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アースデイに「スカイ ハイ ファーム」が警鐘を鳴らす食の未来。農業とファッションで紡ぐ新たな世界とは

  • 2025.4.20
「スカイ ハイ ファーム」運営メンバー。前列左が共同エグゼクティブ・ディレクターのサラ・ヴォルクネ、中央が設立者ダン・コーレン、後列右から2番目が共同エグゼクティブ・ディレクター、ジョシュ・バードフィールド。
「スカイ ハイ ファーム」運営メンバー。前列左が共同エグゼクティブ・ディレクターのサラ・ヴォルクネ、中央が設立者ダン・コーレン、後列右から2番目が共同エグゼクティブ・ディレクター、ジョシュ・バードフィールド。

米不足や異常気象による不作など、農業にまつわるニュースは生活に直結する。昨今、日本では全国の農家がその危機的状況に声を上げた「令和の百姓一揆」などが注目を集めるなか、アメリカでも農業を起点として変化を起こす人々がいる。その一つが、アーティストのダン・コーレンが2012年に設立し、ニューヨーク・マンハッタンから2時間ほどのハドソンバレーに位置する「スカイ ハイ ファームSKY HIGH FARM)」。食料主権(生産や流通の権利を、生産者や市民が取り戻すべきという考え方)のための取り組みを行っており、ここで生産される農産物の100%を食糧の危機に直面する人々を支援する地域団体などに寄付している。

現在は、共同エグゼクティブ・ディレクターのジョシュ・バードフィールドとサラ・ヴォルクネによって、生物学者や地域に根ざした研究者たちと協働しながら、土壌の健康状態、野生動物の生息地の保全と再生、水質や大気などを調査し、従来型の農業が生態系に与える影響を見直すための戦略を構築。ほかにも、リジェネラティブ農業や食料システムに関心を持つ新規就農者および希望者に向け、9カ月間の住み込みのファーム・トレーニングとメンター制度を備えた有償プログラムを用意。アメリカ国内外で、食の権利に取り組む個人や農家、団体に助成金も提供している。さらに一般に向けては、食文化や気候変動、私たちの未来について対話を促すプログラムなど、農業を通じて社会を変えるための活動を広く実施しているのだ。

そんな「スカイ ハイ ファーム」と連動するのが、「スカイ ハイ ファーム・ユニバース(SKY HIGH FARM UNIVERSE)」。同ブランドはコーレンと、コム デ ギャルソンおよびドーバー ストリート マーケットでコミュニケーションとマーケティングの責任者を務めたダフネ・シーボルドによって2022年1月に設立。ファッションビューティー、ポップカルチャーの力を活用し、より大きな変革を目指す、従来の枠組みにとらわれない新たなビジネスモデルを提案。同ブランドは、収益が上がればその50%を農場に寄付し、残りは従業員と投資家に均等に分配することを約束しており、現在までに小売店からの寄付、スポンサーシップ、スペシャルプロジェクトなどを通じて、農場に約120万USドルの寄付金を生み出している。

今回は4月22日のアースデイに合わせ、その取り組みや農業と食の未来について、ファームの共同エグゼクティブ・ディレクターであるサラ・ヴォルクネとジョシュ・バードフィールド、ブランドの共同設立者でCEOのダフネ・シーボルドとブランドディレクターのマティ・フリードマンに話を訊いた。

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経済格差や差別問題は食の不平等にも直結する

──最初に、農場をニューヨーク州のハドソンバレーに置いた理由を教えてください。

ジョシュ(以下J): ハドソンバレーとニューヨーク州は、農業が盛んな地域です。特にハドソンバレーには豊かな農業の歴史があり、さらにニューヨークの街にも近いため、ここの食料システムは地方と大都市をつなぐ架け橋となっています。シティから農場を訪れてもらい食べ物がどのように育てられているかを見てもらうなど、地元およびニューヨークの人たちに、私たちの農場とより強いつながりを持ってもらう機会を作ることが重要だと考えています。

