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今の時代には“逆に珍しい”? 最近の学園ドラマに“足りなかった部分”を見事に描いた【新・木曜深夜ドラマ】

  • 2025.7.10
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(C)「量産型ルカ」製作委員会

深夜ドラマ『量産型ルカ -プラモ部員の青き逆襲-』は、プラモデル作りを楽しむ二人の女子高生の物語だ。 同じ高校に通うタカルカこと高嶺瑠夏(賀喜遥香)とセトルカこと瀬戸流歌(筒井あやめ)は幼なじみで、周囲からはルカルカとセットで呼ばれていた。
3年間帰宅部の二人は、いつものように帰ろうとしていたが、お菓子があるという看板に釣られて、とある教室に入る。そこは廃部寸前のプラモデル部だった。 顧問の蓬田先生(岡田義徳)とプラモデル部副顧問のナツ(尾本侑樹奈)に誘われて、ルカルカは量産型ザクのプラモデル作りに挑戦。ニッパーで各パーツを切り離して組み立てたり、独自の塗装を施したりする中で、何をやっても自由なプラモ作りの楽しさに目覚めていく。

プラモデルとアイドルを通して描かれる量産型の魅力

本作は乃木坂46のアイドルがプラモデルを作る姿を魅力的に描く趣味ドラマの最新作。
『量産型』シリーズは2022年に元・乃木坂46の与田祐希が主演を務める『量産型リコ -プラモ女子の人生組み立て記-』から始まった。
『量産型リコ』は与田が演じるリコという社会人の女性がプラモ作りを通して成長していくドラマで、これまで3作作られたのだが、第1作ではイベント会社勤務のOL、第2作ではスタートアップ企業の社長。第3作では実家に帰省中の派遣社員というパラレルワールド的な異なる設定の物語が展開された。 どのシリーズのリコも、真面目で仕事をそつなくこなすが、安定・平和志向で情熱を傾ける趣味や特技がない、どこにでもいる「量産型」の女子として劇中では扱われており、それが彼女にとってのコンプレックスだった。
そんなリコがプラモデル作りを通して成長していくのが本作の肝なのだが、その際に脱・量産型となるのではなく、量産型としての自分を受け入れ、むしろ量産型という言葉にポジティブな意味を見出していく姿が描かれていた。そして、量産型の自分を肯定したいという気持ちが、ロボットアニメ『機動戦士ガンダム』に登場する量産型モビルスーツ(ロボット兵器)のザクのプラモデルに託されていた。

この量産型という言葉は、大勢の美少女が在籍する乃木坂46に所属するアイドルとしての与田の姿とも重ねられており、アイドルファン以外の人には誰が誰だかわからない量産型に見える現代のグループアイドルの有り方を肯定するアイドル論にもなっていた。

何より『量産型リコ』シリーズはお仕事ドラマとしても秀逸で、何事も無難にこなすが上の世代から見ると情熱が感じられないリコを、与田はクールかつチャーミングに演じていた。 それだけに昨年シリーズが終了した時は寂しく感じたのだが、今年になって乃木坂46の賀喜遥香と筒井あやめのW主演で新シリーズが始まると知った時はとても嬉しかった。

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(C)「量産型ルカ」製作委員会

舞台は会社から高校に変わり、プラモ部を舞台にした学園ドラマとなり、主人公は二人となったが、学園を舞台にし、主人公二人をルカという同じ名前にしたことで「量産型」というテーマは、より際立っている。 見た目は清楚でかわいいが、突出した個性も強い主張もない、目上の大人から見たらふわふわと生きているように見える女の子を主人公にしているのが、『量産型リコ』シリーズの特徴だが今回の『量産型ルカ』にも、個性のない女の子の物語は踏襲されている。

また、ルカルカも『量産型リコ』シーズン1の第1話と同じように、量産型ザクを作るところからプラモ作りに目覚めるのだが、プラモのパーツをニッパーで切り取る時の手さばきに二人の違いが現れているのが興味深く、今後、プラモ作りを通して二人の微妙な違いが見えてくると、より楽しくなるのではないかと期待している。

かけがえのない「量産型時代」を描く青春ドラマ

前シリーズはお仕事モノのドラマとして魅力的だったが、『量産型ルカ』は学園ドラマとして魅力的である。

今の時代にプライムタイムで学園ドラマを作ると、毎話で展開される社会的なテーマや続きの展開を考察させる謎に満ちた物語といった要素が強くなりすぎてしまい、ドラマとしては面白いのだが、学園ドラマ本来の魅力である生徒たちの日常を見せるという部分が弱まってしまう傾向がある。
少子化が進んだことで本来メインだった若者の数が減り、学園ドラマですら大人向けに作らざるを得なくなった結果、教師を主人公にしたストーリー性の高い作品が増え、生徒たちは脇役のようになっているのが、筆者が今の学園ドラマに感じている不満だ。

対して『量産型ルカ』が素晴らしいのは、プラモ作りというモチーフ以外は、過度なストーリーや設定を持ち込んでいないことで、その結果、年相応の女子高生の持つ多感な気持ちと大人から見ると緩い学園生活を魅力的に描くことに成功している。

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(C)「量産型ルカ」製作委員会

『量産型ルカ』が素晴らしいのは、他の学園ドラマではあまり描かれないタイプの緩い学園生活が描かれることだ。今後、ルカルカがどんなプラモを組み立てるのかも楽しみだが、誰にでも覚えのある「量産型時代」の青春を描いていることこそが、本作最大の魅力ではないかと思う。


テレビ東京系『量産型ルカ -プラモ部員の青き逆襲-』毎週木曜24時30分

ライター:成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)、『テレビドラマクロニクル 1990→2020』(PLANETS)がある。