photo: Hedy Chang

もちろん、ダイニングの演出にも特別感が漂う。ゲストは入室後まず、1階の茶室でくつろぎ、2階のダイニングスペースに上がると存在感のあるオープンキッチンに出迎えられる。ライブ感があり、ワクワクした気分が高まる。稗田は、「キッチンと食卓の距離を近づけようと考えました。厨房作業の音や香り、色彩のすべてを融合させることで、ゲストにキッチンで食事している気分を感じてもらえるレストランを目指しました」と話す。3階には6、7人ほどが入れる落ち着いた個室も設けられている。料理には、台湾で十数年暮らしてきた稗田ならではの独特な感性が反映されている。「同じ日本料理とはいっても、国や風土が異なれば、表現方法も変わってきます。

EIKAは稗田の料理人生において集大成の場だ。Photo_ Hedy Chang
travel-taiwan-food-scene-eika3.jpgEIKAは稗田の料理人生において集大成の場だ。Photo: Hedy Chang

私は自分がこれまで積み上げてきた経験をもとに、台湾でしか食べられない日本料理を作ります。伝統的な日本料理に慣れたお客様に新たな気づきを提供したいのです」。台湾の食材をメインに、日本料理の既成概念を打ち破る料理を次々に生み出してきた。発酵マコモダケがその一例だ。日本の伝統的な漬物の調理法で作る稗田ならではの味。それをほかの食材と合わせることで、コクと旨味の凝縮した料理が生まれるのだという。「季節の魚とマコモダケの椀物」は新鮮で旨味の強い魚と発酵マコモダケが入った、さっぱりした人気のお吸い物だ。「マコモダケは焼いても、蒸しても、揚げても、一口食べただけでマコモダケだとわかりますよね。でも発酵させたときだけは、その食感や香りまでがガラリと変化して異色のおもしろい味になるんです」

盈科 EIKA

https://eika.tw/

Text: Chelsea Su(logy), Silvia Sun(Restaurant A), Chara Yu(NOBUO), Wendy Huang(盈科 EIKA) Translation: Tomoko Kondo

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