サラ(以下S): 私にとって重要なのは、誰がどんな食べ物にアクセスできるかということです。ハドソンバレーで育てられる栄養価が高く健康的な食材の多くが、ニューヨークの街に住むより裕福なコミュニティーや消費者に送られています。非営利団体である私たちは、栄養価の高い新鮮な農産物を、ほかの方法では手に入れることができない地域住民に提供する役割を果たしています。

──特に先進国の都市部で暮らす人々にとって、食糧や農業の危機は身近に感じられないかもしれません。ニューヨークのような大都市における問題にはどのようなものがありますか。

S:ハドソンバレーで生産された多くの農産物がニューヨークに届く一方で、未だにアメリカの都市部、特にニューヨークには新鮮な食料にアクセスできない人がたくさんいます。経済的な状況によってどんなものを手に入れ食べられるのか格差が生まれてしまうことが、大きな問題だと思っています。

J:特にアメリカでは、産業としての農業システムに多くの面で捉われています。私たちがアクセスできる食料の99%を栽培する数百万エーカーの農場を2〜3社の大企業が所有しています。その結果、新鮮で環境に配慮して栽培された農産物に手が届きづらい。たとえ経済的に余裕がある人でさえ、本来なら基本的人権ともいえる“いい食べ物”のために、驚くような金額を払っています。地元で生産されたり、環境や気候に配慮された形で育てられた食べ物にアクセスできる人はほんの一部。大都市で暮らすこと自体、こうした課題と無縁ではいられないのだと思います。

S:特にコロナ渦におけるパンデミックの際に、その現実がはっきりと浮き彫りになりました。都市部を中心に全米各地で、特定の社会的および人種的グループが、食料へのアクセスにおいてはるかに脆弱な立場に置かれていたのです。

──そんなフードシステムの不平等の問題は、どの程度知られているのでしょうか。

S:2025年の今、私たちは「自分たちの食べ物がどこから来ているのか」という感覚からすら、切り離されてしまっているように感じます。そして同時に多くの人が、他者が抱える困難について考えることからも距離を置いてしまっています。だからこそ、食の不平等やその背景にある構造的な問題が、未だに広く語られていないのです。

少なくともアメリカでは、社会全体が個人主義の上に成り立っているため、「コミュニティ全体で考える」というのが難しいのです。同時に、パンデミックの際に多くの「ミューチュアルエイド(相互扶助)運動」が立ち上がり、それが今なお継続しているという事実も見逃せません。これまで見過ごされていた社会課題や格差が可視化され、ようやく人々が関心を持ち行動を始めました。

リジェネラティブ農業を広げるための多角的な取り組み

──地域の人々と結びついたリジェネラティブ農業がもっと必要だと感じる一方で、大規模で効率的な生産を目指す農業が多く、気候変動や土地や水の汚染につながっています。それらの問題を解決するリジェネラティブ農業が広がらないのはなぜでしょうか。

J:これは経済の問題でしょう。機械化された大規模なスケールの農業の方が、安いコストで済むからです。土地および流通や販売を担う市場そのものを一部の企業や個人が支配しているなら尚更。このシステムは最初から偏って設計されているとも言えます。サラの指摘にもありましたが、多くの人たちには、生産コストが高い食品により高い価格を支払う余裕はありません。そのためこの仕組みそのものを変えない限り、すぐに状況が改善されることは期待できないでしょう。

私たちの目的のひとつは、小規模で地域に根ざしたリジェネラティブ農業を支えるための新しい方法を模索することです。ただ、それもすぐに成果が出るというよりは、長期的な視点で取り組むべき課題だと考えています。

──その一環として、助成金のプログラムを行っているんですね。

J:はい。それも私たちが実際に変化を起こすために積極的に取り組んでいる方法のひとつです。さらにトレーニングプログラムもあり、人々が自分自身で食べ物を育てるための知識にアクセスできるようにすること、そのための教育の機会をつくることが重要だと考えています。

