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“ピロリ菌の除菌”の治療を受けた58歳女性→「もう胃がんの心配はない」安心したものの…7年後、待ち受けていた“恐ろしい事態”

  • 2026.11.9
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出典元:photoAC(※画像はイメージです)

こんにちは!現役消化器内科医の喜田 凛です。

「ピロリ菌の除菌に成功したから、もう胃がんの心配はないですよね?」
「原因になる菌を退治したのに、なぜ毎年胃カメラを受けなきゃいけないんですか?」

除菌治療を終えた患者さんから、外来でこのような質問を受けことがあります。しかし、「除菌完了=胃がんリスクがゼロになった」と考えるのは危険な思い込みです。

今回は、そんな誤解から7年間検査を受けなかったものの、間一髪で早期発見に至った患者さんの経過を紹介します。

7年前の「除菌成功」で油断

58歳女性の会社員・Bさんがヘリコバクター・ピロリ菌の除菌治療を受けたのは、51歳のときでした。

処方された除菌薬を7日間きっちり服用し、2か月後に行った呼気検査で無事に「除菌成功」が確認されました。その際、当時の主治医からは以下のように念を押されていたといいます。

「除菌によって胃がんのリスクは大幅に下がりますが、完全にゼロになるわけではありません。除菌前から胃の中に潜んでいたごく小さな病変がないか確認するためにも、まずは1年後に必ず胃カメラを受けに来てくださいね」

しかし、Bさんの記憶に強く残ったのは「ピロリ菌を退治できた」という達成感と安心感だけでした。1年後の予定日が近づいても、胃の検査特有の苦しさを思い出すと億劫になり、受診を先延ばしにしてしまったのです。

それから7年間、胃の痛みや胸やけといった症状は一切ありませんでした。3年ほど前に知人から胃カメラを勧められた際も、「胃がんの原因になる菌はもうお腹にいないから大丈夫」と笑って受け流していました。

7年ぶりの検査で発覚。紹介状の画像を見て医師が抱いた強い危機感

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出典元:photoAC(※画像はイメージです)

転機が訪れたのは、自治体から届いた胃がん検診の案内でした。「50代後半になったし、たまには受けておくか」と軽い気持ちで7年ぶりに胃カメラを受けたところ、思わぬ異常が見つかります。

胃の粘膜の一部に、周囲よりわずかに赤みを帯びた、浅くへこんだ病変が確認されたのです。大きさは約12mm。経験豊富な内視鏡医でなければ見逃してしまいそうな、ごく目立たない病変でした。生検(組織検査)の結果は、やはり「胃がん」でした。

その後、精密検査と治療のために私の病院へ紹介されてきました。同封された内視鏡画像を一目見た瞬間、私は思わず「またか……」と呟いてしまいました。

周囲の粘膜との境界がぼやけ、平坦で浅くへこんでいるその姿は、私たちが臨床の現場で何度も目にしてきた「除菌後胃がん」に典型的な特徴そのものだったからです。

幸いにも病変は粘膜の浅い層にとどまっており、胃をメスで切ることなく、口からの内視鏡手術(粘膜下層剥離術など)で病変をきれいに剥離・切除できました。切除後の病理組織検査でも、がん細胞は完全に取り切れていると確認されました(治癒切除)。

しかし、もし発見があと2〜3年遅れていたら、がんは胃の壁深くへと浸潤し、お腹を切って胃の一部または大半を切り取る手術が必要になっていたはずです。

病名を知らされたとき、Bさんは「除菌に成功したのに、一体なぜ胃がんになってしまったんでしょうか……」と愕然とした表情を浮かべていました。

なぜピロリ菌を除菌しても胃がんができるのか?

