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主役じゃないのに目が離せない…朝ドラに“新しい風”を吹かせる注目女優とは?

  • 2025.4.19
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『あんぱん』第3週(C)NHK

NHK朝の連続テレビ小説『あんぱん』が順調な滑り出しを見せるなか、第3週「なんのために生まれて」では、主人公・朝田のぶ(今田美桜)の“パン食い競争”のエピソードが大きな話題を呼んだ。女性というだけで参加を許されなかった悔しさを乗り越え、全力で走り抜けるのぶの姿に、「ハチキンおのぶ」のあだ名通りの痛快さと、ジェンダーに対する小さな一石が描かれた印象深い回だった。

河合優実の“空気を変える”演技

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『あんぱん』第3週(C)NHK

主人公ののぶを演じる今田美桜の、透明感とはつらつさが共存している様子もさることながら、静かに、しかし確実に視聴者の注目をさらった存在がいる。のぶの妹の一人・蘭子を演じる河合優実である。

彼女が画面に映った瞬間に、何かが“変わる”のだ。セリフの量は関係ない。その場の空気が一変するような、静かな圧のようなものさえ感じる。SNS上では「誰この子?すごく惹きつけられる」「次のヒロインあるんじゃない?」といった声が早くも続出。連ドラ『不適切にもほどがある!』でお茶の間への認知度を高めた河合だが、『あんぱん』の蘭子役を通して、ふたたび「この人、何者?」という驚きをもって迎えられているようだ。

蘭子という役柄は、いまのところ物語の中心にいるわけではない。しかし、少し表情を動かしただけで、観る側に「この子は何かを抱えているのでは?」と思わせる不思議な奥行きがある。言葉を発さずとも、目線や佇まい、間の取り方でキャラクターを印象づける。こうした“語らずに語る”演技は、経験を積んだ俳優でなければ成立しにくいものだが、河合はそれを20代前半にしてやってのけてしまう。

『あんぱん』は「アンパンマン」の生みの親・やなせたかしと、その妻・小松暢をモデルにしており、温かく、ときに苦く、そして静かな芯の強さを描く作品でもある。そのなかで河合の蘭子がどう関わっていくのかはまだ未知数だが、彼女が演じることで、この“朝ドラ的世界観”にほんのり違う色が加わったことは間違いない

映画・ドラマで培ってきた確かな実力

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『あんぱん』第3週(C)NHK

河合優実という女優の名前が広く知られるようになったのは、2021年公開の映画『由宇子の天秤』や『サマーフィルムにのって』がきっかけだった。いずれも演技派の映画ファンの間で話題になり、第43回ヨコハマ映画祭最優秀新人賞など多くの賞を受賞。演技力だけでなく、その独特の佇まいと存在感で、“単なる若手”とは一線を画す存在として注目され始めた。

さらに2024年の話題作『不適切にもほどがある!』では、阿部サダヲ演じる市郎の娘・純子として登場。80年代と現代を行き来するストーリーのなかで、世代を超えての“本気のぶつかり合い”を魅せた。彼女の「目の奥に何かを抱えている」ような演技は、画面越しにも観る者にじんわりと染み入る。

NHKドラマにおいても『17才の帝国』『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』といった意欲作に次々出演。さらには映画『あんのこと』『ナミビアの砂漠』など、まったくタイプの違う作品のなかでも、それぞれの役柄に深みを与えている。

そんな河合優実の原点として見逃せないのが、初期の出演作『偽りのないhappy end』である。姉を追って東京にやってきた妹・ユウが、やがて姿をくらましてしまう……というミステリアスな展開のなかで、河合はやはり、多くを語らない演技でユウという人物像を形成している。

言葉少ない彼女の存在が、逆にその裏にある葛藤や迷い、怒りや焦りまでも観る側に想像させる。いま、あらためて見直すと、現在の河合の演技スタイルである、言葉に頼らず、表情と身体で“余白を持たせる”芝居の原型が、すでにそこにあるように感じられてならない。

“朝ドラヒロイン”の新しい形を提示するかもしれない

『あんぱん』の蘭子は、今後、主人公・のぶの人生にどのような影響を与えていくのだろうか。いまはまだ静かな登場にとどまっているが、確実に何かを運んできてくれるような気配がある。それはきっと、河合優実という女優が持つ“見えない磁力”のようなものなのかもしれない。

朝ドラのヒロイン像は、時代とともに変わってきた。明るく元気、笑顔で困難を跳ね返す……そんな理想像に変化が生まれつつあるなか、“静かだけど強い”“叫ばないけれど届く”存在が、新たな朝ドラの風景をつくっていくのではないか。その中心に、河合優実が立つ日が来るかもしれない。今作『あんぱん』で彼女が演じる蘭子の行方を見届けながら、そんな未来を想像せずにはいられない。


NHK 連続テレビ小説『あんぱん』毎週月曜〜土曜あさ8時放送
NHKプラスで見逃し配信中

ライター:北村有(Kitamura Yuu)
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。Twitter:@yuu_uu_