また、ハドソンバレー地域の若者支援団体とも多くの協働を行っていて、農産物に関する理解を深めたり、自分たちの手で生産に関わる機会を提供しています。つまり、「自分が食べているものがどこから来るのか」を人々が考えるきっかけをつくるため、さまざまな形で働きかけているのです。私たち自身の活動の意義を共有し、対話を通じてともに考えていける場を広げていくことが何より重要だと感じています。

──特に、BIPOCおよびLGBTQ+コミュニティを中心に助成金を提供しています。こういったコミュニティをサポートする理由を教えてください。

S:私たちは、フードシステムにアクセスしづらいコミュニティに手を差し伸べることを目的として、さまざまなプログラムを構築してきました。そのなかには食糧に困窮し、私たちの寄付を受けた人もいます。助成金プログラムでは、これまで融資や助成金を利用できなかった団体や、産業的な農業や銀行システムによって搾取されてきた人々も対象としています。その多くが、困難に直面しながらも状況を改善しようと取り組みを続けており、BIPOC(黒人、先住民、有色人種)やLGBTQIA+コミュニティはもちろん、移民や障害のある人々、女性が主導する農場や食に関するプロジェクトなど、実に多様な人々が含まれます。

今、多くの若者たちは農業に「自己決定権」や「コミュニティへの投資」という価値を見出していると思います。私が以前働いていたメイン州では、若い人たちが「かつて地域を支えていた産業が衰退した今、ここに残るためには新しい生き方を再構築する必要がある」と感じていて、農業が重要な選択肢になっていたんです。そしてそれは、有色人種コミュニティやクィアコミュニティにも共通していることだと思います。マジョリティ中心の社会から解決策を提示されない、あるいはそもそも存在を無視されてきた人々は、自分たちでその答えを見つけていく以外にない。多くの若者が農業に参入している背景には、自ら課題を解決しようとする姿勢があります。私たちがそんなコミュニティとともに支え合いながら未来を実現していくことが、これからの社会にとって重要だと考えています。

──日本において農業は政治と密接に結びついており、システムを変えるのが容易ではない場合もあります。政治的な側面ではどのようなアプローチをしていますか。

J:アメリカでは長年に渡って、農業に莫大な額の補助金が投入されてきました。本来は家族経営の農場を支援する目的で準備されているにもかかわらず、その大半は最終的に大企業の手に渡っています。前バイデン政権時代にようやく、「気候変動に配慮した農業を実践する小規模農場への資金支援が必要だ」という認識が本格的に広まり、USDA(米国農務省)主導でいくつかのプログラムが実施されました。私たちが連携している多くの小規模農家にも、実際にその資金が届いたことを確認しています。しかし残念ながら現トランプ政権においてそれらのプログラムは凍結されており、今後完全に廃止される可能性もあります。これは、私たちのローカルな食料システムに直接的な影響を与える問題であり、見過ごすことはできません。連携している団体や農家がこうした状況下で活動が立ち行かなくならないよう、私たちには新たな支援の仕組みを模索するなどの役割があると考えています。制度の変化に対して地域レベルでどう対応するか、私たち自身がその一部として動いていく必要があります。

S:世界の多くの場所で農業と政治が深く結びついている一方、まったく結びついていない部分も存在します。農業というのは国の制度や補助金と密接でありながら、長い歴史のなかでは家族や地域コミュニティを支えるための自立的な営みとして存在してきている、両面性を持っているんです。だからこそ私たちは、特にコミュニティに根ざし「自立・セルフケア・自己統治」を重視するラディカルな部分の農業に光を当て、支援していきたいと考えています。

何より大切なのは希望を持ち続けること。実際に、私たちが行っているリジェネラティブ農業のような実践は決して新しいものではなく、化学肥料や工業型農業が登場する以前から世界中に存在してきた持続可能な農業の形です。数百年の歴史を持つ知恵と実践が、今の私たちにとっての手がかりになる。私たちはそれらのモデルを参照しながら、未来に向けた農業のあり方を再構築していけると信じています。