Bさんのように「除菌したのに、なぜ?」と疑問に思う方は非常に多いです。その理由は、胃の粘膜がたどってきた歴史にあります。

ピロリ菌に長年感染していると、胃の粘膜は長期間にわたって慢性的な炎症に晒され続けます。その結果、胃の粘膜が薄く痩せ衰えてしまう「萎縮性胃炎(いしゅくせいいえん)」という状態に変化します。

除菌治療を行うと、これ以上炎症が悪化するのを食い止め、新しいがんが発生するリスクを大幅に下げる(約3分の1程度に減らす)ことができます。しかし、長年の感染によってすでに荒れ果ててしまった「胃の土壌(萎縮した粘膜)」が、除菌後すぐに元どおりの健康な粘膜へ若返るわけではありません。

いわば「ボヤ火事は消し止めたけれど、燃えかすが残っている状態」です。その荒れた粘膜から、除菌後何年も経ってからがんが発生することがあるのです。

さらに注意が必要なのは、ピロリ菌除菌後に発生する胃がんは、通常の胃がんに比べて早期発見が難しいという点です。

除菌を行うと胃の全体的な炎症が落ち着くため、がん病変の表面も正常な粘膜のように覆われてしまったり、平坦で浅い凹みになったりします。その結果、周囲の健康な粘膜との境界が見分けにくくなり、内視鏡の専門医であっても見つけるのに高い技術を要します。

「無症状だから」「除菌したから」と油断して検査を怠ることが、いかに危険か分かります。

除菌後はどのくらいの間隔で胃カメラを受けるべきか?

自治体などが行う一般的な対策型検診では「50歳以上で2年に1回」の胃カメラ(または胃部X線検査)が推奨されています。

しかし、ピロリ菌の除菌歴がある方は、一般的な人よりもリスクが高いため、胃粘膜の萎縮(ダメージ)の程度に応じた個別管理が望まれます。

まず除菌後1年目は、除菌前から存在していた微小な病変が炎症の沈静化によって見えてくるケースがあるため、「除菌の1年後」に必ず最初の胃カメラを受けましょう。

その後の検査間隔は、胃粘膜の萎縮度に応じて主治医と決定します。

  • 胃の萎縮が中等度〜高度に進んでいる場合: 1〜2年に1回の定期的な胃カメラ検査が推奨されます。
  • 比較的若いうちに除菌し、萎縮がほとんどない場合: 2〜3年ごとの間隔で良い場合もあります。

自分がどれくらいの間隔で受けるべきかは、除菌時の内視鏡所見や胃粘膜の状態をもとに、必ず消化器内科の主治医と相談して決定してください。

「胃カメラが苦しい・苦手」と感じる方へ

Bさんのように「検査特有の苦しさが嫌で受診を先延ばしにしてしまう」という方は非常に多いです。しかし、現在の内視鏡検査は苦痛を抑える選択肢が整っています。

点滴から鎮静剤(静脈麻酔)を用いてウトウト眠っている間に検査を終える方法や、嘔吐反射の出にくい細いスコープを鼻から通す「経鼻内視鏡」を導入している医療機関も多くあります。

また、発見が難しい除菌後胃がんを見逃さないためには、粘膜の微細な凹凸や血管を浮かび上がらせる「画像強調内視鏡(NBIやBLIなど)」や拡大内視鏡を備え、日本消化器内視鏡学会の専門医・指導医が在籍する施設を選ぶとより安心です。

医師から伝えたいこと

ピロリ菌の除菌成功は、胃がん予防における大きな一歩ですが、決して「ゴール」ではありません。むしろ、定期的な経過観察をスタートさせる「新たな始まり」です。

早期に見つけることさえできれば、Bさんのように胃を切らず、お腹に傷もつけず、内視鏡の治療だけで根治を目指せます。

苦痛を減らす工夫や検査方法も上手に取り入れながら、除菌を終えた方も「ピロリ菌を退治したから大丈夫」と過信せず、医師に勧められた間隔で定期的に胃カメラを受け続けてください。


※人物と経過は、医学的に起こり得る状況をもとに構成した架空の事例です。

執筆:喜田 凛(現役消化器内科医。日本消化器病学会専門医・指導医、日本消化器内視鏡学会専門医・指導医)

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