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朝ドラで新たに現れた“地味なはずの人物”が話題沸騰中… 印象に残りにくい役でも説得力をもたらす“俳優の力量”

  • 2025.7.7
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『あんぱん』第13週(C)NHK

朝ドラ『あんぱん』の舞台が高知新報へと移り、新章が本格的に動き始めた。第14週「幸福よ、どこにいる」から堂々と登場するのが、倉悠貴演じる岩清水信司。ヒロイン・のぶ(今田美桜)の新しい職場の同僚として現れるこの青年記者は、作品のなかで一見地味ながらも、じわじわと存在感を発揮している。

静かな存在感をもたらす男

岩清水信司という人物は、高知新報の編集局に所属する記者。のぶが戦後初の女性記者として入社した直後から、取材現場や記事執筆に四苦八苦する様子をそばで見守る立場だ。

上司である東海林(津田健次郎)の奔放な言動を軽くいなしつつ、必要な場面ではピシャリと指摘する。何度聞いてものぶの名前を覚えられない東海林に対し「若松のぶさんです」と即座に教えてあげるシーンなどは、岩清水の誠実さと気配りを端的に表す一幕だ。

だが、彼の魅力はそれだけではない。のぶと同僚の琴子(鳴海唯)がヤケ雑炊を囲んで愚痴をこぼすシーンでは、「岩清水さんは?」と聞かれた琴子が「あの人はタイプじゃない。大物になりそうじゃないし」とバッサリ切り捨てる場面がある。

恋愛対象としては見られていない、けれどその場に名が挙がるということは、社内の人間関係において岩清水が自然と信頼され、話題に上る立ち位置にいるということだろう。彼の存在は、作品内に静かな安心感をもたらしている。

今後、嵩(北村匠海)にとっての恋のライバルとして岩清水にさらなる注目が集まる展開はあるのか。SNS上でも「贅沢な当て馬」「展開が楽しみ」と話題になっている。

俳優・倉悠貴の“調和”の演技

そんな岩清水というキャラクターに説得力を持たせているのが、俳優・倉悠貴の演技だ。NHK制作のドラマ『半径5メートル』では、雑誌編集部に勤める主人公の成長に寄与するキャラクター・浅田航を好演して注目を浴びた。

さらに、見上愛とW主演の映画『衝動』(2021年)では、鬱屈した感情を抱える青年・ハチを繊細かつ危うげに演じ切り、観る者の心をざわつかせた。

倉悠貴の持ち味は、過剰に感情を露出させずとも、眼差しや呼吸、立ち居振る舞いだけでキャラクターの内面を自然に伝えるところにある。決して前に出過ぎず、かといって埋もれもしない。地に足のついた演技が、物語にリアリティと厚みをもたらす。

『あんぱん』における岩清水もまた、そんな倉悠貴らしさがにじみ出る役だ。表面的には目立たず、むしろ人によっては「印象に残らない」とさえ感じるかもしれない。しかし、その実、東海林の“雑さ”を支え、のぶの“未熟さ”を受け止める、まさに調和の役回り。物語の中心に立つことはないが、彼の存在がなければ職場の空気も、のぶの成長もまったく違ったものになっていただろう。

混沌と人間味の両立

東海林のように大声で現場を引っ張るわけではないし、のぶのように夢と情熱で突き進むこともない。それでも岩清水は、すべてを斜に構えることなく、誠実に仕事に向き合い、人と関わろうとする。これは、混沌とした戦後の時代を生きる若者として、実にリアルな存在だ。どこにでもいそうで、けれど心を許せる相手にだけ見せる穏やかな人間味がある。

今後、のぶが記者として経験を重ねていくなかで、岩清水との関係性も変化していくだろう。仕事の先輩として、あるいは同じ時代を生きる仲間として、ときに支え合い、ぶつかり合うこともあるかもしれない。だがそのすべてが、のぶにとってかけがえのない記憶になるはずだ。

朝ドラ『あんぱん』は、戦後という困難な時代を背景にしながらも、一人ひとりの人生に光を当てて描く。岩清水信司という人物の、目立たないが確かな誠実さ。そして、そんな人物に説得力をもたらす倉悠貴という俳優の存在。今後ますます、その魅力に注目が集まりそうだ。


連続テレビ小説『あんぱん』毎週月曜〜土曜あさ8時放送
NHKプラスで見逃し配信中

ライター:北村有(Kitamura Yuu)
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。Twitter:@yuu_uu_