「すべての生命が見えない形でつながっている」と知ること

──近年農業に注目が集まっており、興味を持つ若者が増えているようにも感じています。気候危機に直面し未来が不安視される今、私たち一人一人が公正なフードシステムを築くためにできることはあるのでしょうか。

S:私たちも農業出身ではありません。ジョシュは公衆衛生の分野から来ましたし、私はアートの世界にいました。最初から“農業の専門家”だったわけではなく、ほとんど何も知らなかったのです。それでも、大切だと思うことに対して行動すれば実現する方法はたくさんある、ということを私たち自身の姿を通して伝えられると思っています。

東京では「都市農業(アーバンファーミング)」がどのくらい存在しているでしょうか。アメリカで今重要になっているのは、人々が今いる場所でできる範囲で農業を始めることです。必ずしも都市を離れる必要はありません。自分たちのいる場所にどんな土地があって、そこで何ができるかを工夫する、それも立派な「農」のかたちです。先日、ブルックリンの真ん中に「フードフォレスト(食の森)」を作っている人に会いました。すごく都市的な場所であっても、創造的な解決策は可能なんだと感じましたね。自分自身で農業を始めるのが難しい場合には、すでに活動している人を支援するという選択肢もあります。それもまた、食の未来を支える大切なアクションです。

J:もし経済的もしくは時間的なリソースを持っているなら、それを地元の農家支援に使ってほしいと思います。それはただ農産物を買うというだけでなく、その農家が「誰で」「どんな想いで」「どんな方法で」作物を育てているのかを知ろうとすることが重要です。

──「スカイ ハイ ファーム」に携わるなかで感じる、ご自身の変化はありますか?

J:とても充実した経験になっています。ここで働く農家の方々から本当に多くのことを学びましたし、自分自身で調べたり読んだりするなかでも多くの気づきがありました。特に強く感じるのは、一度すべての生命が見えない形でつながっていることに気づくと世界の見え方そのものが変わる、ということです。それが最大の学びでしょう。

S:私の家族はエチオピア出身で、祖父母は農業を営んでいました。だからこうして農業に携わることで、自分のルーツと自然につながっています。またジョシュと同様、私たち自身がどこに属し、何とつながっているのかを見つめ直す経験にもなっています。それは人と人との関係性や、私たちがこの世界とどう向き合うかを変えていく視点でもあります。元々アートの世界にいた私は、農業とアートには共通する部分があると考えています。どちらも希望を持って自分が生きたいと思う世界を具体的に作り出す方法なのです。

ファッションやカルチャーを通じた変革の意義

──次に、「スカイ ハイ ファーム・ユニバース」について教えてください。

ダフネ(以下D):ダンと私は、農場が担う緊急かつ重要な使命を持続的に支えるための新たなビジネスモデルを考えるなかで、ポップカルチャーのなかで製品を作ることによって、より幅広いオーディエンスにアプローチができるのではと思いついたのです。そこで、2022年2月にドーバー ストリート マーケット パリと提携し、ワークウェアに着想を得たシーズンアパレル・コレクションを発表しました。現在では世界中に50店舗以上の卸先があり、それぞれが商品の販売を通じて農場に寄付をしています。

──その活動は、非営利団体である「スカイ ハイ ファーム」を支援できると思う一方、世界では夥しい量の服が廃棄されている現実があります。気候危機へのアクションとアパレル生産は矛盾とも捉えられますが、これについてどう考えていますか。

マティー(以下M):とても重要な指摘です。しかし現実に人々はどんな状況でも消費活動を続けますし、服も買い続けます。だからこそ私たちは、アパレルを通じたオルタナティブなアプローチを続けており、製品をつくる際にはより持続可能で廃棄の出ない手法を選択することに注力しています。例えば、リサイクル素材やデッドストックの生地を積極的に使用し、より環境負荷の少ないものづくりを目指すなどです。また、アップサイクルにも力を入れており、私たちのコレクションの出発点でもある「ヴィンテージプログラム」では、すでに世の中に存在している服に付加価値を与える(オーバープリント、堆肥染め、草木染め、泥染めなど)ことで、新たな価値を与えています。デッドストックと見なされた服に再び命を吹き込むアプローチです。

ブランドとコラボレーションをする際にも、必ずサステナビリティの視点を取り入れるようにしています。バレンシアガBALENCIAGA)とのプロジェクトでは、社員販売やアウトレットに回された後に倉庫で眠っていたデニムジャケットシャツを寄付してもらい、写真家のライアン・マッギンレーとともに農場の動物をテーマにしたグラフィックでカスタマイズの上で再構築し、ドーバー ストリート マーケット ニューヨークとLAで販売しました。しかも価格はオリジナルより安価に設定、結果的にすべて完売。新しいものを生産することなく、既存の資源を活かして再流通させた成功例です。また、ナイキNIKE)とのコラボでは、KAWSと協働しながら既存在庫を活用し、新たなアイテムを一切生産することなくカスタマイズしました。さまざまなブランドから、「サステナビリティに関する取り組みを一緒に行いたい」という声をいただいており、私たちはその実現に向けた“媒介者(パートナー)”としてストーリーを形にする役割を果たしています。

D:実は今私が履いているコンバースCONVERSE)のシューズも、デッドストックのワークウェアを解体し、アッパーを作ったアップサイクルアイテムです。コンバースにとって、このアプローチでパートナー企業と協力したのは、今回が初めての試みでした。実際に多くの大企業やブランドは、進みつづける環境配慮への要望に上手く対応するのが難しい状況に置かれています。なぜなら彼らの生産体制は非常に固定化され、柔軟性に欠けているからです。そこで私たちのように、規模が小さく身軽で柔軟な存在が間に入ることで、企業が新しいサステナブルな取り組みを試す機会を提供しています。

コラボレーションを行う際には、その企業の仕組みのなかでどうすれば私たちの目標を実現できるかを一緒に考えることから始めます。そして相手のシステムを少しずつでもより良い方向へ動かすよう働きかけていきます。伝えておきたいのは、私たちがサステナビリティの専門家ではないこと。元々はラグジュアリーブランドやアート、デザインの分野で働いていたメンバーが全員のため、よりクリエイティブな視点からこの課題に答えを出しています。ときには専門家でない立場のアプローチが、現状に疑問を投げかけたり、長くある問題に取り組む新しい方法を考案する上で、大きな力を発揮することがあるでしょう。環境や生産において“サステナビリティ”という言葉がよく使われますが、私たちはそれをもっと広く「私たちの取り組みをどのように持続可能なものにしていけるのか(ここでいう“持続可能”とは、継続的で長期的なパートナーシップの構築を指す)」という視点で捉えています。単発の取り組みに終わるのではなく、社会の喫緊の課題に取り組む人々が資金不足を心配することなく活動を継続できるような、財政的支援の仕組みを作っていきたいのです。

スーパーマーケットの「Erewhon Market」ともコラボレーションを行い、F&Bの分野にも進出。
スーパーマーケットの「Erewhon Market」ともコラボレーションを行い、F&Bの分野にも進出。

──バレンシアガやナイキ、コンバースなどと幅広くコラボレーションをされていますが、ファッション業界と協業するメリットはどういったところにありますか。

D: 重要なのは「リーチ」と「アダプション(受け入れられること)」だと考えます。消費者文化はとても多層的に存在しており、広範囲にアプローチできることはやはり強力な武器なんですよね。ファッションは人々が日常的に身に纏うものであり、意識して選ぶもの。大規模なブランドがすでに持っている活動的で熱量の高いファン層は、正確にメッセージを伝えることができれば私たちにとって大きな価値になります。

コンバースは私たちの取り組みをいち早く支持してくれ、最も広く流通しているスニーカーであるChuck70に「Feed your neighbor, Love your neighbor」というメッセージを載せて届けるコラボレーションが実現しました。それを履いた人々が街を歩くだけで、私たちの“歩く広告塔”のような存在になる。しかもただの広告ではなく、私たちのミッションに共鳴する支援者として歩いてくれるというのが、とても象徴的なんです。また、コンバースとは6部構成のドキュメンタリーも制作しました。そこでは「スカイ ハイ ファーム」の活動や農場での実践も詳しく紹介され、それをコンバースのメディアチャネルと私たち自身のネットワークの両方で発信することで、圧倒的な広がりを持たせることができました。私たちだけではとても届かなかった規模のオーディエンスにリーチできたのです。このように、ファッションとポップカルチャーの力を借りて私たちの取り組みを広め、認知を広げていく。それが、私たちの役割の一つですし、物を買うということはただの消費ではなく、目的を持ったアクションだという価値観を届けたいと考えています。

アパレル分野を越え、ビューティープロダクトのプロジェクトも開始。そのアプローチを広げている。
アパレル分野を越え、ビューティープロダクトのプロジェクトも開始。そのアプローチを広げている。

──最後に、今後の展望を教えてください。

D:従来の利益最優先の仕組みを逆転させるようなモデルを築いていきたいです。私のビジネスの捉え方には、コム デ ギャルソンとドーバー ストリート マーケットに勤めていた時代に、川久保玲さんとエイドリアン・ジョフィとともにした経験が大きく影響しています。そこにはいつも「今あるものを疑う精神」、「明確で説得力のある目的を持ってのみ行動する」という考え方がありました。私たちは、すでに世の中に存在するようなよくある“普通”のブランドとして、その歩みを始めていないのです。

何を目指しているかと聞かれれば、もちろん農場の活動のためにより多くの資金と認知を集めていくこと。ただ、私自身が本当に満足するのは、世界中のすべての人を巻き込むことができたときでしょう。今もいいスタートが切れていると思っていますが、やるべきことはまだ山ほどありますね。今回、韓国と日本を訪れるなかで、世界中にこうした取り組みに関心を持ってくれる人たちや、つながれるコミュニティがあるということがわかってきました。私たちはニューヨークを拠点とするブランドですが、そのミッションはあくまでグローバルです。農場のためはもちろんですが、同時にビジネスモデルそのものを世界中の人々と共有し、前向きな世界的インパクトを生み出したいという共通の思いで結ばれたネットワークを築いていきたいです。先日開催したドーバー ストリート マーケット 銀座でのイベントそして今回のインタビューが、私たちの活動を知ってもらう第一歩となり、これをきっかけに将来的に私たちのコミュニティの一員になってくれる人が増えることを願っています。

ジョシュ・バードフィールド

「スカイ ハイ ファーム」の共同エグゼクティブ・ディレクター。国内外の公衆衛生分野において幅広い経験を持ち、非営利、行政、学術、民間セクターを横断するかたちで、プログラム開発やリサーチなどに携わる。

サラ・ヴォルクネ

「スカイ ハイ ファーム」の共同エグゼクティブ・ディレクター。23年間にわたってオルタナティブなアート教育の現場を運営。オックスボウ・スクール・オブ・アート&アーティスト・レジデンシーや、スコーヒーガン絵画彫刻学校にて、それぞれ芸術家の育成と実験的な創作環境の構築に尽力。

ダフネ・シーボルト

ブランドの共同設立者で、CEO(最高経営責任者)兼CMO。約15年間、ドーバー ストリート マーケット ニューヨークとコム デ ギャルソンでコミュニケーションとマーケティングの責任者を務めた経験を持つ。

マティ・フリードマン

ブランド&プロダクトディレクター。ニューヨークのドーバー ストリート マーケットとコム デ ギャルソンでバイヤーとブランドマネージャーを務めた後に設立メンバーとして参画。

Photos: Courtesy of Sky High Farm Text: Kurumi Fukutsu Editor: Nanami Kobayashi

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